第三部 第十一話 国王との謁見 その4
「では最後に、穂積宗次郎。前へ」
「……御意」
油断しきっていた宗次郎は、燈や玄静よりワンテンポ遅れて反応する。
━━━や、やべ。やっぱ緊張する。
謁見の間に入ってからはそうでもなかったのに、いまになって体が強張る。まっすぐ国王の下に向かっているかどうか自分でも怪しいくらいだ。
場がシンと静まりかえっているのがかえって怖い。背後にいる群臣たちの視線が自分の背中にバンバン突き刺さっていると肌で感じる。
「はっはっは、緊張しておりますなぁ」
「顔も固まっておるぞ」
ワハハハハと小さい笑いが起きる中、宗次郎の体はちっともいうことを聞いてくれない。こうなるだろうと分かっていたから燈と何回か練習をしたのだが、さっぱり意味がなかった。
唯一の救いは、目の前にいる国王がとても優しい目をしていることだ。
「そう緊張せずとも良いぞ、宗次郎殿」
「申し訳ありません」
流暢に出てくるのは、謝罪の言葉だけだった。
━━━落ち着け。
国王が目の前に立ったところで、宗次郎は大きく息を吸い込み、吐き出した。
緊張するのも、恥ずかしがるのも、全てはあと。
━━━俺は燈の剣になるんだ。
幼い頃に交わした約束を守る。そのためにも、今は堂々とたたずむ。
「天斬剣強奪の折には記憶と波動を失いながらも皇燈第八神将に忠義を尽くし、天主極楽教の企みを阻止した。皐月杯においては全ての戦いにおいて強敵と真っ向から戦い、その武勇を示した。妖の乱入においては市民の避難まで時間を稼ぎ、見事に妖を討伐した。天斬剣の持ち主に相応しい活躍であるといえよう」
国王が今までで一番大きな声で、宗次郎の功績を讃える。
「故に宗次郎には特別大功を授ける」
「ありがたく」
宗次郎は片膝をつき、両手を掲げて国王から短刀を受け取る。
「穂積家は爵位を一つ昇級し、林柚の地を与える。宗次郎個人には金五十封及び、国宝である天斬剣の所有権を与える」
おおおと群臣たちから歓声が上がる。
常識に疎い宗次郎でも、自分に与えられた褒美が燈や玄静より多いとわかる。
━━━ま、燈は王族で、玄静は六大貴族だしな……。
なんの立場もない宗次郎を憐れんでか。それともシオンから娘を助けてくれた感謝のつもりか。とにかく多くの褒美をもらった宗次郎。
通常なら喜ぶべきところだが、正直、宗次郎にとってはあまり嬉しくない。
爵位が上がっても、領地が増えても。穂積家の当主が妹の舞衣である以上、宗次郎にとって直接的な関係はない。
まして天斬剣の所有権などと言われても、元は初代王の剣である宗次郎のものだ。
「他に何か望むものはあるか?」
金五十封が一番嬉しいかなと思っていたら、燈や玄静と同じく国王直々に褒美の話が来た。
━━━いよいよか。
宗次郎は生唾を飲み込みながら、玉座の奥に位置する襖に視線を移した。
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