第四部 第五十六話 心当たり
雅敏が倒れたその日、夜の帳が降りたころ、燈は宗次郎に学院内で起きている事件に関して情報を開示した。
ここ半年で意識を失った状態の生徒が複数発見されていること。どの生徒も波動が減少し、意識の低下と記憶の混濁が見られること。
そして、被害者に平民出身という共通項があったが、今日の一件でその法則性が崩れたこと。
知り合いが被害に遭っただけに宗次郎は真剣に聞いていた。このまま俺も捜査に協力させろと言ってきそうな雰囲気だったが、この一言で黙らせた。
「玄静から有力な情報提供があったの。場合によっては、波捜部を動かすわ」
「……わかった」
宗次郎はすぐに納得してくれた。学院側だけでなく、波動庁が動いているとなれば、さらに玄静がいるとなると安心できるらしい。
燈は宗次郎の部屋を後にした。
実際、玄静は素晴らしい仕事をしてくれた。被害者のリスト及び症状、捜査状況を伝えてから2週間。波動犯罪捜査部の情報網と六大貴族の地位をフル活用し、被害者に共通する事柄を割り出した。
それから現状抱えている問題点についてと、さらには犯人の目星を。
━━━デジャヴね。なんの因果なんだか。
玄静から送られてきたメールをみて嘆息する燈は、舞友の部屋をノックした。
「私よ」
「どうぞ」
舞友の返事を受けて部屋に入る。
寝巻の舞友は椅子に座っていた。机の上には問題集。期末試験は生徒会メンバーであっても気を抜けない相手だ。
「勉強中ごめんなさい。いいかしら」
「もちろん。ちょうど休憩しようとしてたから」
「ありがと。ちょっと込み入った話をしたいの」
燈は舞が明けてくれたベッドに腰を下ろす。
「例の件について、ですよね」
「そうよ。進捗はどうだった?」
阿波連雅敏が被害に遭ったことで、こんかいの事故に関して記入会議が開かれたのだ。
「芳しくありません。振出しに戻って地道に活動する、としか決まりませんでした」
無理からぬことだと燈は思った。
今まで平民ばかりが犠牲になっていたため、貴族の犯行だと考えられていた。それが今日になって貴族の被害者が出た。それも六大貴族、阿波連家のご子息ときている。
今までの被害者との共通項は今のところ発見できず。周辺人物にも聞き取り調査を行っているが、有力な情報は得られそうにない。
「そう落ち込まないで。実はこの案件、私のほうで波捜部に協力してもらってるの」
「え?」
目を見開く舞友。
「気にしないで。学院側だけで対処が難しいと私が独断で判断しただけよ。で、これがその結果ね」
燈は自身の端末を手渡すと、舞友は玄静からのメールに目を通した。
最初は真剣な、それから怪訝な顔つきになり、やがて感心しだした。
玄静の報告書は実に的確だ。被害者の共通項から犯人の目星に至るまで、実に巧みに記載されている。
「私が注目したのは、ここ」
一緒に画面を見ていた燈はあるところで止めた。
それは、生徒会もしくは風紀委員のなかに犯人がいる可能性について。
三塔学院において事件の対処は迅速に行われる。風紀委員と生徒会はそれだけ優秀なのだ。なのに、今回は教師まで動員しているにもかかわらず解決まで時間がかかっている。
となると、こちら側の動きはすべて筒抜けであると考えられると玄静は警告してきた。
以前同じようなケースで死にかけた燈としては無視できない可能性だった。
「舞友。あなたにお願いがあるの」
「……わかりました」
「察しが良くて助かるわ」
身内に裏切り者がいるかもしれない可能性、そして被害者の共通項。それらの要素
を統合した結果、舞友は事件を解決するカギを握っているのだ。
「ごめんなさい。つらい役割を押し付けてしまって」
「いえ、大丈夫です。それよりも……」
ゆっくりとうなずく舞友の表情はつらそうだった。
その理由が自分が押し付けた役目にあると思っていた燈は、少し時間が経ってそれが間違いであると気づいた。
「舞友?」
「燈、もしかしたら━━━私、犯人を知っているかもしれません」
「!」
燈に電流が走る。
舞友に心当たりがあるということは、犯人は生徒会のメンバーなのか。
━━━だとしたら、厄介ね。
捜査にあたっている風紀委員もしくは生徒会メンバーはそれぞれ精鋭が抜擢されているが、中でも格上なのは生徒会メンバーの方だ。
「燈、この案件、一度だけ私に任せてもらえませんか?」
「舞友?」
「犯人に心当たりはありますが、動機が全くわからないんです。あくまで憶測の域を出ませんから、間違っている可能性もあります。私に確かめさせてください」
「……わかったわ。状況は随時報告してね」
舞友の推察が当たっていて、かつ舞友に正体がばれたと勘づかれた場合、犯人は舞友の口を封じようとするだろう。今までのように波動が失われ、記憶が混濁するならまだいい。
死人に口なし。命を奪おうとすることだってあり得る。
「もちろんです」
「ちなみに、心当たりがある人物って?」
「それは━━━」
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