episode262 ホーリーホーンドラゴン戦を終えて

「グル……ォッ……」


 HPがゼロになったホーリーホーンドラゴンはゆっくりと前方に倒れて、そのままドスンと地面に倒れ伏した。

 その巨体が倒れたことで砂埃が舞うと、それと同時にゆがんだオーラも霧散して、辺りに平和な静寂が訪れる。


「…………」


 リッカは振り返って倒れたホーリーホーンドラゴンに視線を向けると、何を思ってかは分からないが、そのまましばらく見つめ続ける。

 だが、十秒ほどが経過したところで、大きく息を吐いて緊張を解くと、そのまま振り返って洞穴の方に戻って来た。


「良くやったな。どうだ、今の気分は?」

「……疲れた」


 俺はリッカに感想を尋ねるが、彼女はこの戦闘でかなり集中力を使ったようで、そう言ってこちらにもたれ掛かって来た。


(まあそれも当然か)


 被弾の許されない戦いだったからな。一瞬も気が休まることがないので、疲れるのも当然だった。


「そうか。それにしても、よくあんなに避けられるよな……」


 俺にはあの激しい攻撃を潜り抜けつつ戦うことができないどころか、回避に専念しても避けられる気がしないからな。

 俺では足元にも及ばないほどの圧巻のプレイヤースキルで、流石と言う他なかった。


「……慣れればできる」

「その理論だと、俺が慣れることは一生ないだろうな。……まあその話は良い。アドラ様、リッカへの試練は合格ということで良いのか?」


 この戦闘は試練として行われたものだからな。先程の戦闘に関しての感想は置いておいて、ここは試練についての話をすることにする。


「当然じゃ。リッカはこれで『根源覚醒』が使えるようになったはずじゃぞ」

「……みたい」


 ここでリッカはメニュー画面を開いて確認するが、それを覗いてみると『根源解放』が『根源覚醒』に進化していることが確認できた。


「となると、次は俺か」


 これでリッカの試練は終わりになるからな。次は俺の番だった。


「そうじゃの。そろそろ覚悟は決まったかの?」

「ああ」


 準備はともかく、覚悟は決まったからな。心持ちの方は問題ない。


「俺が必ず洞窟まで連れて行ってやる。安心してくれ」

「グルッ!」


 ここでホーリーホーンドラゴンの幼体に優しく語り掛けると、幼体は嬉しそうな鳴き声を上げてこちらに抱き付いて来た。


(この様子なら行けそうだな)


 この様子だと、ちゃんと言うことも聞いてくれそうだからな。挑戦に当たっての問題は一つ解決したと言っても良さそうだった。


「……いつまでそうしてるの?」

「別に良いだろう? 中々可愛らしいし、リッカも触ってみるか?」


 成体のドラゴンは威圧的で圧倒されるイメージだが、幼体からはそのようなものは感じず、無邪気さによる可愛らしさがあるからな。

 その小動物のような人懐っこさで、既に愛着が湧き始めているほどなので、リッカもどうかと勧めてみる。


「……別に。それで、テイムした?」


 しかし、リッカは興味なさげにスルーすると、攻略の方はどうなのかと言わんばかりに質問を返して来た。


「いや、テイムはできなかったぞ」


 テイムは試してみたが、テイム対象外のモンスターとのことで判定自体が行えなかったからな。テイムはできていない。


「……そう。ステ見れる?」

「テイムモンスターでもないし、見られないと思うが……む、見られるな」


 テイムモンスターにはなっていないので、ステータスは見ることができないと思っていたのだが、試してみるとステータスを表示することができていた。


「見せて」

「分かった」


 ホーリーホーンドラゴンの幼体のステータスは攻略法を考える上でも重要になるからな。このままリッカと一緒に確認していくことにした。

 俺は表示している画面をリッカにも見られるようにして、二人でそのステータスを確認する。



━━━━━━━━━━


【ホーリーホーンドラゴン(幼体)】

HP:1140

MP:550

筋力:920

靭力:550

魔力:920

理力:550

敏捷:100

器用:100

効力:100


《アビリティ》

【体術Lv10】【光魔法Lv5】【勇猛への気構えLv5】【タフネスLv30】【頂点捕食者・ドラゴンLv10】【竜種・聖角竜Lv10】


━━━━━━━━━━



「いや、ステータス高いな⁉」


 確認してみると、そのステータスは想定していたよりも遥かに高く、何なら俺達よりも高い攻撃力と耐久力を持っていた。


(やはり、初期ステータスが圧倒的だな)


 モンスターごとに初期ステータスは決まっているが、ここまで高いステータスは初めて見るからな。これに関しては圧倒的と言う他なかった。


「……専用アビリティの補正値高い」

「どうやら、そのようだな」


 さらに、専用アビリティである二つのアビリティの補正値は非常に高く設定されていて、【頂点捕食者・ドラゴン】は全ステータスが1レベルにつきプラス5、【竜種・聖角竜】は筋力、靭力、魔力、理力が1レベルにつきプラス10と、通常のアビリティだとあり得ないような補正値になっていた。


「それに、耐性も優秀だな」


 また、素の耐性値がゼロのプレイヤーとは違って、モンスターには耐性や弱点が設定されているのだが、それも非常に優秀だった。

 闇耐性は-30%と弱点はあるが、光耐性は50%、他の属性は10%の耐性がある上に、全ての状態異常と弱体効果にもそこそこの耐性があるという、他の種類のモンスターでは見られないであろうほどの圧倒的な耐性値を見せてくれていた。


「敏捷は低いが、まあそこは許容範囲か」


 唯一の欠点は敏捷の低さだが、逆に言うとそこしか非の打ち所がないからな。

 それを補って有り余るほどの高ステータスを持っているので、気になるほどのことでもなかった。


「……装備も気になる」

「む、装備品か……」


 だが、一つ気になる点があった。気になることというのは装備品のことについてだった。

 プレイヤーの装備品は右手、左手、頭、胴、腕、腰、足に装飾品が二枠と決まっているが、モンスターの場合はそうではない。モンスターの場合は装備可能な装備品がモンスターごとに設定されていて、プレイヤーとは違って装備の制限がある。

 そのため、素のステータスが高くても、装備可能な装備品が少ないという可能性もあった。


「できれば確認しておきたいところだが……流石にそこまでは見られないようだな」


 そのことを確認しようとステータス画面を色々と見てみるが、装備品の欄自体がどこにも見当たらないからな。残念ながら、そこまでは確認できないようだった。


「……素ステ異常に高いし、装備不可の可能性もある」

「それはまあ……あり得るな」


 基本的にステータスが低いはずのテイムモンスターが、プレイヤーすらりょうするほどのステータスを持っているわけだからな。

 素のステータスが非常に高く設定されている代わりに、装備品が装備できないという可能性は十分に考えられた。


「だが、素のステータスでもタンク張りの耐久力がある上に、両刀アタッカーもこなせるので、これで十分ではないか?」


 しかし、装備品がなくとも十分強い……と言うより、もはや強すぎるぐらいなので、仮に装備不可でも問題ないと言えそうだった。


「……まあそれはそう。で、方針は決まった?」

「ああ。とりあえず、マップの端の方を通って、できるだけ戦闘は避けるつもりだ」


 試練の達成条件は南方平原に繋がる洞窟まで幼体を連れて行くことだからな。戦闘は必須ではないので、可能な限り避けるつもりでいる。


「それと、その戦闘も基本は逃げることになるな」


 また、逃げた方が消耗が少なくて済むからな。戦闘になった場合も基本的には倒さずに逃げるつもりだ。


「……そう」

「そろそろ準備は良いかの?」

「……む?」


 ここでアドラが確認を取ると、俺の目の前に強者の闘争平原のコピーマップに移動するという旨の内容のダイアログメッセージが表示された。


(……なるほどな。他のプレイヤーに干渉されないようにするためか)


 このエリアだと他のプレイヤーに干渉される可能性があるからな。それを防ぐために他のプレイヤーがいない特殊なマップに移動することになるらしい。


「ああ。いつでも行けるぞ」

「では、わらわはリッカと共に上空から見ておこう」

「分かった。では、行くか」

「グルッ!」


 そして、準備ができたところで、俺はホーリーホーンドラゴンの幼体と共に洞穴を出発したのだった。

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