episode284 至上派の派閥

 それから昼前にログインした俺達はアルムとピルムに会うために市場に向かっていた。


「さて、二人は……いるな」


 市場に到着したところで確認してみると、二人は今日もいつもの場所でアリカと一緒に行商を行っていた。


「二人とも、少し良いか?」


 なので、早速、二人に話を聞いてみることにする。


「はい?」

「何でしょうか?」

「至上派が動いているとの話を聞いて調査をしているのだが、二人は何か知らないか?」


 二人の出自をいきなり聞くわけにもいかないからな。まずは当たり障りのない感じに話を切り出す。


「……何故、僕達に聞くのですか?」


 だが、それを聞いたアルムは警戒した様子でそんなことを尋ねて来た。


「行商をしているのであれば、そういったことにも詳しいのではと思ってな」

「……そうですか」


 アルムはそう言うが、その言葉とは裏腹に俺の言葉に納得していないようだった。


「……どうかしたのか?」


 先程から少々様子がおかしいからな。何かがあったことは確実なので、そのあたりのことについて聞いてみることにする。


「いえ、何でもありません」


 しかし、あくまでもその主張で通すつもりのようで、この様子だと何も教えてくれそうになかった。


「……そうか」

「他の人には聞いてみたのですか?」

「もちろん聞いてはいるが、そのあたりの事情に詳しそうな者に話を聞けていないので、大した情報は得られていないな」


 事情を知っていそうな人物はいずれも忙しくしていて、話を聞けていないからな。現在、至上派が動いていることに関しての情報は得られていない。


「……ねえ、何でわざわざ二人に話を聞きに来たの?」


 と、ここで話を聞いていたアリカが何を懸念してかは知らないが、いぶかしみながらそんなことを尋ねて来る。


「言っただろう? 詳しそうだからだとな」

「本当は?」

「…………」


 俺は再度その理由を説明するが、アリカはそれが上辺のものだと見抜いているのか、真意を話すよう求めて来た。


(正直に話すか……)


 これ以上取り繕っても不信感を募らせるだけだからな。ここは素直に話すことにした。


「二人に話を聞いたのは、至上派が住む集落の出身だと思ったからだ」

「……やっぱり、そうだったんだ」

「聞くが、至上派の地域の出身だと何か問題があるのか?」


 俺達はそのあたりのことを全く知らないからな。この際なので、このまま聞いてみることにする。


「別に問題はないけど、聞こえは良くないね」

「……やはり、差別的なことがあるのか?」

「いや、そこまでじゃないよ。ただ、あまり印象が良くないのは確かだよ」

「そうか」


(なるほどな。それで言及を避けようとしていたのか)


 話を聞いた感じだと、至上派の地域の出身であることはできるだけ知られたくないようだからな。二人のあの態度にも合点が行った。


「本当に困るよね。悪いことなんてしないのに」

「それは分かるのだが、警戒されるのも分からなくはないからな……」


 アリカのその主張は支持できるが、それと同時に警戒されることも理解できるからな。何とも言い難いところだった。


「そうは言っても、実際、至上派集落が出身だって明かす人に悪巧みしてる人は基本的にいないんだよね。悪いことを企んでる至上派の連中は出身を偽って動くし」

「……理解と行動が一致すれば良いが、やはり、そうでない者も多いということか。悲しいものだな」


 気にしなければ良いだけの簡単な話ではあるのだが、現実問題としてうまく行っていないようだからな。

 現実は簡単ではないという事実を突き付けられているようで、何だか物悲しかった。


「それと、先程は無神経に探りを入れて悪かった。謝罪しよう」


 その話はさておき、先程は失礼なことをしたからな。忘れない内にアルムとピルムには一言謝罪を入れておく。


「いえ、気にしないでください」

「それで、シャムは至上派の動きを知りたいんだよね?」

「ああ」


 至上派のことはアレインから聞いたのでおおよそ分かっているが、その動きについてはさっぱりだからな。

 ここに来たのはそれを聞くためなので、もちろんその情報は欲しいと思っている。


「じゃあ代わりにボクがそのことを話してあげるよ。それで良い?」


 すると、それを聞いたアリカがそんな提案をして来た。


「別に構わないが、アリカは何か知っているのか?」


 代わりに話してくれるのは別に構わないのだが、もちろんそれは情報を持っていることが前提になるからな。そこのところはどうなのか確認しておく。


「うん。少なくとも、アルムとピルムが知ってるようなことなら全部知ってるよ」

「……中々の自信だな」

「ボクは至上派の地域の集落の出身だし、動きが気になって調べてもいるから、色々と知ってるよ」

「む、そうだったのか」


 どうやら、アリカは至上派の地域に属する集落の出身で、なおかつ至上派の動きも調べているので、そのあたりのことには詳しいらしい。


「では、頼めるか?」


 なので、提案通りに彼女に説明をしてもらうことにした。


「分かったよ」

「とりあえず、こちらが質問するので、それに答えるという形で話を進めてもらっても良いか?」


 アリカの方から一方的に話すという形だと、既にこちらが知っている情報を話すことにもなるだろうからな。

 彼女はこちらがどの程度の情報を持っているのかを知らないはずなので、ここは質問に答えてもらう形で話を進めることを提案してみる。


「うん、それでも良いよ」


 特にそれで不都合はないからなのか、アリカはその提案をあっさりと受け入れた。


「では、少し主旨とはズレて悪いのだが、動きが気になって調べている理由を聞いても良いか?」


 別にどんな理由で調べていようと関係はないのだが、やはり気になるからな。まずはそのことについて聞いてみることにする。


「うーん……特に深い理由はないけど、えて言うならこっちの方が気に入ってるからかな」

「共存派の方が良いということか?」

「そうだね。とりあえず、あいつらの勝手にさせる気はないよ」

「あいつら、か……。やはり、碌でもない連中なのか?」


 その言葉からは至上派に対しての敵対的な姿勢が見て取れるからな。このままもう少し踏み込んで聞いてみる。


「うん。至上主義を掲げてるだけあって、頭が固いのばっかりだね」

「そうか」


 まあ何を言っても聞かなさそうな感じはするからな。それには納得できた。


「至上派に動きが見られたらしいが、そもそも連中はこちらの方で何をしているんだ?」


 アリカの考えは分かったからな。そろそろ本題である至上派の動きについての話に入ることにした。


「派閥によって違うけど、こっちで動いてる過激派の連中は共存派の体制の崩壊が狙いだから、それに繋がる動きをしてる感じだね」

「む、至上派には派閥があるのか?」


 至上派にも派閥があるというのは初耳だからな。詳しい話に入る前にそのことについて聞いてみることにする。


「うん。単に他種族と干渉することを拒否しただけで、同種族だけで生活することを選んだ不干渉派、自種族を至上として他種族を否定する独尊派、その上で他種族を支配下に置くために動いてる過激派の三つが主になるかな」


 どうやら、至上派と一言で言っても三つほど派閥があるようで、今回問題になっているのはその中でも過激派と呼ばれる派閥らしい。


「そうか。……不干渉派は至上派と呼べるのか?」


 それは分かったのだが、話を聞いた感じだと、不干渉派は至上主義的な思想を持っていないように思えるからな。

 至上派と呼んでも良いのかと問われると、少なくとも俺はそれを全面的に肯定することはできなかった。


「それは人によるかな。共存派以外の派閥ということで、それらをまとめてそう呼ぶ人もいれば、至上主義的思想を持ってる派閥だけを至上派とする人もいるから、ボクからは何とも言えないよ」

「む、そうか」


 だが、俺のその考えも間違ってはいなかったようで、人によって至上派の定義に少々揺れがあるらしい。


「では、今回は過激派に絞って話を聞くことにしよう」

「ボクもそのつもりだよ」


 不干渉派と独尊派については先程の説明で十分で、これ以上話を聞く必要もなさそうだからな。ここは不穏な動きを見せているという過激派についての話を聞いていくことにした。

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