episode261 ホーリーホーンドラゴン戦、決着

「グルッ!」

「――遅い」


 ホーリーホーンドラゴンは接近して来たリッカに向けて腕を振り下ろすが、焦って攻撃してもより大きな隙を生むだけだった。

 リッカはそれをサッと横に移動して避けると、そのまま足に抜刀攻撃を叩き込みつつ後方に回り込む。


「――そこ。『剣閃――抜刀無双刃』」


 そして、跳躍してホーリーホーンドラゴンの尻尾の上という反撃を受けにくく、かつ攻撃を当てやすい場所に位置したところで、『剣閃――抜刀無双刃』を発動した。

 連続して放たれた斬撃はホーリーホーンドラゴンの背中を斬り裂いて、そのHPを一気に削っていく。


「グルォッ!」


 ホーリーホーンドラゴンは大規模に魔法攻撃をしたばかりで、まだ魔法攻撃はできないので、振り返りながら腕を振って、爪での斬撃を放って反撃する。


「――甘い」


 しかし、直接対象を見ずに放った一撃は狙いが甘く、リッカは後方に反るだけでそれを回避することが可能だった。

 彼女は足を振り上げて身体を後方に反らせることでその攻撃を躱して、その勢いのまま後方に一回転して着地する。


「グルッ!」

「――無駄」


 ホーリーホーンドラゴンは攻撃を『見切り』で打ち消しにくいように、腕で横に薙ぎ払うようにして攻撃するが、それでは速度が落ちるので、リッカには通用しなかった。

 彼女は滑り込んで下を潜ることでその攻撃を躱すと、連続攻撃を仕掛けて敵が魔法攻撃を使えるようになる前に一気に削っていく。


「グルォッ!」


 だが、ある程度攻撃したところで、相手は魔法攻撃が使用可能な状態に戻ってしまっていた。

 ホーリーホーンドラゴンは魔法が再使用できるようになったところで、即座に自身の上方に魔法陣を展開すると、そこから光魔法を放ってリッカを攻撃する。


「――そこ」


 光魔法による光弾とビームが降り注ぐが、リッカは敵の近くから離れることはなかった。

 彼女は魔法陣が展開された時点で安全な場所を見切って移動すると、魔法が降り注ぐ中で攻撃を仕掛ける。


「グル……ルォッ!」


 ホーリーホーンドラゴンはリッカがこの攻撃を回避するために下がると思っていたのか、少し驚いた様子を見せるが、冷静にバックステップで下がって仕切り直そうとする。


「逃がさない」


 しかし、それをリッカが許すはずもなく、彼女は相手のバックステップに合わせて『クイックステップ』を使って、それに追従した。


「その程度じゃ――離せない!」


 そして、そんな半端な攻撃では退かせることはできないと、強気の態度を見せながら追撃を仕掛けた。


「グルル……」


 この時点でホーリーホーンドラゴンは遠距離攻撃をメインにして戦うか、接近戦をメインにするかの選択を迫られていた。

 もちろん、可能なのであれば一方的に攻撃が行える前者の方が良い。だが、そのためにはリッカを引き離す必要があるが、彼女は接近戦の能力が非常に高いので、それも簡単には行かなかった。


 また、引き離しには魔法攻撃を使うことになるが、あの攻撃でも引き離せないとなると、さらに手数を増やすか、広範囲攻撃の魔法を使う必要があった。

 しかし、そうすると攻撃後の魔法を使えないタイミングで攻められる可能性が高かった。

 そのため、どうやっても接近戦に持ち込まれてしまうという状況に陥ってしまっていた。


 ただ、そうは言っても接近戦をメインに据えるという選択肢もあるし、それなりに戦闘能力は高いので、本来であればその選択肢を取っても何ら問題はない。

 だが、敏捷に特化したリッカほど速くはなく、接近戦だと彼女に対して有効なブレス攻撃を当てにくいこともあって、接近戦は不利と言わざるを得なかった。


「まだまだ――」

「グルッ……!」


 迷っている間にもリッカはガンガン仕掛けていて、スタミナ管理のために攻撃を抑えることはあるものの、それでも一方的な展開が続いていた。


「グルルァッ!」


 ここでホーリーホーンドラゴンは上方に数個の魔法陣を展開すると、そこから光弾を放って、それと同時に近接攻撃も行って反撃する。


「っ!」


 それに対してリッカはこれをカウンターするのは難しいと判断したのか、スタミナ管理も兼ねて反撃は行わずに回避だけを行った。


「……そう来た?」


 ホーリーホーンドラゴンが取った選択は接近戦をメインにするというものだった。

 もちろん、接近戦とは言っても、ただ近接攻撃をするだけではない。適度に魔法攻撃を混ぜる接近戦を仕掛けるつもりでいた。


 リッカは『魂の代償』の効果で自身を蘇生したが、その効果によって最大HPが1に固定されているので、彼女の残りHPは1しかない。

 そのことは直感――システム的に言うのであれば、相手のおおよそのステータスが分かるパッシブスキル――でホーリーホーンドラゴンにも分かっていた。

 そのため、一発でも攻撃をかすらせることができれば、それで決着が付く戦いになっていた。


 そして、その上でどう戦うかということになるが、ホーリーホーンドラゴンはその内当たることを狙って、攻め続けるという方法を取っていた。

 もちろん、しっかりと準備をして、確実に一発を当てに行くという選択肢もあった。

 だが、それは彼女が最も警戒していることで、とても通るとは思えなかった。


 さらに言うと、そんなに悠長に準備ができるほどの余裕はなく、場が整う前にHPを削り切られる可能性が高かった。

 そのため、今となってはその選択肢は選ぶことができないものとなっていた。


「受けて――立つ!」

「グルルァァーーーッ!」


 そして、そのままの流れで、二人の戦いは遂に佳境に入った。


「はっ!」

「グルッ!」


 ホーリーホーンドラゴンは魔法攻撃を交えつつ攻撃するが、リッカはそれを的確に捌きつつ、隙を見て攻撃を叩き込んでいく。


「グルルル……!」


 リッカは相変わらず攻撃を捌き続けているので、このまま行けば結末は変わらないが、ホーリーホーンドラゴン側にも十分に勝算はあった。

 その勝算というのはリッカのミスだ。彼女はずっと紙一重の戦いを続けているので、どこかで崩れる可能性はあった。

 と言うより、むしろここまで一度のミスで抑えている彼女の方が異常なのであって、普通であればとっくに勝負は付いている。

 なので、最後のその瞬間までどうなるかは分からなかった。


(ここまで来れば集中するだけ――)


 保険魂の代償は既に使ってしまったのでミスは許されず、敵の動きも定まった以上、ここからは集中力との戦いだった。

 リッカは敵の魔法攻撃を見逃さないように注意しつつも、素早く正確に攻撃の軌道を見抜いて、先読み気味に動いて余裕を作る。

 そして、その余裕を使って反撃を受けないように確実に攻撃を叩き込んでいた。


「グルァッ!」

「――そこ」


 リッカが被弾するのが先か、ホーリーホーンドラゴンのHPが尽きるのが先かの戦いは熾烈を極める。

 魔法が絶え間なく降り注ぎ、その巨体からは重い一撃が放たれるが、リッカは最適な回避ルートを見極めて、その全てを正確に捌いていく。

 常人であれば数秒も持たないほどの激しい攻撃ではあったが、彼女はそれを躱しながらダメージも稼いでいた。

 そして、戦闘はそのまま流れがリッカに傾いたまま続き、遂にそのときが訪れた。


「グルルォォーーーッ!」


 残りHPがわずかになったホーリーホーンドラゴンはばっと翼を広げると、上方に大量の魔法陣を展開する。


「させない」


 それを見たリッカは発動前に終わらせると言わんばかりに攻めに転じると、素早い連続攻撃で敵のHPを一気に削りに掛かった。


(――いや、ギリ間に合わない)


 しかし、このペースだと魔法の発動前に倒し切ることはできなさそうだった。


「なら――」


 だが、敵の魔法の準備に労力を割いていて、攻撃チャンスであることは確かなので、魔法の発動直前のギリギリまで攻撃は続けることにした。

 リッカはそのまま攻撃を続けて、敵のHPをガンガン削っていく。


「――ここまで」


 そして、魔法が発動される直前にバックステップで後方に下がって、少しだけ距離を取った。


「グルルォォーーーッ!」


 リッカが下がった直後、ホーリーホーンドラゴンがほうこうを上げると、展開され終わった魔法陣が一斉に起動する。


(ここを凌げば終わり)


 敵は大規模に魔法を発動しようとしていて、これを耐え切れば隙ができるので、これが最後の攻防になりそうだった。

 光弾とビームとでは魔法陣の紋様が違うので、リッカはそれも良く見ながら回避ルートを見極めていく。


(これなら――行ける!)


 だが、ここで彼女は回避ルートを模索する中で、一本の攻めに転じるルートを見出した。


「なら――終わらせる!」


 そのルートを発見したリッカはその時点で逃げのルート探しを打ち切って、迷うことなく前方に駆け出す。

 この攻撃を凌ぎ切ってから仕掛けるのも一つの選択だったが、終わらせられるのであれば、それまで待つ必要もない。そう言わんばかりに絶対の自信で以て最後の攻撃を仕掛ける。


「――ここ」


 前方に駆け出したリッカはタイミングを見計らって『パワージャンプ』で跳躍すると、そのまま相手の頭部に迫って行く。

 上からは光魔法による攻撃が降り注いでいるが、彼女はもうそれを見ていなかった。何故なら、跳躍した時点で当たらないことが確定したからだ。


 実際、光弾が通過した直後の場所を通ったり、通過直後の場所に魔法攻撃が放たれたりと危なそうに見える場面はあるが、綺麗に攻撃の間を縫って接近していて、攻撃にはかすりもしていなかった。

 常人から見れば、攻撃に当たっていないことが不思議そのもので、それこそ先にリッカの動きを設定して、後付けで当たらないように魔法攻撃の軌道を設定したと言われても納得できるほどの光景が繰り広げられているが、彼女にとってはそうではない。

 この動きは必然であって、そこに偶然が介入する余地などないので、彼女にとってはもう攻撃に当たらないというのは確定したことだった。


「グルォッ⁉」

「これで――終わり!」


 ホーリーホーンドラゴンはここで仕掛けて来るとは思っていなかったのか、驚いた様子を見せるが、大規模に魔法攻撃を放った直後なので、それに対応することはできなかった。

 そのまま接敵したリッカは相手の逆鱗に抜刀攻撃を叩き込むと、その一撃でホーリーホーンドラゴンにトドメを刺した。

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