episode276 新たな伝授スキル
「それで、何をするつもりなんだ?」
移動を始めたところで、俺はユヅハに用件を確認する。
「……あなた、ユヅリハ様から聞いているって言ったじゃない」
「話があることは聞いていたが、その内容までは聞いていない」
別件で話があるとは聞いているが、その内容までは聞いていないからな。ユヅハはそこまで聞いていなかったようなので、ここで話を摺り合わせておくことにする。
「あら、そうだったのね。だったら教えてあげるわ。アドラ様の試練を突破して、実力も付いて来たみたいだから、新しいスキルを教えてあげようと思っただけよ」
「ふむ、そうだったか」
どうやら、試練を突破したことで、新たな伝授スキルを教えてくれるつもりだったらしい。
「どんなスキルを教えてくれるんだ?」
「今回あなたに教えるのは『
「どんなスキルなんだ?」
もちろん、初めて聞くスキルだからな。このまま詳細を確認してみることにする。
「それは見ていれば分かるわ」
だが、どうせすぐに分かると、特にスキルについて説明されることはなかった。
「……この辺りで良さそうね」
と、ここでユヅハは前方にいたコッコに目を付けると、そこで立ち止まった。
「今から見せてあげるから、ちゃんと見ておきなさい」
「分かった」
どうやら、あの二体のコッコをターゲットにしてスキルを見せてくれるようだからな。このまま見せてもらうことにした。
「沈みなさい。『
「コケッ⁉」
ユヅハがスキルを起動すると、前方にいた一体のコッコに妖しい紫色のオーラが発生して、複数の状態異常と弱体効果が付与される。
さらに、そのHPが時間経過で減少し始めた。
「コケッ……」
スリップダメージによってHPはすぐにゼロになって、そのコッコはその場でばたりと倒れる。
「コケッ⁉」
しかも、それだけでは終わらず、近くにいたコッコにオーラが発生すると、今度はそちらのHPが減少し始めた。
「まあこんなところね」
「コケーーーッ⁉」
だが、ユヅハはスキルの性能を見せるには十分だと判断したのか、すぐに魔法攻撃でコッコを始末してしまった。
「どう? 分かったかしら?」
「……確認してみよう」
どんなスキルなのかはいまいち分からなかったが、システム的にはこれで習得できているはずだからな。
ひとまず、習得が済んでいるかどうか確認してみることにした。
(ちゃんと習得はできているな)
メニュー画面を開いて習得スキル一覧を確認してみると、『相伝・
なので、早速その詳細を確認してみる。
━━━━━━━━━━
【相伝・
対象に一定時間ごとにHPとMPが減少する効果を特殊効果として付与する。
また、この効果でHPやMPが減少するたびに、確率で状態異常と弱体効果を付与する。
HPとMPの減少量と付与される状態異常と弱体効果は効力値に応じて増加する。
さらに、この効果が付与された対象のHPがゼロになったとき、この効果と対象に付与されていた状態異常と弱体効果を一番近くにいる敵に耐性を無視して付与する(完全耐性には無効。効果時間は引き継ぐ)。
スタンバイタイム:30秒
キャストタイム:5秒
クールタイム:300秒
━━━━━━━━━━
「ふむ……特殊効果として付与するということは、デバフ解除系のスキルを使っても解除できないということか?」
「ええ、そうよ」
特殊効果は通常のバフとは別枠で付与される特殊なものになっているからな。必中かつ解除不可のスリップダメージは厄介と言う他なかった。
さらに、ダメージが発生するたびに状態異常や弱体効果の付与判定が発生することから、複数の効果の付与を狙えるからな。『
「それじゃあ私はもう行かせてもらうわ」
「ああ。また会おう」
そして、スキルの伝授が済んだところで、ユヅハはその場ですっと姿を消した。
「……とりあえず、街に戻るか」
「……習得率上げは?」
「後回しだな」
完全に習得するためには習得率を100%にする必要があるが、次のイベントが始まるまでに間に合わせられれば良いからな。
時間に余裕はあるので、習得率上げは機を見て後で行うつもりだ。
「……そう」
「では、戻るか」
ここですべきことはもうないからな。外での用事を済ませた俺達はそのまますぐに街に戻ったのだった。
◇ ◇ ◇
用事を済ませた俺達は南セントラル平原を駆け抜けて、始都セントラルに戻っていた。
「……着いたな。この後はどうする?」
街で情報収集をしても良いが、ユヅリハからの依頼をどうするかも考えなければならないからな。
俺が決めても良いが、一人の意見で決めるわけにもいかないので、リッカの考えも聞いてみることにする。
「……街で情報集める」
「まあそれが良いか」
ユヅリハからの依頼をどうするかは情報を集めた上で判断するのが良いだろうからな。ここはこのまま街で情報を集めることにした。
「別れるか?」
「……うん」
「分かった。では、このまま――」
「お、二人ともこんなところにいたんッスね」
だが、情報収集のために動き出そうとしたそのとき、前方から現れたシェーダがこちらのことを呼び止めて来た。
「む、何か用か?」
「特別用があるわけじゃないッスけど、話題になってる相手をスルーする選択肢もないってとこッスかね」
「……話題?」
そう言われても、俺には心当たりがないからな。そのことについて少し聞いてみることにする。
「知らないんッスか? ドラゴンを連れたプレイヤーがいるって話題になってるッスよ?」
「ふむ、そうだったのか」
どうやら、アギオスを連れていたのはかなり目立ったようで、そのことがプレイヤー間で話題になっていたらしい。
「……やっぱり、拠点に置いておいた方が良い」
「確かに、連れていると騒ぎの元になるか……」
騒ぎが大きくなると面倒だからな。この様子だと、アギオスは拠点で待機させておいた方が良さそうだった。
「アギオス、ここは……」
「グルゥ……」
なので、アギオスに拠点で待機するよう説得しようとするが、そのことを察したアギオスは悲しそうに視線を落とした。
「……何でもない。一緒に行くぞ」
「グルッ!」
流石にこんなに悲しそうにしているのを見て、拠点で待機させるようなことは俺にはできないからな。
かなり目立つだろうが、ここはこのまま一緒に行動し続けることにした。
「ところで、今更、南セントラル平原に行って何をしてたんッスか?」
「南セントラル平原に用はないが、アギオスの固有スキルの性能を確認しておきたくてな。敵が弱いところで試していただけだ」
本当はユヅハに呼ばれていたからなのだが、それを言うわけにはいかないからな。ここは尤もらしい理由を付けて誤魔化しておく。
「そうだったんッスね。その子の防具は作らないんッスか?」
「もちろん作る予定ではあるが、まだ方向性が決まっていなくてな」
アギオス用の装備品はもちろん作る予定だが、どんな性能の物にするのかを決められていないからな。
繋ぎとして適当に何か作るつもりではあるが、まだ本格的な物を作るつもりはない。
「相談になら乗るッスよ?」
「それはありがたいが、それは方向性が決まってからにさせてもらおう」
相談した方が良い物を作れるのは間違いないからな。性能の方向性が決まり次第、相談させてもらうことにした。
「分かったッス。それと、『猫又商会』ではテイムモンスター用の防具の注文も承ってるッスから、あっしらに注文してくれても良いッスよ?」
「分かった。では、俺達はそろそろ行くとしよう」
情報収集を再開したいからな。話はここまでにして、そろそろ動くことにした。
「呼び止めて悪かったッスね」
「別に気にしていない。では、またな」
そして、シェーダと別れた俺達はそのまま二手に別れて、イベントに関しての情報収集を再開したのだった。
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