episode263 試練開始!
洞穴を出発した俺は予定通りにマップの端の方を移動して、南方平原に繋がる洞窟を目指していた。
(専用のコピーマップに移動したらしいが、特に変わった様子はないな)
ここは通常のエリアではなく、強者の闘争平原のコピーマップになっているはずだが、通常のエリアとの差は感じられなかった。
(まあそれも当然か)
とは言ったものの、他のプレイヤーがいない点以外は何も変わらないはずだからな。そう感じるのも当然と言えば当然だった。
「……む、敵がいるな」
と、そんなことを考えながら歩いていると、前方に敵らしき影を発見した。
「ランページティラノか……」
この距離だと正確には分からないので、【望遠鏡】を使って確認してみると、その影がランページティラノであることが確認できた。
(このエリアで出現する敵の中では弱い部類だが、それでも戦うべきではないな)
弱いとは言っても、相対的に見ると他のモンスターよりも弱いという話であって、強力なボスクラスのモンスターであることに変わりはないからな。
戦闘になるとかなり消耗するので、できるだけ避けて行きたいところだった。
(だが、迂回した先でより強いモンスターに出会う可能性があることを考えると、正面突破するのもありだよな……)
しかし、ここでランページティラノを避けて迂回したとしても、その先で他のより強いモンスターに出会う可能性もあるからな。
ランページティラノは前述した通りに弱い部類のモンスターなので、このまま正面突破するのも選択肢としてはありだった。
「……ここは正面突破するか」
少し考えたが、ずっと敵を避け続けていては洞窟まで辿り着けないだろうからな。どこかで戦闘する必要があることを考えると、ここは戦って突破した方が良さそうだった。
それに、迂回した先でホーリーホーンドラゴンや
「少し良いか?」
「グル?」
「これから前方にいるランページティラノと戦うが、お前は敵を無視して通過して行ってくれ。敵は俺が引き付ける」
目的は倒すことではなく、先に進むことだからな。護衛対象であるホーリーホーンドラゴンの幼体は戦闘には参加させずに、俺が敵を引き付けている間に先に行ってもらうことにする。
「とりあえず、俺に付いて来て、こちらが指示したタイミングで行ってくれ」
初めから二手に別れて動くという手もあるが、そうすると幼体が狙われたときに対応できなくなるからな。
ここは最初は一緒に行動して、折を見て先に行ってもらうという方法で行くことにした。
「分かったか?」
「グルッ!」
「では、行くぞ」
様子見する必要もないからな。方針が決まったところで、すぐに俺達は動き始めた。
俺は自分がターゲットを取るために前を歩いて、その後ろからホーリーホーンドラゴンの幼体を付いて来させる。
「……グオ?」
俺達はそのままゆっくりと近付くが、五十メートルほどのところにまで近付いたところで、ランページティラノはこちらの存在に気が付いた。
「グオォーーーッ!」
こちらのことに気付いたランページティラノは俺にターゲットを定めると、そのまま真っ直ぐと駆けて来る。
「今だ、行ってくれ!」
敵は俺を狙ってくれているからな。今がチャンスなので、すぐに行くように指示を飛ばす。
「グルッ!」
すると、指示を受けたホーリーホーンドラゴンの幼体は俺から離れると、そのまま迂回するようにして向こう側に移動し始めた。
(とりあえず、ちゃんと指示は聞いてくれるようだし、そこは問題ない――が、問題はここからか)
ここからはランページティラノの攻撃を捌いて、隙を見て離脱する必要があるからな。問題はここからだった。
俺はすぐに短剣を引き抜いて構えて、敵の攻撃に備える。
「グォッ!」
そして、間合いに入ったランページティラノは右腕を振り上げると、そのままそれを振り下ろして、爪での斬撃攻撃を仕掛けて来た。
「――ここだな」
俺はそれを短剣で受け流しながら左方向に避けて、そのままバックステップで素早く距離を取ろうとする。
「グルォッ!」
しかし、今度は続け様に放たれた尻尾での横薙ぎの一撃が迫っていた。
「っと……」
だが、その程度は想定内のことなので、問題はない。俺は身を反らすことでそれを躱して、そのまま次の攻撃に備える。
「グォッ!」
「――そこだ」
ランページティラノは尻尾を振った勢いそのままに噛み付き攻撃をして来るが、隙を突きやすいその攻撃で来てくれるのはありがたかった。
俺は跳躍してその頭上を越えると、そのまま相手の背中を掴んで、そこに張り付く。
「グォッ⁉ ……グルォッ!」
この展開は想定外だったのか、少し驚いた様子を見せるが、それで動きが止まるようなことはなかった。
ランページティラノはそのまま暴れ続けて、背中に張り付いている俺のことを振り落とそうとして来る。
「その程度で振り落とせるとでも……おわっ⁉」
背中に張り付くことで攻撃をやり過ごすつもりだったのだが、特別摩擦力が高いわけでもない背中を掴んでいるだけでは、振り落とされないように耐え切ることはできなかった。
俺は敵が跳ねたところで背中から振り落とされて、山なりの軌道を描くように宙を舞うと、そのまま地面に叩き付けられる。
「グルォッ!」
「っ⁉」
そして、着地した俺に向けて噛み付き攻撃が放たれるが、その攻撃はわずかに届かず、俺の目の前に咲いていた花の花弁を散らすに
(攻撃も止まった……?)
さらに、その攻撃はちょうど十回目の攻撃だったようで、運良く追撃も受けずに済んでいた。
「よっと……」
だが、敵の動きが止まっている時間は短いからな。俺はすぐに起き上がって、バックステップで距離を取りながら次の攻撃に備える。
(幼体の方は……まだ時間を稼ぐ必要があるか)
ここでホーリーホーンドラゴンの幼体の様子を確認してみるが、まだ十分には離れられておらず、この距離だと見付かるので、もう少し時間稼ぎをする必要がありそうだった。
「……グォッ!」
「っ⁉」
と、そんなことを考えながら次の攻撃に備えて構えていたのだが、ここで想定外の事態が発生した。
ランページティラノは俺から視線を外してホーリーホーンドラゴンの幼体の方を振り向くと、そちらにターゲットを定めて走り出してしまっていた。
「待て!」
俺はすぐに『クイックステップ』を使って駆け出してそれを追い掛けるが、向こうの方が移動速度が速いので、追い付くことはできなさそうだった。
「……グル?」
だが、足音を聞いてなのか気配を感じてなのかは知らないが、幼体は敵が迫っていることを感じ取って、こちらを振り向いてくれた。
「避けろ!」
俺が直接干渉することはできなさそうなので、気付いてくれなければどうしようもなかっただろうが、幸いにも危機に気付いてくれたからな。
まだ何とかなる可能性はあるので、
「グォッ!」
「ガルッ⁉」
しかし、その思いは届かず、初撃は下がって回避することに成功したが、続け様に放たれた尻尾での攻撃に直撃して吹き飛ばされてしまっていた。
「グオォーーーッ!」
さらに、それだけでは終わらず、ランページティラノはそのまま連続攻撃で追撃しようとしていた。
「届け――!」
だが、その間にも俺は距離を詰めていたので、敵に干渉できる距離にまで接近することができていた。
俺はそのままホーリーホーンドラゴンの幼体とランページティラノの間に飛び込んで、敵の攻撃を防ごうとする。
「グォッ!」
「させるか!」
そして、相手の噛み付き攻撃に対して右腕を出すことで、腕当てを噛ませて攻撃を防ぐことに成功した。
「これでも食っていろ!」
「グォッ⁉」
さらに、そのまま左手に持っていた【氷炎爆弾】を相手の口の中に突っ込んで爆発させると、それによって敵を怯ませることができていた。
「グルッ!」
「お前は下がって――って、おい!」
その隙に安全なところまで下がらせようとするが、ホーリーホーンドラゴンの幼体は俺の指示を無視して前に出て来てしまっていた。
「グルォッ!」
「っ⁉」
すぐに俺は守るために前に出ようとするが、動き出そうとした瞬間に幼体の角が光り輝いて、そこから強烈な光が放たれた。
「グォッ⁉」
その光を近距離で直視してしまったランページティラノは目が眩んで、暗闇の状態異常が付与される。
(これは大チャンスだな)
暗闇によって敵の視程が大きく狭まっているからな。戦闘からの離脱を成功させるまたとないチャンスなので、ここで決めることにした。
「下がるぞ。はっ!」
俺は幼体と一緒に後方に下がって距離を取りながら【氷炎爆弾】を反対側に投擲する。
「グルォッ!」
すると、ランページティラノは爆発音に釣られて、そちらの方を手当たり次第に攻撃し始めた。
「念のためにもう一つ――はっ!」
このまま離脱も狙えるが、ここは絶対に成功させたいからな。俺は【氷炎爆弾】をもう一つ取り出して、それをさらに遠くに投擲する。
「このまま逃げるぞ」
「グルッ!」
そして、すぐに釣った方向とは反対方向に駆け出した俺達は、何とか戦闘から離脱することに成功したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます