第一部 第三話 無能な青年と無情な姫 その3
「すごいなぁ」
画面を食い入るように見つめながら、宗次郎は独り言を
「素晴らしい一撃だ」
「ああ、さすがは国王の
気づけばテレビを見ていた通行人が全員、宗次郎のように画面に釘付けになっていた。
妖が引き起こす災害は年に数件。故にテレビ中継で放送されるとつい娯楽感覚で見てしまうのだった。
「宗次郎くん、移動しましょうか」
「ええ」
テレビの映像が取材者へと対象が切り変わったこともあり、見物客がテレビの前から離れ始める。合わせて二人も目的地である
「どうでした? 今の映像は」
「本で読むのとは臨場感が違いますね。現代にも英雄はいるんだなって実感しました」
「そうですね。初代王の剣を含め、波動師は皆の憧れですから。妖に最後のトドメを刺した男性。彼は十二神将の一人です。覚えていますか?」
「ええと、確か最強の波動術師ですよね」
宗次郎は門から習った内容を思い出す。
黒い羽織の背中に刻まれた数字は、国王直属の波動師にして最強の精鋭集団・十二神将の一員である証。超一流のエリートである彼らの活躍が見れる機会など滅多にない。
「そういえば、最近、新しい構成員が増えたってニュースでやってましたね」
「ええ。第二王女殿下が選ばれました。彼女をご存知ですか?」
「いえ、知りません」
十二神将に選ばれた際のニュースは、途中でテレビを切ってしまった。最後まで見ていればその姿は映っていたかも知れない。
「噂によると、恐ろしいほど剣の腕が立つそうですよ。歳は一八という若さながら決闘で常勝無敗。二ヶ月前の作戦では指揮をとられ、みごと反抗勢力の首領を討ち取ったそうです。その功績を称えられ最年少で十二神将に選ばれ、”
「へえー」
実感のわかない話に宗次郎の返事も合わせて軽いものになる。
自分より歳若い女子が刀を振り、部隊を率いて戦っている。なんだか遠い世界のお話のように感じられた。同じ国、同じ大陸で暮らしているとは思えなかった。
「なんという名前なのですか」
「
美しい女性と聞いて宗次郎は興味が湧いたが、門は女性の容姿をけなしたことはない。道場にくる母親たち全員に美しいと言っていることを考えると、信ぴょう性に欠けた。
二人は小道を抜け、ひらけた通りに出る。幹線道路ほどではないが人は多く賑わっていた。通りの先には真っ赤な鳥居が立ち、その奥には気が滅入りそうなほど長い階段がそびえ立っている。
「あれを登るのか……」
「まあまあ。気を落とさずに」
鳥居を潜り、門番のように佇む狛犬の横を通り抜ける。百段近くある階段は
遥か昔に石を積み上げられて作られた階段は、最新技術で作られたそれと違い表面がでこぼこしている。おまけに一段ごとに高さが違う。足元をよく見ながら進まないとうっかり転んでしまいそうだ。半分ほどの高さまで来たところで宗次郎は集中力が切れてしまった。
このまま登り続けたら気が滅入りそうだ。宗次郎はさらに質問をぶつけることにした。
「そういえば、なんでこの神社に初代王の剣が使った刀が祀られているんです? 国にとって大切なものは首都に保管されているのでは?」
宗次郎の疑問はもっともだ。建国史に登場する波動具はどれも国宝に指定されている。実際にこの神社にある刀以外のものは首都にある王城に保管されており、図面でしか見ることは叶わない。
なのに、建国を語る上で欠かせない国宝が神社に祀られているのは違和感があった。
「それはですね、『王国記』によると、二人が最初に出会った場所がこの市とされているからです。ゆえに初代国王は、
宗次郎の先頭を進む門は顔色ひとつ変わっていない。息が切れかけている宗次郎と違い、剣術を教えているだけあって体力には自信があるようだ。
「その
「普通は無理ですよ。ただ私は神主さんと仲が良いので」
「……また女性ですか」
「いいじゃないですか。最近新しい巫女さんがきたらしく、これまた美人らしいですよ。宗次郎くんも挨拶しに行きましょう」
ニコニコと、本当に嬉しそうに笑う門に対して、宗次郎は苦笑いだ。頼むからうちの道場でつまらない諍いを起こさないでほしい。そう願った。
こうして、なんだかんだ話しているうちに階段を登り終え、神社に到着した。
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