第10章 島の調査イベントの準備

episode271 ホーリーホーンドラゴンの幼体への命名

 翌日、俺達はいつもより早い朝の時間にログインしていた。


「さて、あいつは……寝ているな」


 ログインした俺はホーリーホーンドラゴンの幼体の様子を確認するために拠点内を見渡すが、幼体は部屋の隅で丸くなってすやすやと眠っていた。


「……グル?」


 だが、人の気配を察してか、幼体はすぐに眠りから覚めた。


「……グルッ!」


 そして、起き上がって俺の姿を確認すると、そのままこちらに跳び掛かって来た。


「おわっ⁉」


 俺はそれによって押し倒されそうになるが、後ろに下げた右足で何とか耐える。


「全く……そんなに会いたかったのか?」

「グルッ!」

「そうか。とりあえず、ギルド拠点に向かうぞ」


 色々と確認したいことはあったが、昨日はすぐにログアウトしてしまったからな。

 これから確認したいところだが、リッカと一緒の方が何かと都合が良いので、まずはギルド拠点に向かうことにした。


「付いて来てくれ」

「グルッ!」


 俺は拠点の扉を開けて、そこから二人でギルド拠点に移動する。


「リッカは……いるな」

「……当然」


 ギルド拠点に向かうと、そこではリッカが席に着いて俺のことを待っていた。


「……で、どう?」

「とりあえず、正式にテイムモンスターになったといったところだな」


 俺は席に移動しながらリッカの質問に答える。


「…………」


 ここでリッカはホーリーホーンドラゴンの幼体のステータスを確認しているのか、幼体をじっと見つめて黙り込む。


「……名前付けたら?」


 そして、名前が未設定になっているのを見てか、名前を付けるよう勧めて来た。


「今からそうするつもりだ」


 幼体の名前は考えておいたからな。ログインしたら名前を付けるつもりだったので、このままそれを実行に移すことにした。


「こちらを向いてくれるか?」

「グル?」


 俺は幼体の方を向いて目を合わせて、きちっと改まる。


「今からお前に名前を付けようと思う。お前の名前はアギオス。アギオスでどうだ?」


 そして、考えておいた名前を告げて、これでどうかと提案した。


「グルッ!」


 幼体はその名前で気に入ってくれたようで、嬉しそうな鳴き声を上げる。


(ステータスにも反映されたな)


 ここでステータス画面を確認してみると、未設定になっていた名前の欄には「アギオス」と記載されていて、正式に命名が完了していた。


「……装備作るの?」


 リッカは命名が完了したタイミングを見計らって、話を進め始める。


「ああ」


 これから一緒に戦って行くことになるからな。もちろん、装備品は用意するつもりでいる。


「ただ、モンスターの装備は作ったことがないし、まずは試作からだな」


 モンスターの装備品はそのモンスターに合わせた専用の物を作る必要があるからな。基本的に店では売っていないので、自分で作るか特注で依頼する必要があるが、確認の意味も込めてまずは自分で作ってみるつもりだ。

 なので、とりあえず試作をして、それが済んでからどうするかを考えるつもりでいる。


「……言われてみれば、フェニーにも作ったことない」

「フェニーは……仕方がないだろう?」


 タイニーフェニックスのフェニーはほとんど外には連れ出さないし、ステータスが貧弱すぎて装備もあまり意味を成さないからな。

 そちらに装備品は作っていないので、モンスター用の装備品の作製は今回が初めてになる。


「とりあえず、アギオスが装備できるのは頭、胴、尻尾の三部位のようだが、まあ作製自体には問題はないか」


 モンスター用の装備品の作製とは言うが、特別難しいことはなく、そのモンスターに合うように装備品を作るだけだからな。

 言ってしまえば、工程は普段と変わらず、整える形が普段と違うというだけなので、初めてではあるがそんなに問題はなさそうではあった。


「やはり、問題となるのは素材か……」


 まだどのような戦闘スタイルにするかも決まっていないからな。戦闘スタイル次第で付与すべき効果も変わるので、現段階で素材を決めるのは難しそうだった。


「……どうするの?」

「しばらくは繋ぎとして適当な素材で作った物を使うことになるな」


 だが、装備があるかどうかで大きく変わるからな。しばらくは適当な素材で作った物を使って、次のイベントまでに素材を決めて整えるつもりだ。


「……そう」

「まあプレイヤーだと一番重要になる武器は装備できないし、そんなに悩むこともないだろうな」


 普段は武器が一番重要で悩むところなのだが、アギオスは武器を装備できないからな。そこで悩むことがない分、楽に決められそうではあった。


「……あのステに武器はダメ」

「それは同感だ」


 素のステータスが他の追随を許さないレベルに高いからな。武器まで装備できるとやりすぎなので、そこには納得している。


(まあ武器を装備できないからこその高い攻撃ステータスなのだろうがな)


 武器を装備できるモンスターは素の攻撃力が低く設定されているらしいからな。

 ステータスは装備との兼ね合いも見て設定されているので、あれだけ高いステータスを持っている時点で武器を装備できないことは半ば分かっていたことではあった。


「……SP振りも後?」

「ああ」


 プレイヤーとは違って、テイムモンスターにはスタイルの概念はないが、SPとステータスボードの概念はあるからな。

 SPをどう割り振るかを決めたいところだが、戦闘スタイルすら決まっていない今の状態ではそれも決められないので、それも後回しにするつもりだ。


「だが、確認はしておくか」

「……うん」


 取得できるステータスボードはモンスターごとに決まっているらしいからな。まだ割り振るつもりはないが、確認だけはしておくことにした。

 俺はリッカにも確認できるようにしてからアギオスのステータス画面を開いて、そこから取得可能なステータスボードのリストを確認していく。


「ふむ……火力方面にも耐久方面にも振れる感じか。悩ましいな」


 物理と魔法の両刀アタッカーができるだけでなく、高い耐久ステータスも持っているからな。選択肢は多いので、そう簡単には決められそうになかった。


「……アビは考えてる?」

「いや、まだだな。……そう言えば、テイムモンスターにアビリティを習得させるにはSPが必要になるのか」

「うん」


 プレイヤーの場合はアビリティは条件を満たすことで習得できるのだが、テイムモンスターに同じことをやらせるのは難しいからな。

 それを考慮してか、テイムモンスターにはアビリティを習得できる専用のステータスボードが用意されているらしいので、基本的にはそれを使って習得させることになる。

 なので、SPの割り振りはよく考えて行った方が良さそうだった。


 まあテイムモンスターにもプレイヤーと同じように条件を満たすことで習得できるアビリティもあるらしいのだが、今はその話は置いておくことにする。


「習得可能なアビリティのリストなんかがあれば楽だが……まあないよな」


 モンスターごとに習得できるアビリティはある程度決まっていて、制限があるらしいのだが、流石にその詳細までは記されていないからな。

 やはり、情報がない現段階で決めるのは止めておいた方が良さそうだった。


「……この後どうする?」

「アギオス用の防具を作ってから適当に探索ということでどうだ?」


 アギオスと一緒に戦うことにも慣れておきたいし、どの方向にステータスを伸ばしていくかも考えなければならないからな。

 この後は専用の防具を作製して、それが済んだところで適当なエリアを探索してみるつもりだ。


「……分かった。でも、その前に次回のイベ情報見る」

「む、もう来ているのか」


 リッカに言われてメニュー画面を開いて確認してみると、今朝の更新で次回のイベントに関しての情報が公開されていた。


「とりあえず、このまま見ていくか」

「……うん」


 次回のイベントも見据えながら動きたいからな。そのためにも情報は確認しておきたいので、このまま見てみることにした。

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