episode282 島についての情報の売却

 『猫又商会』の拠点を後にした俺達は『栄華の影』が経営する店に向かっていた。


「……おや、誰かと思えばあなた方ですか」


 店に入ると、カウンターで受付を行っていたアレインがこちらのことに気付いて作業を止める。


「そのドラゴンが例の……」

「まあ流石に知っているか」


 情報ギルドを名乗っているぐらいだからな。やはり、俺がドラゴンを連れていることは知っていたらしい。


「奥で良いか?」


 今は他に客もいて、皆アギオスのことが気になっているのか、こちらに視線が集まっているからな。

 ここで話をするわけにも行かないので、ひとまず、奥の個室に向かうことにした。


「ええ、歓迎しますよ。こちらへどうぞ」


 アギオスに視線が集まる中、俺達はそのままアレインの案内で奥の部屋に向かう。

 そして、部屋に向かったところでそれぞれで席に着いて、そのまま話が始められた。


「それで、本日はどのようなご用件で?」

「用件は情報の提供と購入の両方だな」


 ここですることと言えば情報の売買になるが、今回は売りたい情報も買いたい情報もあるからな。普段はどちらか一方のことが多いが、今回は両方になる。


「とりあえず、情報の提供の方から良いか?」

「ええ。情報の内容をお聞きしても?」

「分かった。情報は次回のイベントの舞台となる島についてのことだ」


 提供する情報は次回のイベントの舞台になる島についてのことで、ユヅハから聞いた島の過去のことについて話すつもりだ。

 この情報は入手することが難しい情報で、『栄華の影』でも知らない可能性があるからな。そう見込んでこの情報を提供しようと考えている。


「確認するが、島についての情報は持っているのか?」

「ええ、ある程度は。ですが、わざわざここに来たということは良い情報をお持ちなのでしょう?」

「まあな。では、話すぞ?」


 島についての情報をある程度は掴んでいるようなので、既に知っている可能性もあるが、話してみなければ分からないからな。そろそろ話に入ることにした。


「まず、島がヒムノリア地方にあることは知っているか?」

「ええ。その情報は掴んでいますよ」


 まずは比較的知りやすい情報を出してみるが、流石にこのことは知っていたようで、このまま話を次に進めて良さそうだった。


「そうか。では、島で遺物が発見されたことは知っていると思うが、その遺物がどんな物だったかは知っているか?」

「ええ、知っていますよ。術式機構の組まれた道具でしょう?」

「ふむ……この情報も持っているのか。流石は情報ギルドだな」


 俺達が街で話を聞いて回っても、遺物の詳細な情報までは手に入らなかったからな。情報ギルドを名乗っているだけのことはあった。


「では、あの島ではかつて魔力駆動式の兵器の開発が行われていたということは知っているか?」

「いえ、初耳ですね」


 だが、思った通り島の過去のことまでは知らなかったようで、この様子であれば情報を売ることができそうだった。


「ただ、そうなると少し気になる点がありますね。……確認しますが、その情報はどこで入手されましたか?」


 しかし、アレインは話をみにはせず、少し考えた上でそんな確認をして来た。


「悪いが、それは言えないな」


 ユヅハから聞いたと言うわけには行かないからな。そこは伏せさせてもらうことにする。


「ただ、一つ言っておくと、この情報は評議会とは繋がりのないところから得た情報だ。……聞きたかったのはこういうことだろう?」


 だが、質問の意図から考えると、これで十分な回答になるはずだからな。これに関しては伏せる必要もないし、既に彼も察していると思われるので、素直に話してしまうことにする。


「……ええ。話が早くて助かります」


 アレインもこの回答で満足してくれたようで、この様子だとこれ以上は情報源について触れる必要はなさそうだった。


 そう、先程の質問の意図は情報源を知るためのものではなく、「気になる点」を解消するためのもので、情報源を聞いたのは辻褄が合っているかを確認するためだった。

 情報源が『セントラル運営評議会』及びその関連組織だとすると、不可解なことになるからな。端的に言うと、その点を聞いておきたかったということになる。


 まあ『セントラル運営評議会』がこの情報を握っていたのであれば、島に遺物があることは分かっていたはずだからな。今になって遺物が発見されて、ここまで大規模な調査を行うことになるとは考えにくい。

 なので、『セントラル運営評議会』及びその関連組織からこの情報が出て来たとなると、矛盾と言っても差し支えないような状態になってしまうのだ。


 もちろん、その情報を最近手に入れて調査に乗り出したという線は考えられるが、話を聞いたところ、遺物はたまたま発見されたようだからな。その線は否定できた。

 つまり、まとめると『セントラル運営評議会』がこの情報を持っていないことは確定だということだった。


「それと、これは話半分に聞いてくれて良いのだが、一つ気になることがある」

「何でしょう?」

「魔力駆動式の兵器が現存している可能性に言及したところ、完全な形で残っている可能性は低いが、十分に動く程度の形で残っている可能性はあるとの回答を得られた」


 この情報は役に立つかどうかは分からないが、どう判断するかは彼次第だからな。一応この情報も伝えておく。


「つまり、そのタイプのモンスターの出現が予想されると?」

「まあそういうことだな。別にこの話に関しては聞き流してくれても良いぞ?」


 これに関してはただの予想で、確実な情報ではないからな。情報ギルドとしては扱いにくい情報なので、この情報の扱いは任せることにする。


「とりあえず、こちらから提供する情報は以上だな」

「そうですか。他の情報を提供する気はありませんか?」

「……悪いが、アギオスの情報を出す気はないぞ?」


 次のイベントにPvP要素がある以上はアギオスの情報は伏せておきたいからな。その情報を出す気はない。


「その個体の情報でなくとも、テイムした方法だけでも構いませんよ?」

「そう言われても、間違いなく特殊な方法に該当するし、当てになるかは分からないぞ?」


 ホーリーホーンドラゴンは通常はテイムできないモンスターで、俺がテイムした方法は特殊な方法になるからな。

 同じ方法を取れば確実にテイムできるとは限らないので、情報としては扱いにくいものだった。


「それは承知の上です」

「そうか。……まあ話してしまっても良いか」


 この情報は伏せておく必要もなさそうだからな。このまま話してしまうことにした。


「では、まずは試練についての話からになるな。俺達の試練は強者の闘争平原で行われたのだが――」


 だが、それを話すにはテイムするに至った経緯も説明しておく必要があるからな。俺は試練のことから順番に話していく。


「――ということだ」


 そして、テイムまでの経緯を説明して、試練の際にテイムしたことを話した。


「……なるほど、そういうことでしたか。となると、試練の報酬と考えても良さそうですね」

「まあそういう考え方もあるな」


 明確に試練の報酬として提示されたわけではないが、結果的にはそうなったからな。そう考えることもできた。


「そうなりますと、確かに同じ方法を取ってもテイムできるとは限りませんね……。他に提供する情報はありますか?」

「いや、もうないぞ」

「分かりました。代金の方はどうなさいますか?」

「後で構わないぞ」


 売る情報はこれで以上になるので、ここで代金を受け取っても良いのだが、買いたい情報もあるからな。後でまとめて計上すれば良いので、代金はまだ受け取らないでおく。


「かしこまりました」

「このまま話に移っても良いか?」

「もちろん、構いませんよ」


 提供する情報については無事に話がまとまったからな。このまま購入する情報についての話に移ることにした。

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