episode267 眷属ウルフへの対処

「はっ――」

「――グル?」


 蘇生した俺は『クイックステップ』を使って接近するが、それに気付いたたいろうはホーリーホーンドラゴンの幼体へ攻撃を仕掛けるのを止めて、こちらを振り向こうとしていた。


(油断している――これはチャンスだな)


 倒したと思って、こちらから意識を外していたようだからな。この隙を突けば何とか攻撃を叩き込めそうだった。


「ここしかないな――『バレッジブレード』!」


 なので、ここで一気に仕掛けてしまうことにした。俺はすぐに『バレッジブレード』を発動して、生成した刃をたいろうに向けて飛ばして攻撃する。


「グル――ォッ!」


 たいろうは不意を突かれたからなのか、明らかに反応が遅れていた。

 たいろうは攻撃を回避するために跳び退こうとするが、それも間に合わずに俺の放った刃が着弾する。


(ダメージは稼げなかったか)


 しかし、途中から離脱されてしまったので、あまりダメージを稼ぐことはできなかった。


(でも、今はこれで十分か)


 だが、今すべきことは早急な立て直しだからな。仕切り直しにできただけでも十分なので、このまま態勢を立て直すことにした。


たいろうの相手は頼んだ」

「グルッ!」


 俺はホーリーホーンドラゴンの幼体にたいろうの相手をするよう指示しながら、【癒しのアロマ】とリジェネ効果付きの【HP回復ポーション】を使ってHPを回復していく。


(さて、ここからだな)


 何とか仕切り直しに持ち込んだは良いが、次はけんぞくウルフの相手をしなければならないからな。

 ここからが本番と言っても過言ではないので、このまま気を引き締めて行くことにした。


たいろうの方は一旦置いておくか)


 たいろうの攻撃について考えたいことはあるが、今はそんなことをしている余裕はないからな。

 今は目の前にいるけんぞくウルフの相手をすることに集中することにした。


(暗闇はまだ効いている――が、離れるわけにも行かないか)


 暗闇はまだ付与された状態なので、離れれば無力化できるようにも思えるが、そうするとたいろうに再度集合を掛けられてしまう可能性が高いからな。

 当初予定していた戦術は崩されてしまったので、今はこのまま相手する以外の択はなさそうだった。


(やはり、情報が少ないと崩される可能性も上がる――が、それも仕方ないか)


 たいろうのことについてはしっかりと調べたが、情報があまりなかったからな。

 調べられるだけのことは調べた上での結果なので、そこは仕方がないと言っても良さそうだった。


(とりあえず、どうやってクラウドコントロールをしていくかを考えないとな)


 この戦いで重要になるのはクラウドコントロールだからな。事前に考えていた方法ではうまく行きそうにないので、改めてどうするかを考えることにした。


 ちなみに、クラウドコントロールというのは、戦闘を有利に進めるために拘束系の状態異常などで敵を足止めするなどして、戦う敵の数を制限することだ。

 まあ複数の敵を同時に相手するのは難しいからな。MMO系のゲームではよく用いられる戦術で、一度に相手する敵の数を減らすことで各個撃破をしやすくしたり、タンクの負担を減らすなどして、戦況をコントロールするとのことらしい。

 今回の場合だと、けんぞくウルフを足止めして、たいろうとの戦闘を優位に運ぶことが目的になる。


(ひとまず、様子見するか)


 たいろうに呼ばれなければ、予定通りに進められるからな。ここは一旦、様子を見ることにした。


「アオオォォーーーン!」


 だが、そう思ったのも束の間、たいろうは遠吠えを上げて、けんぞくウルフ達に集合を掛けた。


「まあそう簡単には行かないよな。はっ!」


 このままだとけんぞくウルフがたいろうの方に向かってしまうからな。

 そうなってしまっては困るので、俺は【氷炎爆弾】をけんぞくウルフの近くに投擲して、敵の注意を引き付ける。


「グルッ!」

「アウッ!」


 すると、けんぞくウルフ達は一斉にこちらを振り向いて、攻撃を仕掛けて来ようとしていた。


(集合の優先度が低いのは助かるな)


 こちらのことを無視して集合されると仕切り直す必要が出て来るが、少しちょっかいを出すだけで止められるようだからな。集合の優先度が低いのはこちらとしてはありがたかった。


「――来い!」

「グルッ!」

「アウッ!」


 俺は短剣を構えて、そのままけんぞくウルフの攻撃を一つずつ捌いていく。


(とりあえず、暗闇が付与されている間は何とかなりそうだな)


 暗闇で視程が狭まっていることで、全体的に動きが鈍っているからな。ひとまず、暗闇が付与されている間は問題なく凌げそうだった。


(だが、攻撃を捌くのでやっとなのは困るな)


 今の状態であれば攻撃は捌けるのだが、暗闇を付与してこの状態だと、解除された後は厳しいだろうからな。この調子だと、討伐まで持ち込むのはほぼ不可能と言っても良さそうだった。


 それに、たいろうへの攻撃をホーリーホーンドラゴンの幼体だけに任せていては火力が足りないからな。

 けんぞくウルフの動きを止めつつ、俺もたいろうに攻撃する必要があるので、何か策を考える必要がありそうだった。


(ひとまず、暗闇が切れるまではこのまま行くか)


 暗闇が付与された今の状態なら攻撃を捌けているし、その暗闇もあと五秒ほどで解除されるからな。

 行動を起こすにしても暗闇が解除されてからで良さそうなので、ここはこのまま攻撃を捌き続けることにした。


「はっ!」

「アウッ!」


 俺は短剣と腕当てをうまく使って攻撃を弾いて、けんぞくウルフ達の攻撃を捌いていく。


(……暗闇が切れたな)


 それから数秒はこれまで通りに攻撃を凌いでいくが、ここで暗闇が切れてしまった。


「グルッ!」

「アウッ!」


 それと同時にこちらのことをはっきりと認識したけんぞくウルフ達は一斉に攻撃を仕掛けて来る。


「っ――『マテリアルウォール』!」


 流石にこれは捌き切れないからな。俺はすぐに『マテリアルウォール』で壁を展開して、物理的に攻撃を遮断する。


(ここからどうするかだが、とりあえず、これを使うか)


 暗闇が切れたので、ここからどう足止めするかを考える必要があるが、一つ試したいことがあるからな。まずはそれを試してみることにした。


「これでどうだ?」


 短剣を片付けた俺は両手に【呪詛の杭】を持って、後方に下がりながらそれを『マテリアルウォール』で展開した壁の両端に向けて投擲する。

 すると、真っ直ぐと飛んで行った【呪詛の杭】は地面に突き刺さって、そこから紫色の怪しい煙を発し始めた。


「グルルッ!」

「む、ダメか」


 だが、壁を迂回したけんぞくウルフ達は【呪詛の杭】によって展開された領域を気にも留めずに、そのまま領域を突っ切ってこちらに接近して来ていた。


(無視されるのは困るな)


 これを無視されると、【呪詛の杭】では動きを制限できないということになるからな。考えていた手段の一つが使えないというのは困りものだった。


「グルッ!」

「ならば――はっ!」


 このまま相手しても押し切られるだけだからな。俺は『パワージャンプ』で前方に跳躍して、『マテリアルウォール』で展開した壁を跳び越えて向こう側に移動する。


(この調子だと、押し切られるのも時間の問題か)


 何とか攻撃を凌げたは良いが、これもその場凌ぎに過ぎないからな。根本的な解決にはならないので、早く策を考えないと詰むのは確実だった。


「アオン!」

「グルルッ!」


 だが、悠長に考えている時間はない。けんぞくウルフ達は先程と同じように壁を迂回して、こちらに迫ろうとする。


「――む?」


 しかし、ここで俺は敵の動きの変化に気が付いた。


(領域を避けた――?)


 先程は【呪詛の杭】で展開された領域を突っ切って仕掛けて来たけんぞくウルフ達だったが、今度はその領域を避けながら迫って来ていた。


(一体に呪いが入って――そういうことか!)


 俺はすぐにその原因を探ろうとするが、敵に呪いが付与されているのを見て、その理由を瞬時に理解することができていた。


 先程、けんぞくウルフ達が【呪詛の杭】で展開された領域を無視して突っ切って来たのは、それが呪いが付与される領域だと知らなかったからだ。

 向こうからすれば【呪詛の杭】は初めて見る物で、どのような効力がある物なのかを分かっていなかっただろうからな。脅威には値しないと判断したからなのか、無視して突っ切るという選択肢を取っていた。


 しかし、呪いが付与されたことでそのような領域だと理解して、危険だと学習したようだからな。今度はそれを活かして、領域を避けるように動いていた。


「ならば好都合――はっ!」


 だが、そう動いてくれれば予定通りに事を運べるので、こちらにとっては非常に好都合だった。

 俺は【呪詛の杭】を追加で前方に投擲して、さらに領域を展開していく。


「グル……」


 すると、けんぞくウルフ達はその領域を避けるように、わざわざ迂回してこちらに迫って来ていた。


「ここだな。『マテリアルブレード』」


 俺はその隙にたいろうに向けて遠距離攻撃を放って、そのHPを着実に削っていく。


(これで何とかなりそうではあるが、幼体のHPが減っているし、一度仕切り直すか)


 【呪詛の杭】で敵の動きを制限できることは分かったので、このまま予定通りに動いて行きたいところだったが、ホーリーホーンドラゴンの幼体のHPがそこそこ減っているからな。ここは一旦、仕切り直すことにした。


「下がってくれ。回復して仕切り直すぞ」

「グルッ!」


 俺は【呪詛の杭】を投げて呪いが付与される領域を展開することで敵の接近を遅らせて、幼体と合流したところで【豊穣の種】と【癒しのアロマ】を使ってリジェネ効果を付与する。

 さらに、【HP回復ポーション】も使って幼体のHPを一気に回復した。


(やはり、たいろうの相手をさせるのは厳しいか?)


 ホーリーホーンドラゴンの幼体はタンク張りの高い耐久ステータスを持っているが、タンク並みに硬いかと問われれば答えはノーだ。

 何故かと言うと、幼体は装備品を着けていないので、防具によるダメージ軽減効果がなく、盾によるガードも行えないからだ。


 このゲームでは攻撃が防具に当たった場合はダメージが軽減されるのだが、装備品がないということはその補正を得られないということになるからな。

 ステータスの数値は高いが、その数字ほどの耐久力はないと言わざるを得なかった。


 それに、タンクの高耐久を支えているのは盾でのガードによるダメージカットが一番大きいからな。

 それができない以上はいくらステータスが高くてもタンクのような耐久力を得ることは不可能だった。


(かと言って、けんぞくウルフの相手をさせられるかと言うと、厳しい……と言うより、たいろう以上にきついか)


 けんぞくウルフはストライクウルフが呼び出すものと同じなので、そんなに強くないと思うかもしれないが、あちらとは条件が違うので、同じ敵でも脅威度が大きく異なっていた。

 けんぞくウルフは攻撃力が高い代わりに耐久面は脆くなっているので、ストライクウルフ戦の場合であれば素早く倒してしまえばあまり脅威にはならない。

 だが、たいろう戦では無限湧きによって弱点である耐久力がカバーされているからな。その高い攻撃力が十全に活かされることになるので、たいろう戦におけるけんぞくウルフは脅威と言う他なかった。


「とりあえず、これまで通りに行くぞ」

「グルッ!」


 何か有効な策を考えたいところだが、敵も迫って来ていてその時間もないからな。ここはこれまで通りに戦いつつ策を考えていくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る