episode265 新たなる試練

 それから俺達は計画した通りに攻略を進めて、順調に攻略を進められていた。


「さて、そろそろだな」


 ホーリーホーンドラゴンの幼体の高いステータスは優秀で、余裕を持って攻略を進められているからな。

 そのおかげもあって、そろそろ目的地である洞窟に到着しそうだった。


「このまま行けば良いが……む?」


 この調子で進むことができれば試練は無事に突破できそうだったが、ここで前方に怪しい影を発見した。


「あれは……たいろうか」


 すぐに【望遠鏡】を取り出して確認してみると、その影の正体はたいろうで、こちらに駆け寄って来ていることが確認できた。


「すぐに離れるぞ」

「グルッ!」


 なので、戦闘を避けるために、すぐにこの場を離れることにした。


「――少し待つがい。『【りゅうがい】――えいごうふうじん』」


 だが、ここで上空から巨大な尖った骨のような物が俺達の周囲に降り注ぐと、それらの間に結界のような物が展開されて、その中に閉じ込められてしまった。


「……アドラ様?」


 直後、アドラが上空から素早く降下して来て、その骨のような物の上に着地する。


「どうしたんだ?」

「先の内容では少々簡単すぎるかと思っての。最後に一つ実力を示してもらうことにした」

「……つまり、アレを倒せと?」


 俺は先の方にいるたいろうに視線を向けながら、アドラに確認を取る。


「そうじゃ」

「……聞いていないのだが?」

「先程決めたからの。それも当然じゃろう」

「ここに来て条件を変えられてもだな……」


 試練の達成条件を変えられると、話は変わって来るからな。いきなりそう言われても困る。


「今まで通りの条件ではダメなのか?」

「そうじゃの」

「その理由を聞いても良いか?」


 正当な理由もなしに気分だけで条件を変えられるわけには行かないからな。ひとまず、変更の理由を聞いてみることにする。


「良かろう。では聞くが、そもそも試練は何のために行うか分かっておるかの?」

「より高みへと至らせるためだろう?」

「まあ大体そんなところじゃの。ならば、分かるであろう?」

「……何がだ?」


 それだけだと、はっきりとした答えになっていないからな。このままさらに詳しく聞いてみることにする。


「高みへ至るには壁を越える必要がある。『根源覚醒』の習得となると尚更じゃ」

「……つまり、最初に示した条件だと壁にもならないと?」

「そういうことじゃな」


 どうやら、このままでは『根源覚醒』の習得には至らないと判断したようで、それを理由に試練の内容を変更しようとしているらしい。


(つまるところ、当初の想定と違ったということか)


 条件として不足していることが初めから分かっていれば、このようなことにはなっていないはずだからな。

 見たところ、最初に想定していた展開とズレが生じて、内容を変更せざるを得ない状況になっているものだと思われた。


「元々はどういう想定だったんだ?」

「その幼体を守り抜く流れになることを想定しておったな」

「つまり、共闘するのは想定外だったと?」

「理解が早くて助かる」


 どうやら、ホーリーホーンドラゴンの幼体には戦闘をさせずに、俺がそれを守り抜くという流れを想定していたようで、共闘することは想定になかったらしい。


(まあそれもそうだよな……)


 実際、俺も当初はその想定だったからな。共闘しようとは微塵も思っていなかったので、それも仕方がなさそうだった。


「それでも、それなりの戦いはして来たと思うが、やはりダメなのか?」

「そうじゃの。この程度では『根源覚醒』の習得には至らんな」

「……そうか」


 ここまで順調に攻略を進められてはいたが、決して楽な道のりではなかったからな。危ない場面も多かったので、そこは評価して欲しいところだった。


(だが、リッカと比べるとあからさまに簡単なのは間違いないからな……)


 とは言え、リッカの試練と比較すると、難易度に大きな差があることは明白だからな。

 これでクリアしたところで、『根源覚醒』の習得ができないと言われても納得せざるを得なかった。


「……不満かの?」

「全くないと言えば嘘になるな」


 達成目前でいきなり条件を変えられたわけだからな。戦うこと自体にはもう納得しているが、一切不満がないと言えるかと問われれば答えは否だった。


「……詫びと言ってはなんじゃが、ここまで来れたことを評価して別途報酬を出そう。それで良いかの?」

「ああ、構わないぞ」


 報酬とやらの内容は分からないが、本来は貰えないはずの物だからな。貰えるだけでありがたいので、この話はここまでにすることにした。


「それで、討伐に当たっての条件は何かあるのか?」

「条件はその幼体と共に戦い、たいろうに勝利することじゃな。もちろん、共に生き残ることも条件じゃぞ?」

「そうか」


 幼体の生存が条件なのは相変わらずだが、戦闘における特殊な条件はないようなので、考えることはそう多くはなさそうだった。


「まあそれは良いのだが、条件がどうこう以前に倒せる気がしないのがな……」


 それなりに長期戦になる以上、どこかで崩れる可能性が高いからな。一瞬の油断が全滅に繋がる相手なので、正直に言って条件がなかったとしても倒せる気がしなかった。


「そう言うと思って、少し手を加えさせてもらったぞ?」

「と言うと?」

「流石に其方そなたが無傷の奴と戦って勝てるとは思っておらんからの。わらわが弱らせておいたぞ」

「……どうやら、そのようだな」


 そう言われてたいろうの様子を確認してみると、そのHPが八割近くも削られた状態になっていた。

 どうやら、俺達が到着するまでに削ってくれていたようで、これなら少しは勝ちの目もありそうだった。


「他に聞きたいことはあるかの?」

「いや、特にないな」

「では、わらわは上で待つとしよう。結界は二分後に解くが、それでいな?」

「ああ」


 そんなにすべきこともないからな。準備を整えるには十分な時間なので、それで了承しておく。


「では、また後で会おう」


 そして、話が済んだところで、アドラは翼を広げて上空に飛び去って行った。


「……行ったか。話は聞いていたな?」

「グルッ!」


 アドラが行ったところでホーリーホーンドラゴンの幼体に確認を取るが、ちゃんと話は理解していたようで、こちらから説明する必要はなさそうだった。


「まさか、たいろうと戦うことになるとはな……」


 試練の内容を聞かせれる前はその可能性もあると思っていたが、途中で試練の内容が変更されるのは想定外だったからな。

 ここに来てたいろうと戦うことになるとは思ってもいなかった。


たいろうのことをしっかりと調べておいて良かったな……)


 とは言え、試練の相手がたいろうになることも想定して、特徴などはちゃんと調べておいたからな。それを基に戦術を立てられるのは幸いだった。


「まあそれはさておき、そろそろどうするかを考えていくか」


 そんなにゆっくりしている暇はないからな。そろそろたいろう戦における戦術を考えていくことにした。


(とは言っても、けんぞくウルフの処理をどうするかだけを考えれば、それで良いか)


 たいろう戦のポイントはけんぞくウルフへの対処で、戦術を考える上ではそれだけを決めておけば十分だからな。

 さっさとその方針を決めてしまって、戦術を組み立てていくことにした。


 このけんぞくウルフはストライクウルフが呼び出すものと同じなので、そんなに強いわけではないが、問題はあちらとは違って、常に一定の数が維持されることだった。

 ストライクウルフ戦では召喚という形になるので、倒してしまえば再召喚されるまでは相手せずに済む。

 だが、たいろう戦ではけんぞくウルフはたいろうの召喚によって現れるわけではなく、一定の数になるまで自然とどこからか現れるというようになっている。

 そのため、倒しても新たな個体がどこからともなく現れるので、常にけんぞくウルフの相手をする必要があった。


「とりあえず、基本的には俺がけんぞくウルフの相手をすることにしよう。お前はたいろうの相手をしてくれるか?」

「グルッ!」


 けんぞくウルフは倒しても意味がないことから、そちらに火力のリソースを割くのは無駄になるからな。

 そう考えると、けんぞくウルフは適当にいなしたいが、低敏捷かつ近接攻撃がメインのホーリーホーンドラゴンの幼体にはその役は不適なので、けんぞくウルフは俺が相手することにした。


「基本的にスキルは自由に使って良いが、『ライトニングフラッシュ』だけはこちらが指示しない限りは使わないでくれ。分かったか?」

「グルッ!」


 暗闇を付与できる『ライトニングフラッシュ』はけんぞくウルフの足止めに使いたいからな。

 そのスキルだけはたいろうには使って欲しくないので、これだけは制限しておくことにする。


「では、このまま始まるのを待つか」


 後は戦闘の状況に応じて臨機応変に対応するだけで、これ以上話すようなこともないからな。方針が決まったところで、その後は静かに結界が解けるのを待ったのだった。

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