episode275 ユヅリハからの依頼

 それから適当に敵を蹴散らしながら最短ルートで移動した俺達は、道中何事もなく無事にセントラル遺構に到着していた。


「……着いたな」

「……うん」

「ここに来るのは遺物の調査のとき以来か」


 この場所にあるのは【古代術式】アビリティの調査対象である遺物だけで、他には特に何もないからな。

 それさえ済ませてしまえばこの場所に用はないので、ここに来るのはかなり久々だった。


「……来たわね」


 と、そんなことを思ったのも束の間、俺達が来たことを確認したユヅハは透明化を解いて、遺構の中央に姿を現した。


「待たせたか?」

「そんなに待っていないわ。…………」

「……どうした?」


 ユヅハは俺とリッカのことをじっと見ていて、何か気になることがあるようだからな。少しそのことについて聞いてみることにする。


「……少しは成長したみたいね」

「まあな。以前の俺とは違うぞ?」


 これでもアドラからの試練は乗り越えたからな。『根源解放』も『根源覚醒』に進化して、確実に強くはなっている。


「褒められたからと言って、調子に乗らないことね。まあその話は良いわ。そろそろ本題に入るわよ」


 だが、そんな数少ない誇れる話も軽く流されてしまった。


「話は島の調査の件よ」

「ふむ……やはり、そのことだったか」

「あら、分かっていたのね」

「予想が的中しただけだ」


 わざわざこの時期に話を持ち掛けて来たわけだからな。何かしらの関連があると予想することは難しくない。


「それで、話とは一体何なんだ? 依頼か?」

「察しが良いわね。そうよ」


 適当に言ってみたのだが、それが当たっていたようで、どうやら、俺達に何か依頼したいことがあるらしい。


「私達からの依頼は遺物の回収よ」

「遺物の回収? 詳しく聞いても良いか?」


 依頼内容は分かったが、依頼理由など聞きたいことはたくさんあるからな。このまま詳しく話を聞いていくことにする。


「あなたは黙って指示通りに動けば良いわ。……そう言いたいところだったけど、今回はユヅリハ様から必要であれば話すよう言われているから、特別に話してあげるわ。ユヅリハ様に感謝しなさい」

「……寛大なユヅリハ様に感謝する」


 彼女のこの態度もいつものことだからな。まともに取り合うのも面倒なので、適当に流して話を進めていく。


「では聞くが、何故わざわざ俺達に依頼するんだ? ユヅリハ様なら自力で何とかできそうなものだが?」


 最初の質問は依頼理由についてだった。彼女であれば、俺達に依頼せずとも自力で解決できるはずだからな。わざわざ依頼して来るのは少々不可解なので、まずはそれから聞いてみることにした。


「そうね。確かにやろうと思えば私達だけでも遺物の回収はできるわ。でも、ちょっと場所が悪いのよ」

「場所?」


(そう言えば、島の場所についての情報は持っていないな)


 イベントページにも「とある島」としか記載されておらず、その場所までは記されていなかったからな。

 別に島がどこにあろうとも攻略には関係ないので、特に気にしていなかったのだが、どうやら、そうも行かないらしい。


「あら? 島の場所も知らずに調査に参加するつもりだったのかしら?」

「……悪いが、情報収集の最中でな。その情報はまだ掴めていなかっただけだ」


 まだ情報収集を始めたばかりで、ほとんど情報が手に入っていないのは事実だからな。そこはきちんと主張しておく。

 尤も、島の場所は特に関係しないと思っていたので、その情報は調べるつもりはなかったのだが、それは心の中に留めておくことにする。


「そう。だったら、教えてあげるわ。島があるのはヒムノリア地方よ」

「ヒムノリア地方……つまり、人間が多く住んでいる地域か」

「……ちょっと語弊があったわね。場所としてはヒムノリア地方に属しているけど、島がある場所は辺境だから、ほとんど人はいないわ」

「む、そうか」


 ヒムノリア地方が人間が多く住む地域であることに違いはないが、先程の話はあくまでも属している地域の話であって、島のある辺りは人が住んでいるような場所ではないらしい。


「それで、場所が悪いと言っていたが、ヒムノリア地方だと何か都合が悪いのか?」

「ええ、問題大ありよ。ヒムノリア地方はミステアの管轄だから、そこにある遺物を勝手に持ち出したら、文句を言われる可能性が高いわ」

「……なるほどな」


 どうやら、秘神ミステアに文句を言われると面倒なので、それを避けるために俺達に遺物を回収させようとしているらしい。


「だが、それだと俺達が文句を言われないか?」


 それは分かったのだが、それだと代わりに俺達が文句を言われることになるからな。

 できるだけ面倒事は避けたいので、この様子だとそう簡単に依頼を受託することはできなかった。


「問題はそこじゃないわ」


 しかし、ユヅハはそもそも論点が違うと、俺の懸念をあっさりと否定した。


「と言うと?」


 そう言われても、こちらはあまり事情が分かっていないからな。ひとまず、詳しく話を聞いてみることにする。


「……いや、待て。そういうことか」


 だが、ここで俺はここまでの話や過去に聞いた話で得た情報から、その「事情」に気付くことができた。


「……言ってみなさい」


 その様子を見たユヅハは試してやると言わんばかりに、こちらの話を聞く態勢を取る。


「まず、俺達が調査する分には遺物の回収も含めて問題はない。そうだろう?」

「……ええ」


 順を追って説明しつつ確認を入れると、ユヅハはそこまでは正解だとそう一言だけ返して来る。


 調査という行為自体に問題があるのであれば、ミステアが黙っているはずがないからな。

 下調査はしているようだし、それを受けた上で調査が実行に移されようとしていることを考えると、遺物の回収自体には問題がないことが分かる。


「問題はユヅリハ様が回収するという点だ」


 そう、問題になるのはユヅリハが回収を行うという点だった。そうでなければ、わざわざこちらに頼んだりはしないからな。ポイントはここだった。


「ミステア様は仲の悪い相手に手を出されるのが気に食わない。そういうことではないか?」


 神々やそのけんぞく同士で仲が良いところもある反面、そうでないところもあるという話はオーリエから聞いていたが、先程ユヅハは秘神ミステアのことを呼び捨てにしていたからな。

 アドラにもちゃんと様付けをしていた彼女が、精霊種よりも上位の存在である神を雑に扱うとは思えないので、仲が悪いのは明白だった。


 そして、そこから導き出される結論はユヅリハと秘神ミステアは仲が悪く、自分が直接動くと文句を言われるので、俺達を使って遺物を回収させようとしているということだった。


「正解よ。少しはやるわね」

「少しは余計だ」

「それで、もちろん話は受けてくれるわよね?」

「それは条件次第だな」


 まだ全然話を聞けていないからな。聞きたいことはまだまだあり、この段階では決められないので、それにはまだ答えないでおく。


「あら? ユヅリハ様が指名してくださったのに、それを無下にするつもりかしら?」

「別にそういうわけではない。もう少し話を聞きたいだけだ」


 別に依頼を受ける気がないわけではないからな。条件が良ければ普通に依頼を受けるつもりなので、そこはきちんと伝えておく。


「それなら良いわ。それで、何を聞きたいのかしら?」

「報酬はあるのか?」


 やはり、一番気になるのは報酬だからな。まずはそれから聞いてみることにする。


「ええ、あるわよ」


 ユヅハがそう言うと、俺達の前に報酬のリストが記されたウィンドウが表示された。


(色々と気になる物はあるが、後で詳しく見てみるか)


 リストには見たことのないアイテムもあり、気になるところではあるが、今は話を聞いて行った方が良さそうだからな。

 リストの確認は後回しにして、このまま質問を続けることにした。


「島への渡航はどうすれば良いんだ?」


 商会側に付けば商会が用意した船で島まで行くことができるが、ユヅリハ側に付くとなるとそうも行かないからな。

 地図上での島の場所は分からないが、自力で行ける場所でないことは確かなので、島への渡航手段を用意してもらう必要があった。

 なので、次はそのあたりのことについて聞いてみることにする。


「普通に商会の船で行けば良いじゃない」


 だが、ユヅハから返って来た答えはそんな適当なものだった。


「いや、そのためには商会側に付く必要があるのだが?」


 商会が用意した船に乗るためには、当然その陣営に属している必要があるからな。ユヅリハ側に付くとなると、その方法を取ることはできなかった。


「商会側に付く振りをして乗れば良いじゃない」

「……つまり、参加者として偽って船に乗れと?」

「ええ、そうよ。そんなことも分からなかったのかしら?」

「いや、そう言われてもだな……」


 そんな話はされていないからな。いきなりそう言われても困る。


「私達が送ったら、あなた達に頼む意味がないじゃない。考えれば分かることでしょう?」

「それはまあ……そうだな」


 しかし、よく考えれば分かることだと言われれば否定はできないからな。それには反論できなかった。


「それじゃあ改めて言っておくわね。ミステアに悟られると面倒だから、あなた達には普通の参加者として動いてもらうわ」

「……そういうことはちゃんと言ってくれ」


 行き違いがあると困るからな。条件はきちんと提示してもらいたいところだった。


「それは分かったが、遺物の受け渡しなんかはどうするんだ?」


 普通の参加者として振る舞うということは分かったが、遺物の受け渡し方法など、懸念すべきことは色々とあるからな。

 そのあたりのこともちゃんと決めてあるのかどうかを確認しておく。


「それは私達の方に付くことを決めたら話してあげるわ」


 だが、情報漏洩を懸念してか、現段階では細かい話をするつもりはないようで、この様子だとこれ以上の情報は得られそうになかった。


「そうか。では、持ち帰って考えさせてもらっても良いか?」


 まだあまり情報が集まっていないからな。決めるには早いので、ひとまず、返事は保留させてもらうことにする。


「何を言っているのかしら? 考えることなんて何もないじゃない。もしかして、断るなんて選択肢があると思っているのかしら?」


 しかし、ユヅハは引き受ける以外の択を取らせる気はないと、こちらに詰め寄って俺のことを睨み付けて来た。


「……まあ良いわ。決まったら連絡しなさい」


 だが、初めからその気だったのか、気が変わったのかは分からないが、結局、返事の保留は認めてくれた。


「分かった。では、俺達はもう行くことにしよう」

「待ちなさい」


 俺は話が済んだところで帰ろうとするが、ユヅハはまだ言いたいことがあるようで、すぐに俺達のことを呼び止める。


「……まだ何かあるのか?」

「ええ。ユヅリハ様から聞いていないのかしら?」


(そう言えば、ユヅリハは別件で話があると言っていたな)


 ユヅリハは別件で直接会ってもらう必要があると言っていたからな。これからする話はその「別件」の方の話らしい。


「……忘れていただけだ」

「そう。それなら良いわ。それじゃあ場所を移しましょうか」

「……分かった」


 まだ話の内容までは聞いていないので、そのあたりのことを聞こうとするが、話は移動しながらでも聞けるからな。ここはとりあえず、ユヅハに付いて行くことにした。


「付いて来なさい」

「ああ」

「……うん」

「グルッ!」


 そして、そのまま俺達はユヅハの後に続く形で移動し始めたのだった。

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