episode281 アギオスの育成方針
それから
「意外と余裕だったな」
「……うん」
敵はそれなりに強かったが、今の俺達であれば余裕を持って倒せる相手だったからな。探索で苦戦することはなかった。
「……方針決まった?」
「アギオスの育成方針か?」
「……うん」
「まあある程度はな」
今回の探索での戦闘でアギオスの育成方針はおおよそ決まったからな。今回の探索は中々意義のあるものになった言えそうだった。
「どうするの?」
「やはり、火力寄せだな」
盾を使えない以上はプレイヤーが扱うタンクのような耐久力は得られないからな。その役には期待できないし、防御面に振っても効果が薄いので、火力に寄せた構成にするつもりだ。
「リッカはどう思う?」
「……同意見」
リッカにも意見を求めるが、彼女も意見は同じのようで、方針はこれで決定ということで良さそうだった。
「早速、振る?」
「いや、それはしっかりと考えてからだな」
次回のイベントまでに間に合わせられれば良いからな。SPの割り振りは慎重に行いたいので、それはしっかりと考えてからにするつもりだ。
「……そう。この後は?」
「『猫又商会』の店に行って、素材について相談してみるつもりだ」
素材について相談するのなら、『猫又商会』が一番良いだろうからな。ネムカもログインしているようなので、このまま向かってみるつもりだ。
「……分かった」
「では、このまま行くか」
そして、そのまま俺はネムカに一言連絡を入れて、三人で『猫又商会』の拠点に向かったのだった。
◇ ◇ ◇
『猫又商会』の拠点に向かった俺達はいつものように応接室に案内されていた。
「こちらが例のドラゴンですか……」
だが、ネムカは俺とリッカには目もくれずに、アギオスに興味を示していた。
「……とりあえず、席に着いても良いか?」
「はい、どうぞ」
彼女はまだこちらに戻って来そうにないからな。俺達は先に席に着いておくことにする。
「これ、飲み物ッス」
と、俺とリッカが席に着いたところで、シェーダが飲み物を提供して来た。
「今日はその子の防具の作製依頼ッスか?」
「まあそんなところだな」
アギオスの育成方針は決まったからな。装備品は『猫又商会』に依頼した方が何かと都合が良いので、そちらに依頼するつもりでいる。
「どんな感じにするんッスか?」
「できれば火力系の効果の物が良いな」
耐久力よりも火力を伸ばしたいからな。素材は火力系の効果が得られる物にするつもりだ。
「火力系だけにするんッスか?」
「いや、優先度が高いというだけで、それだけにするつもりはないぞ」
だが、全ての効果を火力系の効果にすることは難しいからな。優先度が高いことに違いはないが、様子を見て調整するつもりではある。
「そうッスか。次点で優先度が高いのはどんな効果ッスか?」
「状態異常や弱体効果への耐性系の効果だな」
攻撃を受ける機会が多いと、その分だけ状態異常や弱体効果を付与される機会も増えるからな。そこへの対策として、耐性効果も優先度が高かった。
「……何なら、そっち優先でも良い」
と、ここでリッカが話し合いの場では珍しく意見を挟んで来る。
「ふむ……確かにそうだな」
耐性を高めれば、より安心できるからな。彼女の言うように、耐性を優先するのもありだった。
「ただ、予算にあまり余裕がないのがな……」
しかし、最近は何かと出費が重なっていて、予算にあまり余裕がないからな。高性能な物を作りたいという気持ちはあるが、それも難しそうだった。
「……PvPになるなら、妥協は響く」
「まあそうだよな……」
だが、次回のイベントはPvP要素がある内容になっていて、装備品の性能の重要度が高いからな。
妥協すると大きな影響が出る可能性があるし、妥協したせいで勝ちを落とすことも考えられるので、少し無理してでも作るというのはありだった。
「リッカの装飾品はどうするんッスか?」
「今回はパスだな」
リッカの装飾品の枠は一枠空いているが、作るとなるとかなり費用が掛かるからな。
それを作る余裕はないし、おおよそ装備品が整っているリッカよりも、まだ装備が全く整っていないアギオスの装備を優先すべきなので、今回は作るつもりはない。
「それでは、今回の依頼はそちらのドラゴン用の防具の作製ということでよろしいでしょうか?」
と、ここでこちらに戻って来たネムカが今回の依頼内容について確認して来る。
「ああ。これまでの話は聞いていたか?」
「はい。ご希望の素材はありますか?」
「そうだな……最有力候補は【原初の石】で、次点で【メタルローズ】や【コーラルアインゴット】といったところだな」
全属性耐性に加えて、属性攻撃やスキルの威力を上げる効果のある『原初の脈動』はかなり強力だからな。その効果を発現させられる【原初の石】は最有力候補になる。
そして、次点で有力な効果は状態異常や弱体効果への耐性を獲得できる『不朽の金属
「だが、それだと最高品質が前提になるし、予算的にな……」
しかし、レア素材である【原初の石】や【メタルローズ】は特に高額になるからな。全体的にレア素材の値段が上がっていることもあって、予算的に厳しそうだった。
「一応聞くが、かなり高くなるよな?」
「そうですね。特にレア素材は更なる高騰が予測されますし、これまでよりは確実に高くなりますね」
「更なる高騰……イベントの影響か?」
「はい。早速、装備品に関しての相談も寄せられていますし、影響は大きいかと」
まあPvP要素があるとなると、装備品の性能差が響くからな。イベントの内容を見て、高性能な装備品の作製に手を付けるプレイヤーも多いだろうし、そうなると流通数が少ないレア素材が高騰することは容易に予測できることだった。
「……今の内に集めるのもありか?」
レア素材の需要がかつてないほどに上がっている状態だからな。高騰を見越して今の内に集めておくのも良さそうだった。
「あ、買い占めを画策してるところで悪いッスけど、めぼしい物は押さえせてもらったッスよ?」
「…………」
そう思ったのだが、残念ながら彼女達に先を越されてしまったらしい。
(まあそれはそうだよな……)
今しがたネムカがレア素材の高騰の予測を口にしたところだからな。リーダーである彼女がそう考えているということは、既に組織全体に通達して動いているだろうし、考えてみればこの展開は分かり切ったことではあった。
「……本当にトレーダー?」
「……少ない口数で的確に殺しに来るのはやめてくれないか?」
そう言われると返す言葉もないからな。その点に関しては反論のしようがなかった。
「と言うか、アギオスのことを考えていたし、それも仕方がないだろう?」
言い訳と言っては何だが、俺はアギオスのことを最優先に考えて動いていたからな。多少抜けてしまうのも仕方がないので、そこはきっちり主張しておく。
「……そう? 話が別じゃない?」
しかし、それとこれとは話が別だと、その主張を否定されてしまった。
「……とりあえず、鎧は高品質品にするつもりはないな」
この話をこれ以上続けても良いことは何一つなさそうだからな。俺は強引に話を元の流れに戻す。
「そうですか。……防具を確認させてもらったところ、部位は頭、胴、尻尾の三つのようですが、それで合っていますか?」
「む、そう言えばまだ言っていなかったな。その三つで合っているぞ」
モンスターの装備品の部位はモンスターごとに異なっているし、それを確認できるのは主である俺だけになるからな。
俺が言わないと分からないが、まだ伝えていなかったので、ここできちんと伝えておく。
「高品質品以外で良さげな素材はないか?」
「そうですね……。その前に一つ確認させてもらってもよろしいでしょうか?」
「む、何だ?」
「納品期限はいつになりますか?」
「次のイベントが始まるまでだな」
次のイベントに間に合わせられれば、それで良いからな。すぐに必要なわけではないので、納品期限はイベント開始時までになる。
「でしたら、少し後回しにさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「後回し……。あー……別に構わないぞ」
先程、装備品に関しての相談が寄せられていると言っていたからな。どうやら、依頼が舞い込んで来ていて忙しいようなので、ここは後日改めて話を聞きに来ることにした。
「明日そちらの状況を聞いて、それを受けて考えるということで良いか?」
「それでお願いします」
「分かった。では、今日はもう行くことにしよう。リッカ、アギオス、行くぞ」
「……うん」
「グルッ!」
そして、話が
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