episode283 共存派と至上派
「こちらが欲しいのは至上派についての情報だ」
至上派が今回のイベントに関わって来る可能性が高いと見ているからな。何か役に立つかもしれないので、予定通りにその情報を聞いてみることにする。
「分かりました。至上派についてはどの程度知っていますか?」
「共存派とは反対の派閥となる、他の種族を排斥している至上主義の派閥だということは聞いている」
おおよそどんなものなのかは知っているが、俺が知っているのはその程度だからな。こちらが知っている情報を伝えた上で、情報を求める。
「なるほど、そうですか。では、まずは至上派が誕生することになった経緯を話しましょうか」
「ああ、頼んだ」
「まず確認しておきますが、神代戦争のことは知っていますか?」
「ああ。詳細までは知らないが、そのような出来事があったということは知っているぞ」
流石に詳しいことまでは知らないが、そのような出来事があったことは知っているからな。
どの程度の情報を持っているかは開示しながら話した方がスムーズに話を進められるので、そこもきちんと伝えておく。
「何か詳しいことを知っているのか?」
「いえ、その情報はありませんね」
「そうか」
知っているのであれば是非とも聞きたいところだったが、情報がない以上は聞きようがないからな。その話は置いておいて、話を次に進めることにした。
「神代戦争以降、しばらくは種族ごとに別れて暮らしていたそうですが、あるとき他種族と共存する動きがあったそうです」
「ふむ……何かあったのか?」
「詳しいことは不明です。ですが、何かあったとは全く聞きませんし、成り行きでそうなった可能性が高いと思われます」
「そうか」
ここも詳しいことは分からないようだが、そこはあまり重要なことではないので、適当に流しておく。
「ただ、共存する動きになったは良いものの、それに反対する勢力もいたそうです」
「……そして、そこで共存派と至上派に勢力が二分したと」
「ええ、そうですね」
至上派の誕生経緯は至極単純で、どうやら、共存の流れになった際にそれに反対した者の集まりが至上派になったらしい。
「その後は至上派が共存派の元を去り、派閥で別れて暮らしていくことになったそうです」
「ふむ……つまり、俺達プレイヤーが共通エリアと呼んでいる地方は共存派が暮らす地域、種族専用エリアと呼んでいる地方は至上派が暮らす地域になったということか?」
「その言い方は正確ではありませんね。共通エリアが共存派が暮らす地域であることは間違いありませんが、種族専用エリア全てが至上派が暮らす地域になっているわけではありません」
「とりあえず、詳しく聞いても良いか?」
ここはちゃんと聞いておいた方が良さそうだからな。このまま詳しく聞いてみることにする。
「分かりました。種族専用エリアに転移した先は街になっていますが、その辺りの地域は共存派が暮らす地域になっています」
「……つまり、そこは各種族が元々暮らしていた地域だったということか?」
「理解が早くて助かります」
まあ先程、至上派が共存派の元を去ったと言ったところだからな。その程度のことであれば、すぐに答えまで辿り着ける。
「至上派が暮らす地域は基本的には種族専用エリアの奥地になるそうで、現状では詳しいことは分かっていませんね」
「そうか。それで、その至上派が動きを見せているとの噂があるが、そこのところはどう思っているんだ?」
至上派について話を聞いたのは、今回のイベントにどう関わって来るかを知るためだからな。
情報が不足しているので、まだ確かなことは言えないだろうが、現段階でのアレインの見解を聞いてみることにする。
「このタイミングで流れ出した話ですし、何かしら関係して来ることは確実でしょうね」
「ふむ、そこは俺と同じか」
見解を聞いてみるが、彼も俺と同じことを考えているようで、イベントに関係すると見ているようだった。
「私の意見としましては、遺物を回収して、戦力を強化しようとしているものだと考えています」
「戦力を強化か……。戦争でもするのか?」
「そこまでは何とも。ただ、共存派や他種族とは仲が悪く、衝突することもあるそうですので、戦争とまでは行かなくとも、戦力の強化はしておきたいのでしょうね」
「なるほどな」
敵対関係の勢力がある以上は戦力は強化しておきたいだろうからな。遺物を
そのため、この後の展開の可能性の一つとして、アレインのその意見は十分に賛同できた。
「種族専用エリアの至上派が暮らす地域に行けば情報が得られる可能性はあるか? ……いや、無理か」
ここで俺は直接、至上派が暮らす地域に行って情報を集めることを考えるが、それはできないとすぐにその案を棄却する。
「そうですね。お察しの通り、現段階のプレイヤーのパラメーターでは至上派が暮らす地域までは辿り着けません」
そう、何故それができないのかと言うと、そのエリアは今のプレイヤーの能力では突破できないエリアの先にあるからだ。
そもそも至上派が暮らす地域がどこなのかは知らないが、少なくとも手の届く範囲にないことは確実だからな。その案を実行することはできなかった。
「となると、話を聞いて回って情報を集めるしかないか」
直接調べられない以上は話を聞くしかないからな。大した情報は得られなさそうだが、話を聞いて回る以外に方法はなさそうだった。
「他にも関係者に話を聞くという手もありますよ?」
「……それができていれば、ここには来ていない」
話を聞けそうな人物に当てはあるが、皆忙しくしていて会えないからな。それは真っ先に考えたが、残念ながら実行はできなかった。
「まあそうでしょうね。では、探してみてはどうでしょうか?」
「探す?」
「ええ。至上派の意見に賛同できずに離脱する者もいるそうで、こちらの方に来ている者も多いそうですよ」
「ふむ……確かにそれなら話を聞けそうだな」
元至上派のNPCであれば、容易に情報を聞き出すことができるだろうからな。そのような人物を探してみるのはありだった。
「当てはあるのか?」
「いえ、ありませんね。ですので、現在進行形で探しているところです」
「そうか」
まあ当てがあるのであれば、既に聞きに行っているはずだからな。考えてみれば、聞くまでもないことだった。
「ところで、何故、至上派から離脱する者が現れているんだ? そう簡単に考えが変わるとは思えないが?」
至上派の意見に賛同していないのであれば、初めからそちらに付いていないはずだからな。
考えを変えるにしても、至上主義を掲げる連中がそう簡単に考えを変えるとは思えないので、少しそのあたりのことについて聞いてみることにする。
「至上派から離脱しているのは主に若い世代です。これで分かりますか?」
「若い世代……。ああ、そういうことか」
俺は考えを変えたことで至上派から離脱したものだと思っていたのだが、どうやら、その前提が間違っていたらしい。
至上派から離脱しているのは、その地域で産まれた至上派の意見に賛同できなかった者のようで、やはり、考えを変える者は少ないようだった。
「む、そう言えば……」
と、その話を聞いて俺はあることを思い出す。
(アルムとピルムは集落を出てネイオリアに来たと言っていたが、至上派と何か関係があるのか……?)
二人は集落を出て緑都ネイオリアに来たと言っていたが、二人が言う「集落」が至上派の者が住む地域の可能性は十分に考えられるからな。
あのときはアリカに止められて聞けなかったので、改めて話を聞いてみるのはありだった。
「どうかしましたか?」
「……その話を聞いて一つ当てができた」
「ほう? その当てとは?」
それを聞いたアレインは興味深そうにしながら続きを求めて来る。
「別の集落からこちらに来たNPCを知っていてな。もしかしたら、話を聞けるかもしれない。ただ、それが至上派の集落であるという確証はないので、まだ話せないな」
だが、二人が至上派の集落が出身だという確証はどこにもないからな。現段階では話すことができなかった。
「そうですか」
「とりあえず、この後その人物に話を聞きに行く……と言いたいところだったが、時間帯が悪いな……」
現在のゲーム内の時間は真夜中だからな。時間帯的に行商はやっていないので、すぐに話を聞きに行くことはできなさそうだった。
「この時間帯だと活動しているNPCは少ないですからね。それも致し方なしでしょう」
「そうだな。では、一度ログアウトを挟んでから話を聞きに行くか」
区切りとしてもちょうど良いタイミングだからな。この後はログアウトして、話を聞ける時間になってからログインして話を聞きに行くことにした。
「ひとまず、今回はここまでにするか」
ここではこれ以上、話を聞けそうにないからな。もう話すこともないので、そろそろ行くことにした。
「代金はどうなる?」
「こちらが差額分を出しましょう」
「良いのか? かなり情報をもらったが?」
至上派についての情報は想定以上のもので、かなり価値があるものだったからな。本当にそれで良いのか確認しておく。
「あなた方の情報にはそれ以上の価値があったということです」
「……そうか」
彼がそう判断したのであれば何も問題はないからな。このまま素直に代金を受け取ることにした。
「それでは、こちらが代金になります」
「確かに受け取った。では、また後で連絡しよう」
「ええ。話を聞けることを期待していますよ」
そして、そのまま店を後にした俺達は拠点に戻って、店の商品を補充してからログアウトしたのだった。
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