第3話 友達は基本同類。寧ろ同類しか友達になれないから


「陽太。昨日の阿南の配信見たか?」

「おい今、部活中なんだけど……」

「まあ、多分、お前のことだから見てると思うけど」


 確定してんのかい。

 いや、見てないって言う方が話難しいんだけどさ。


「やっと妹出たよな」

「まあ、うん。そうだなー」


 やっぱ、その話だよな。

 いや、わかるよ。俺もただの視聴者だったら多分、その話してた。


「金髪、サイドの吊り目で俺っ娘。これで推さない理由がないわ」

「うん、そうだな」


 お前の目の前に、中の人いるよ。いるんだよ。いちゃうんだよ。

 絶対言わないけどな。

 馬鹿だろ、本当に。友達に推されてるとか、しかもガワが美少女だとか恥でしかない。俺、男なのに。


 なんて考えてると、俺の番が回ってくる。

 よいしょっと。


「あでっ……!」


 な、なんだ?

 何が起きた。


「陽太、大丈夫かー?」

「おう、平気平気」


 何でか分からんけどずっこけた。偶にあるんだよな何もないところですっ転ぶとか。病気か、俺。

 いや、病気じゃないし。至って健康よ。


「陽太、靴、それ大丈夫か?」

「あ?」


 大丈夫ってなんだよ。

 そんな大変なことになって……。


「oh……。こりゃあ、新しいの買わなきゃダメだわ」


 なってたね。

 ベロンベロンだわ。

 てか、すごい壊れ方したな。底が剥がれてんぞ、これ。


「で、いつ買いに行くんだ?」

「あー、出来るだけ早く買わなきゃダメだよな。だとしても次の休みかね?」


 シューズとか割と馬鹿にならない値段するんだよな。別に俺そこまでガチでやってるわけじゃないんだけど。

 でも、シューズは高い奴の方がどう考えても良いからな。こう、履き心地がどうやっても違うんだよ。

 違うよ、別に安いやつに恨みとかないから。安いやつ使って先輩に馬鹿にされた経験とか別にないから。


「ついでにサポーターとか買ったら良いんじゃね?」

「馬鹿言うな。何でもっと金使わなきゃならねーんだよ」

「お前、スタメンだよな?」

「関係ないからな?」


 スタメンイコール金使うじゃないんだよ。金使えばうまいわけでもないから。

 レギュラーとかどうでもいいし。スタメン入りしてるのも俺としてはどうでもいい。別に勝てるチームじゃないし。


 早く休みになんないかな。部活の後に買いに行くのは割と、かなり面倒くさい。

 いや、休みの日にわざわざ、外出るのも嫌だけどさ。


「ちょっと靴履き替えてくる」


 流石に剥がれかけの靴底がビッタンビッタンしてたら気になって仕方ないでしょ。

 それよりだったら多少重いけど、学校の靴の方が何倍もマシだ。あれも一応は運動できる用の靴だから。


「これと同じシューズあったら良いんだよ……」


 たぶん、ないけど。

 シューズとか店に出てるのガンガン変わってくし。欲しいと思ったシューズはサイズ合わないし。


「うしっ、まずはこれで……」


 学校指定シューズに履き替えて、体育館に戻る。

 取り敢えずはこれで大丈夫だろ。


「さー!」


 掛け声が聞こえて、俺も気合を入れる。

 取り敢えず、今日も頑張るか。

 

 

 

 

「陽太」

「あ、樋泉ひいずみ。サイダーいるか?」

「え? 何? 珍しいじゃん。お前がジュース奢ってくれんの」

「いや、別に珍しくないだろ」


 え、俺ってそんなにジュースとか奢ったりしてないっけ。


「いや、俺たかられることあったけど、お前になんか貰うの中々なかったんだけど」


 いやー、記憶にないな。


「ほらよ」


 俺は既に二本持っていたうちの片方を投げ渡す。

 部活終わりはね、やっぱりサイダーだよ。シュワっとして爽快なんだよ。


「おま、炭酸振んなよ!」


 俺がサイダーを飲みながら樋泉を見ていれば、ビクビクしながら少しずつキャップを開いていく。

 プシッ、プシュッ。

 そんな音がする度にビビってやがる。

 安全に開けられたようでようやくサイダーを口に運ぶ。


「で、陽太。阿南の配信見たろ」

「なあ、それ部活中にも言ってたよな」

「馬鹿。何度も言うくらい良かったってことだよ。それを共有したいってのも普通のことだって」

「そうなんか?」

「ああ、阿南もいいけど、北乃もいいなって。あの姉妹はいいなぁ」


 その中身どっちも男なんだよなぁ。

 なんか騙してるような感じがして、複雑な感覚だが俺としても絶対にバレたくないし。


「まあ、程々にしとけよ?」


 程々に頑張って、再生数とか増やしてくれ。そしたら、俺の金になる。頼むぜ、ダチ公。俺は信じてるからな、お前の事を。


「俺、学生ぞ?」

「たしかに。大人にならなきゃできないこともあるし」

「そうだっての。ウチの学校、バイト禁止だし」


 だから金銭的な面では大人に頼り切るしかない。子供が自分の手で何かがしたくとも大人の力は必要不可欠。


「くっそ。大人の財力が羨ましい」


 グッズとかスーパーチャットとかも。学生にはできない大人の特権のような感覚。

 大人になればきっと自由かもしれないし。だから、樋泉も大人に憧れているんだろう。

 諭吉は流石に自販機には通らなかったよ。

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