◆富田林12◆ お姉さま良いキャラ過ぎる!
「わかってるわよ」
メイクやら甘めワンピなんてワードを出した瞬間、小暮の声が曇ったのには気付いていた。ショックよね、そりゃ。ずっとあのキャラで来てるんだろうし、いきなり180度違うキャラになれって言われたらそりゃあショックよ。そうね、あたしで言うところの、髪をツーブロックにしてスーツ着る感じかしら。……っと、それは一旦置いといて。
「小暮、よくお聞き」
『んだよ』
「ギャップを狙うの」
『はぁ?』
「あたし、あんたのそのキャラは大いに使えると見てるわ」
『そうなのか?』
「そうよ。良いじゃない、オレっ
『そりゃどーも。でも、可愛いなんて身内以外に言われたことねぇぞ』
「そういう『可愛い』とは違うのよ。とにかくね、相手はもうアンタがそのキャラだって知ってんだから、いきなり路線変更したら心臓に悪いに決まってるでしょ」
『確かに。でもじゃあ何なんだ? そのメイクだの何だのって』
「一番はね、あたしがまずアンタの可能性を探っておきたいのよね」
『可能性?』
そう、まぁ純粋に好奇心と言っても良いかもしれないけど。だって、絶対化けるのよ、この子! 本人、顔が良いのは自覚してるっぽいけど、あのね、化粧映えも絶対するの。あたしにはわかる!
「いざって時にどれくらい化けるのか、っていう可能性を見ておきたいってわけ。『自信』とか『切り札』と言い換えても良いわ。もちろん、通常はいまのキャラで良いんだけど、その『いざ』って時にチラつかせると効くのよ! チラッとで良いの! ふとした時にチラッと垣間見えるかすかな『女子み』! むしろそれで良いの! こういうのはね、ギラつかせると逆に下品なの! というわけで、アンタのポテンシャルを正しく知っておきたいのよ」
『成る程。よくわからねぇけど、千秋が言うんならそうなんだろうな』
ここでストンと納得出来るのすごいと思うわ。この子の一番の魅力ってこの素直さなんじゃないかしら、ってくらい。
とにもかくにも、明後日、小暮の家に行くことになった。小暮の家というのは、つまりはハマナス書房。あそこの二階が小暮の家だ。
その日。
木綿ちゃんに部活を休む旨を伝えたあたしは、学校が終わった後で一旦帰宅し、玄関にまとめてあった荷物を持ってハマナス書房に急いだ。あっ、ちなみにやっぱりあの後は普通に映画をもう一本観て解散したらしい。手くらいは繋いだと思いたいけど、まさかまた握手じゃないでしょうね。ちょっともう、選挙じゃないのよ?
「あの、すみません」
「はい、いらっしゃいませ。――あら」
レジカウンターにいたお姉さまに声をかける。だってこれだけ大きな鞄を持ってた人間が店内をうろついてるのは怪しいだけですもの。だから、予め事情を話しておいた方が良いと思ったのよね。
「あおちゃんと貴文君のお友達ね? えーっと富田林君だったかしら」
貴文――つまり、柘植のことだ。あたし達って果たして友達のカテゴリで良いのかしら、とも思ったりしたけど、一応そういうことで良いだろう。
「そうです。すみません、
今日遊ぶ約束してて、と荷物を軽く上げて見せる。すると、
「それじゃ、お店の中で待たせてもらってもよろしいですか?」
「もちろんよ。ゆっくりしてって。もしその荷物、重いようなら
と、自分の足元を差す。
邪魔になるのでは、とも思ったけど、こんな大きな鞄を持ってウロウロする方が他のお客さんの迷惑よね。そう思い直して、御厚意に甘えさせていただく。
よいしょ、と受取ってカウンターの向こう側に下ろしつつ、藤子さんは「あの、ちょっとだけ聞いても良いかしら」とあたしを見た。何かしら。この髪が気になるとか? 実は結構多いのよね、何で伸ばしてるのって聞いてくる人。まぁ主に年配の人だけど。それともこのオネエ言葉かしら?
「何でしょうか」
「あの、ウチのあおちゃんがご迷惑おかけしてない?」
「えっ? 全然」
あまりにも意外な質問に、思わず反射的にそう答える。顔の前で手をパタパタと振るおまけつきで。
「ほんと? 良かったぁ。あの子、ちょっと言葉遣いも乱暴だし、がさつなところがあるから心配してたの。でもね、根は素直だし、良い子なの。それにね、姉の私が言うのも何だけど、とっても可愛いのよ」
「わかりますわ、お姉さま。あたしも確かに言動については少々気になるところはありますけど、最近じゃあそれも込みで可愛く見えて来たというか」
「本当!? わかる? わかってくれる?! あの可愛さ!」
余程妹のことが可愛いのだろう、同志を増やせそうだという期待でか、お姉さまはその大きな目をキラキラと輝かせている。
「ええ。なんていうか、大型犬にも臆せずに立ち向かう元気な小型犬的可愛さというか」
「あらっ、うまいこと言うのね、富田林君。言われてみれば確かにあおちゃんってそういうところあるわぁ。うん、あおちゃんは小型犬――チワワね。でも、本人は自分のことドーベルマンだと思ってそうだけど」
「やだ! わかります! あの子、しゅっとしててカッコいいのは事実ですもんね! オレっ娘として完璧すぎるんですよ」
「そうなのよ! お姉ちゃんとしては、ちょっとは女の子っぽくなってほしい気持ちもあるんだけど、オレっ娘としての完成度が高くて困っちゃうの! ちょっともう、何、富田林君、あなた何者!?」
「ただの友人ですわ、お姉さま」
「ここまで完璧に見抜くなんて、絶対にただ者じゃないわよ。お姉さまなんて堅苦しいのは抜き。藤子って呼んで」
「わかりましたわ、藤子さん。あたしのこともどうぞご自由に。富田林でも、千秋でも」
ちょっともう何、思いがけず意気投合しちゃったわよ。小暮のお姉さまがまさかこんなキャラだったなんて。
じゃあ千秋君って呼ばせてもらうね、なんて言って、藤子さんは、胸に手を当て、ホッとしたように息を吐いた。
「でも良かった。あおちゃんってば貴文君と学校が別々になってから、ずっと寂しそうだったの。元々あんまり女子とつるまないタイプっていうか、男友達と一緒にいた方が気が楽みたいでね」
そう言って、手元の書類に視線を落としつつ、ちょっと淋しげに笑う。
「小学校まではまだ女子とか男子とかそういうの無しにワイワイ出来たみたいなんだけど、中学に入ると、そういうのってちょっと意識しちゃうじゃない? 思春期だし。それで、いくらボーイッシュっていっても女子は女子だってことで離れてっちゃうお友達もいたのよね。それで、残ったのは、貴文君だけだったの。だけど高校は離れちゃったじゃない? それなのに、いまでもちょくちょく遊びに来てくれるのよね」
でも、彼女出来ちゃったものね、と顔を上げる。その藤子さんの顔を見て、もしかして、やっぱり小暮の方は柘植のことが好きだったりしたんじゃないかしらと、どきりとする。
「あっ、でもね。貴文君のことはもう完ッ全にただの男友達っていうかね? 親友だから、彼女が出来たって聞いた時も、それはそれは喜んでたのよ。やっとアイツにも春が来たか、なんてすごく嬉しそうでね」
「そうなんですね」
「でもそうは言っても、彼女持ちの男の子をいままで通り部屋には上げられないじゃない? 本人達は気にしなくても、彼女さんは嫌でしょう?」
「一般的にはそうでしょうね」
まぁ、木綿ちゃんの場合は気にしなさそうだけど……。いや、そういう時は気にして良いのよ、木綿ちゃん!
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