第四部 第四十七話 二人並んで
久しぶりに二人きりで出かけた宗次郎と燈は目一杯体育祭を楽しんだ。
出店で簡単な料理を食べたり、観戦する競技を選ぶために二人でプログラム表をのぞき込んだり、普段はバスで通る道を適当に歩いたり。
競技が行われる訓練区画は人でごった返していた。一般にも学院が公開されるため、外部からの観客も多い。おかげで宗次郎も燈も目立たずに観戦ができた。
「それにしても、意外ね」
「何が?」
「あんな地味な競技を見たがるなんて」
競技が終わり、訓練場から出たあと、傘をさしてから燈はつぶやいた。
「人込み、あんま好きじゃないだろ」
宗次郎も日差しをよけるため燈と同じ傘に入る。
大人数でなおかつ時間がかかる競技は訓練区画において三つしか存在しない大規模訓練場で行われる。見応えもあるので観客の多くもそちらに集まるが、宗次郎がいたのは中規模訓練場。行われるのは点数もさほど多くない、目立たない競技だ。
今回観戦したのは波動球体操作と呼ばれる競技だ。フィールドには三人一組のチームが四つ、円を描くように四方に配置される。中央には波動に反応する金属の球体が二百個置かれていて、それらの支配権をチームで争い合う。
制限時間は五分。三本勝負だ。球体は属性を問わず反応するため、三人が効率よく球体に波動を送り込む必要がある。波動のコントロールとチームワーク、そして戦略がものをいう競技だった。
「それに、知り合いが出てたからさ。やっぱ見ておきたいなって」
「知り合い?」
「前に話したろ? 鏡たちさ」
鏡、美緒、宏の三人は運よく同じ班となり、波動球体操作ではチームを組んで参戦していた。波動の総量は多くないながらも抜群のチームワークで見事勝利していた。
「いい動きをしていたわね。成長したら部下に欲しいくらい」
「伝えとくよ。きっと喜ぶ」
十二神将からのお墨付きとあれば話題にぴったりだ。ねぎらいの言葉としてこれ以上のものはないだろう。
ブラブラと通りを歩きながら、宗次郎はふとこぼした。
「なんか、こうやって出歩くと新鮮だ」
「たまにはいいんじゃないかしら。最近は勉強と部活ばっかりだったものね」
「だな。そういえば、どうして燈は反対しなかったんだ? 俺が体育祭に参加するの」
舞友は露骨に嫌そうな顔をしていたのに、燈はたいして気にしている風でもなく、いいんじゃないとあっさりしていた。
「たまには息抜きも必要でしょ。正直、宗次郎の成長速度には目を見張るものがあるわ」
「そんなにか?」
「そうよ。来て二か月とは思えないくらい」
「効率よく教えてもらっているからさ。あとは━━━」
宗次郎は歯切れ悪くしながら視線をそらした。
「まぁ、自習するときにちょっとしたズルを」
「ズル?」
「俺の波動術を使って、時間をちょいとね」
宗次郎は頭を掻いた。
自習は主に宗次郎の部屋で行っている。その間、宗次郎は波動術を使って部屋に流れる時間を著しく遅らせているのだ。
空間の波動を使って、自分の部屋の中の時間軸を切り取り、時間の波動で操作する。部屋の中だけ、それも一、二時間の間なので波動の消費量は抑えられる。むしろ鍛錬の時間減った分、こうして波動術を使っていないと勘が鈍るのだ。
宗次郎の成績が伸びた理由は、純粋に使える時間が他よりも多かったからだ。
「そういうことね……ま、いいんじゃないかしら。卒業テストでやったら間違いなく退学でしょうけど、自主学習なら」
「だよな。あ、時間といえば」
時計を見ると、時間は午後二時を指していた。
「そろそろ会場に行かないと」
「あぁ、解説するんだっけ」
「そう」
宗次郎は緊張気味に答える。
競技の解説なんて初めてするし、そもそも宗次郎自身はその競技をやったことがない。うまくコメントを残せるかどうか、自信はあまりない。
「私も観戦する予定よ。頑張って」
「……おう」
燈に励まされると身体に力が漲ってくる。
その熱量のまま、宗次郎は会場へと急いだ。
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