第7話

 目印になるような物は何もない。帝都も旧都も山々でさえ、地平線が続く先まで文字通り、干からびた大地であった。

 胸元を探り鳥笛を探す。レナームの為に作ってもらった特別製で、熱に強い石でできている。戦闘中に無くさぬように丈夫なチェーンで首から下げているのだが、ポーチと同じくどこかへ無くしてしまったようだった。

 レナームを呼ぶ彼女の声が灼熱の空に吸い込まれていく。二度、三度、繰り返し呼んでみたが例の巨大なハヤブサは現れる兆しもない。

 スカベンジャー共が地上に降り立ち羽を休める。忍耐強く待ちさえすれば確実に、食事へ有りつけるかのように、手を貸すなんて事もせず、勝手に弱って命果てるのを待っていた。

 もしも記憶が正しいならば、この乾燥地帯は帝都から見て北東部に位置するはずだ。ならばこのまま南下すれば幅広の川に、西へ向かえば街道に着くだろう。ミツキは自分の影を見て、熱波の中を歩き始めた。

 たった数歩も行かぬ内に、乾きと飢えに襲われる。水筒はポーチと共に失われ、簡易的な食料も、もちろん無くしたポーチの中だ。

 足の長いネズミが砂を蹴り、一目散に駆けていく。熱と渇きの極限地帯でありながら、生物の数があまりに多い。表面的に水は無くとも、潜在的に多くの水がある事を意味している。

 ミツキは壊れたバックラーもそのままに、サボテンの間を見て回る。不幸続きで諦めかけていたのだが、不幸も弾が尽きたようだ。楕円形をした平たい緑色の表面に、黄色く見えるほどの棘が生えた植物が生えている。ウチワサボテンと呼ばれる物で、表面に赤々とした果実がいくつもなっていた。

 ナイフを抜き、少々手荒に刈り取る。帝都内でもよく売られ、市場に出れば必ずと言って良い程置いてある。

 小学生のころに見た、果物図鑑を思い出す。ファンタジックな名前の為に、今でもはっきり覚えてる。どちらかと言えば炎のようで、ドラゴンと呼ぶには程遠い代物だった。

 バックラーをまな板代わりに、四つに切ってかぶりつく。しっかり熟していたようで、口いっぱいに甘みが広がる。果汁の一滴さえもこぼす事無く、貪るように食べつくすと二つ目、三つ目と、一瞬の内に食べつくした。

 空腹と、渇きが同時に満たされて、ミツキは大きなため息をつく。良く冷やしてから食べたのならば、もっと美味しく頂けただろうが贅沢なんて言ってられない。まずは苦痛から解放された。それだけでもう有難い。直接水は得られなくとも、こうして手に入るのならば無事に帝都へ戻れると、希望の光を見いだしていた。

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