第二部 第六話 幕間
皇王国では罪を犯し、
拘置所は各都市に設置され、基本的には八咫烏が駐在する
「っ……」
「こら。ちゃんと監視をしないか」
つい最近配属された新人がある独房の前を足早に通り過ぎたため、先輩の八咫烏から叱責が飛ぶ。
「すみません。でも、あそこにいる男、怖いんですよ。なんというか、目がイっちゃってるじゃないですか。差し出された食事にも手を付けないし」
「……なるほどな」
先輩は新人をそれ以上叱ることなく、あきらめと悲しみが入り混じった視線を独房へ向けた。
「栄枯盛衰、ということなのだろうな」
「?」
「そうか。お前はこの町に来て間もなかったな」
「有名人なんですか?」
「この町ではな。さ、巡回は終わりだ。飯でも食いに行こう」
「はい!」
元気よく返事をした新人は先輩の後をついていきつつも、例の独房が気になっていた。
その独房の中には、一人の男が鎖につながれている。
「フゥー、フゥー、フゥー」
年齢は四十前後に見える。息は荒く、体中に汗が浮かんでいる。髪と髭がぼさぼさに伸びきっていて、目は血走り口からはよだれが垂れている。新人八咫烏の言うとおり尋常ではなく、とても有名人には見えない風体をしていた。
太陽の光も月明りも入らない独房の中で、男は過去の栄光に浸る。
より大きく、より強く。己を鍛えた日々。
波動に目覚め、三塔学院に入学して級友と過ごした青春時代。
爆発したかのような大歓声と連呼される自分の名前を聞きながら、目の前の相手と武を競い合う闘いの数々。
そして、勝利の美酒に酔いしれた自分を笑顔で迎えてくれる大切な存在。
「ウ! グゥアワ!」
突如体に激痛が走り、獣のような悲鳴を上げて体をよじらせる。
視界が
━━━まだ。まだだ。
男は必死に自身の症状を抑えつつ、思考を未来へ向ける。
━━━そうだ。来るべきときが来るまでは耐えるのだ。
自分の都合のよい未来を想像し、男から醜悪な笑みがこぼれた。
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