episode280 根源覚醒
それから敵との距離を詰めた俺達はいつ戦闘になっても良いように構えつつ、歩みを慎重なものにしていた。
「……カラッ?」
「カラッ!」
だが、ある程度近付いたところで、俺達のことに気が付いた二体のホネミチバシリがこちらに駆け寄って来ていた。
(まあちょうど良いか)
ホネミチバシリはリッカが相手する予定だったからな。先に来てくれるのは都合が良いので、このまま相手してもらうことにした。
「頼んだぞ」
「分かってる」
俺達が下がると、リッカはその場で構えて、そのまま敵を待ち受ける。
(かなり速いな)
ホネミチバシリは体長が八十センチメートルほどの骨だけになった鳥のモンスターだが、モチーフになった鳥が地上で生活する鳥で足が発達しているからなのか、移動速度はかなりのものだからな。
一瞬で距離を詰められるので、こちらも油断ならなかった。
「アギオス、レイスの相手は頼んだぞ」
リッカがホネミチバシリのターゲットを取ることには成功したからな。このままアギオスにはレイスの相手をしてもらうことにした。
「グルッ!」
指示を受けたアギオスはリッカがいる場所を迂回して、レイスの方に向かって行く。
「では、俺もやるか。はっ!」
うまく分離することに成功したからな。俺はそのまま『バレッジソリッド』でホネミチバシリ達を攻撃していく。
(とりあえず、リッカの方は大丈夫そうだな)
ホネミチバシリは跳び掛かって攻撃を仕掛けているが、リッカはそれを横に躱しつつ反撃して削っているからな。
戦況は安定しているので、この調子であればこちらは大丈夫そうだった。
(アギオスの方も大丈夫そうだな)
アギオスは攻撃を受けてはいるが、俺達とは違って耐久力があるからな。ダメージを受けつつも、反撃の魔法攻撃で敵のHPを一気に削っているので、何とかなりそうではあった。
(ここはアギオスの方も見ながらリッカを援護するか)
だが、ダメージを受けている以上はやられてしまう可能性もあるわけだからな。そちらにも注意を配りつつ、リッカの援護をしていくことにした。
「カラッ!」
「――そこ」
ホネミチバシリは二体同時に跳び掛かって仕掛けるが、リッカにその程度の戦術が通用するはずもなかった。
彼女は二体の攻撃を横に跳ぶことで同時に躱すと、そのまま二体を抜刀攻撃で
「俺も行くぞ」
リッカ一人でも何とかなりそうではあるが、何もしないわけには行かないからな。俺は【氷炎爆弾】を投擲して、敵を攻撃していく。
「……向こう行って」
と、ここでリッカはホネミチバシリの相手は自分一人で十分だと判断したのか、俺にアギオスの援護に向かうよう指示して来た。
「分かった」
様子を見た感じだと、確かにこちらは彼女一人でどうにかなりそうだからな。ここは指示通りにアギオスの援護に向かうことにした。
「では、一気に行くか。よっと……」
俺は『マテリアルウォール』で足元から壁を展開すると同時に『パワージャンプ』を使用することで高く跳んで、リッカ達の上を跳び越えてアギオスの元へ向かう。
「少し跳び過ぎた……が、むしろ都合が良いか。はっ!」
とにかく遠くに跳ぶことを意識したので、このままだとアギオス達の上を通過することになるが、それならば上から攻撃を仕掛ければ良いだけの話だからな。少し跳び過ぎる程度であれば何の問題もなかった。
俺はそのまま空中から【氷炎爆弾】を落として、レイス達を攻撃していく。
「まだ行くぞ? 『カースエイム』からの……『カースバースト』!」
さらに、少し離れた場所に着地すると同時に『カースエイム』で妖術ターゲットを付与して、『カースバースト』でダメージを与えた。
(火力は低い――が、十分か)
『カースバースト』は付与された状態異常や弱体効果の数に応じてダメージが増加するスキルなので、素の火力は低く設定されているが、魔法防御力が極端に低いレイスが相手であれば、それでも十分な火力を出せるからな。
その攻撃でもそれなりにダメージが入って、レイス達のHPが確実にトドメを刺せるぐらいにまで減っていた。
「……!」
「む、こちらに来るか」
しかし、その攻撃でヘイトを稼いでしまったのか、レイス達はアギオスの相手を放棄して、俺の方に近付いて来ていた。
「いや、むしろありがたいか。アギオス、『ホーリージャッジメント』だ!」
「グルッ!」
だが、こちらとはまだ距離があって、接敵までには時間があるからな。その隙に攻撃の準備を整えられるので、俺を狙ってくれるのはむしろありがたかった。
俺はアギオスに『ホーリージャッジメント』を使うよう指示を出しつつ、『マテリアルバースト』の発動準備を進める。
「――そこだな。『マテリアルバースト』!」
「グルルッ!」
「……⁉」
そして、間合いに入った瞬間に『マテリアルバースト』で迎撃して、それと同時にアギオスの『ホーリージャッジメント』による光が敵を貫いた。
その攻撃によってHPがゼロになったレイス達は霧散して、そのまま痕跡すら残さずに完全に消滅する。
「こちらは片付いたな。では、リッカの援護に……行く必要もないようだな」
レイスを片付けたところで、リッカの援護に向かおうとするが、彼女の方もちょうど片付いたところのようだからな。もう戦闘は終わっているので、その必要もなかった。
「アギオス、来てくれ。回復するぞ」
「グルッ!」
俺とリッカはダメージを受けていないが、アギオスはそうではないからな。戦闘は終わったので、次に備えてポーションを使ってHPを回復していく。
「とりあえず、この調子なら探索は問題なさそうだな」
敵はそこそこ強いが、今の俺達であれば余裕で倒せるからな。このエリアの探索は問題なく進めて行くことができそうだった。
「……うん。
「そうだな」
『相伝・
「『根源覚醒』も試した方が良かったか?」
試練を突破したことで、『根源解放』が『根源覚醒』に進化したからな。それを試してみるのもありだったように思えた。
ちなみに、それぞれの『根源覚醒』の効果は以下のようになっている。
━━━━━━━━━━
【根源覚醒・シャム】
秘められた力を解放することで、一定時間オーラを
〇効力とスキルの威力が上昇して、MPの消費量が減少する。
〇攻撃時に効力値に応じた無属性の追加ダメージを与える。
〇属性攻撃の威力が上昇する。
キャストタイム:1秒
クールタイム:1時間
【根源覚醒・リッカ】
秘められた力を解放することで、一定時間オーラを
〇物理攻撃力と敏捷が上昇する。この効果は攻撃を当てるたびに効果が上昇して、最大で二十段階まで効果が上昇する。
〇スタミナ消費量が減少する。
〇スタミナの回復速度が上昇する。
キャストタイム:1秒
クールタイム:1時間
━━━━━━━━━━
まずは俺の方だが、『根源覚醒』に進化したことで変わった点は二点で、一点目は追加ダメージが効力値に応じて増加するようになったこと、もう一点は三つ目の効果が追加されたことだ。
まだ試してはいないが、純粋に強化されているので、これまで以上の火力を期待できそうだった。
次にリッカの方だが、こちらも変わった点は二点で、一点目は一つ目の効果の上限が二十段階に減少したこと、もう一点は俺と同様に三つ目の効果が追加されたことだ。
一つ目の効果の効果値の上限が二十段階に減少しているので、一見すると弱体化しているように思えるが、もちろんそんなことはない。
リッカの話によると、一段階当たりの効果値が上昇していることに加えて、上限に達したときの強化値も以前よりも上がっているとのことなので、文面上は弱体化に見えるが、実際のところはちゃんと強化されている。
「……正確な効果値調べたいなら」
「であれば、別に使わなくても良いか」
別に正確な効果値を知りたいわけではないからな。使用感を確かめられればそれで良いと思っていたが、使用感自体はそんなに変わらないと思われるので、無理に使う必要もなさそうだった。
「では、このまま探索を続けるか」
「……うん」
「グルッ!」
そして、
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