第三部 第二十三話 嵐が過ぎ去って
祝宴が行われた日から一日が経過した。
抜け出した後、宗次郎と玄静は気持ちを落ち着かせて祝宴の席に戻った。時刻も終了間際だったこともあり、王族たちもおらず、残っていた貴族たちとあいさつをして解散した。
正直なところ、柳哉と出会って以降のことはよく覚えていなかった。
一日空けたおかげでどうにか気持ちは落ち着いたが、また柳哉とあっても冷静でいられるかどうか自信がない。
元気よく目覚めた昨日の朝がまるで嘘のように、宗次郎は元気がなかった。
初対面の貴族たち、王族たちと顔を合わせる。その分だけ着飾ったり、自分をよく見せる必要がある。
正直、皐月杯で戦うよりもずっと疲れていた。
唯一の救いは、今日会うのが十二神将である点だ。
今日顔を合わせるのは、十二神将。国王より最強と認められた波動師たちの集まりだ。
この制度の下になったのも、初代国王である皇大地の下に集った波動師たちがもとになっている。
当時は妖との戦争中だったため強さに主眼が置かれていたが、現在は最強というよりは優秀さに重きを置いている。なので、中には波動研究の第一人者であったり、波動の流れを視覚できる特別な道術を持つ者なども選ばれている。
いずれにせよ、彼らが常人離れした波動師であることに変わりはない。実力と相まって地位が高く、発言力が強いものも多い。
唯一の例外を除いて。
十二神将の第一神将は、実力に関係なく、現国王の剣が選ばれる仕組みになっているのだ。
つまり大臣である阿路刹羅も十二神将に名を連ねているのだ。
その十二神将が集まる会議の名は、神将会議。
普段は情報共有を目的とした定例報告が主な内容だが、今回は違う。
内容はずばり、穂積宗次郎の扱いについて、だ。
燈の剣になる。天斬剣の持ち主として国王からの認可も下りた。
逆に、それ以外のことは何も決まっていない。燈は宗次郎を対天部に入れるつもりらしいが、どうなるかは終わってみなければわからないのだ。
━━━まぁ、なるようになるだろう。
当の本人である宗次郎に、そこまでの不安はなかった。不安よりも、十二神将に会える喜びのほうが大きかった。
数か月前に最年少で選ばれた燈や、宗次郎の師匠である引地鮎。十二神将に名を連ねている波動師は一癖も二癖もあるが、実力はずぬけて高い。
一つだけ、例外はあるのだが。
千年前も優秀な波動師と鎬を削りあい、互いの実力を認め合ったものだ。現代の英雄とも言うべき十二神将と出会えるとあって、宗次郎は期待に胸を膨らませる。
だが、
「おはよう。燈」
「……えぇ、おはよう」
朝の支度を終えて部屋を出ると、すぐそばに燈がいた。背後から声をかけた宗次郎はすぐに違和感に気づく。
━━━寒っ!
視線も、発言も、雰囲気も。およそ態度と呼べるものに拒絶の意思を感じる。
その意志は波動にも影響し、燈の属性である氷が周囲の大気を凍てつかせていた。
「今日は神将会議に出るんだよな」
「そうよ」
「……」
「……」
沈黙。会話が続かない。
━━━俺、何かしたか?
心当たりのない宗次郎は疑問符を浮かべるばかりだ。
「宗次郎」
「お、おう」
「用がないなら一人にしてもらえる?」
「……わかった」
すたすたと歩き去る燈を、宗次郎は見送るしかなかった。
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