episode258 ホーリーホーンドラゴン戦

 生態系の頂点に立ち、圧倒的な力を持ったドラゴン。それに対して単騎で臨む少女の挑戦は後半戦を迎えようとしていた。


「グルルォォーーーッ!」

「――はっ!」


 ホーリーホーンドラゴンの爪での一撃を躱したリッカはそのまま懐に潜り込むと、抜刀攻撃による一撃を叩き込む。


「グルルル……グオォーーーッ!」


 と、ここでホーリーホーンドラゴンは閉じた翼をばっと広げると、魔力を解放して全身からゆがんだ黒いオーラを放った。


「……やっと半分」


 先程の一撃で敵のHPは半分を切って、それによって敵は発狂状態になっていた。


「『ゆうもうごう』、『魔力強化』、『妖力てんそう』」


 一旦の仕切り直しとなるが、リッカはその隙を利用してバフを掛け直して、【MP回復ポーション】でMPの補給も済ませてしまう。


「グルルル……」

「…………」


 そのまま二人は距離を取って構えるが、互いに睨み合って相手の様子を窺う状態が数秒ほど続いた。


「グルォッ!」


 だが、その睨み合いも長くは続かない。膠着状態を破ったのはホーリーホーンドラゴンの方だった。

 ホーリーホーンドラゴンは自身の後方に大量の魔法陣を展開すると、そこから同時に白いビームを一直線に放つ。


「――そこ」


 最初よりも魔法陣の数は増えているが、リッカにとってはそれも些細な問題だった。

 魔法陣の角度から安全なルートを導き出していた彼女は攻撃の隙間を縫って、『クイックステップ』で一気に距離を詰める。


「『抜刀一閃』、『抜刀二段』」


 そして、間合いに入ったところで、素早く連続攻撃を叩き込んだ。


「グルッ!」


 だが、ホーリーホーンドラゴンもそれを受けて黙ってはいない。ホーリーホーンドラゴンは攻撃を受けてからすぐに真上に跳躍すると、そのまま口に魔力を集約させて、地上に向けてブレスを放とうとした。


「――させない」

「グラッ⁉」


 しかし、その地上には既にリッカの姿はなかった。彼女はホーリーホーンドラゴンの跳躍に合わせて自身も『パワージャンプ』で跳躍していて、相手の眼前にまで迫っていた。


「グル――」

「――遅い。『剣閃――抜刀無双刃』」


 とっに迎撃しようとしたホーリーホーンドラゴンだったが、既に攻撃準備が整っているリッカ相手にそれでは遅すぎた。

 リッカはすぐに『剣閃――抜刀無双刃』を発動して、その攻撃を叩き込む。


「グルォッ⁉」


 翼をメインに攻撃したので、その攻撃によるダメージは少なめだったが、狙いはダメージを稼ぐことではないので、そこは問題ない。

 翼を攻撃されたホーリーホーンドラゴンは飛行状態を維持できなくなって、バランスを崩して落下し始める。


「まだ――『エアステップ』」


 そのまま追撃を仕掛けても良かったのだが、リッカはそうはせずに『エアステップ』で真上に跳躍すると、居合の構えを取った。


「『根源解放』、『ソウルリリース』、『魔力てんそう』、『渾身の構え』、『心眼抜刀――明鏡止水』」


 それと同時にここまで温存していた『根源解放』に加えて、【勇猛への気構え】アビリティで習得した、次の攻撃の消費スタミナを増やす代わりに威力を上げる『渾身の構え』、さらにはソウルリリーストークンも消費してバフを掛けると、『心眼抜刀――明鏡止水』の発動準備に入った。


(逆鱗を叩いて一気に削る)


 彼女がえて確実な追撃のチャンスを見送ってまで攻撃の準備を整えたのは、逆鱗に向けて最大火力の一撃を叩き込むためだった。

 逆鱗はドラゴンの喉元にある弱点部位で、最もダメージを与えられる部位なのだが、かなり小さい上に狙いづらいので、普段はそこに攻撃を当てることは難しい。

 そのため、基本的には弱点を狙うにしても頭部の方が良いとも言われている。

 だが、これだけ大きな隙を晒している状況であれば、十分に逆鱗を狙うことが可能だった。


「…………」


 リッカは落下しながら最大限の集中で以て敵の動きを注視して、肉薄の瞬間を待つ。


「グラッ!」


 しかし、その瞬間が訪れる前にホーリーホーンドラゴンは動き出していた。


(まだ狙える)


 だが、動き出したとは言っても、まだ起き上がっただけで体勢も整っていないので、十分に逆鱗を狙うことが可能だった。

 そして、そのままホーリーホーンドラゴンの態勢が整う前に肉薄の瞬間は訪れた。


「グルッ!」


 ホーリーホーンドラゴンはリッカを迎撃しようと、落下して来た彼女に向けて指を真っ直ぐと揃えた手を突き出して、爪で突き刺そうとする。


(回避は無理。でも、決めれば問題ない)


 『心眼抜刀――明鏡止水』のキャストタイムを確保するために『エアステップ』は使ってしまったので、リッカにそれに対する対抗手段はなかった。

 しかし、これほどの一撃を逆鱗に叩き込めば確実に怯ませられるので、決めさえすれば何の問題もなかった。


(何なら好都合)


 この状況において一番されたくなかったことは逃げて仕切り直されることだったので、それを回避できただけでありがたいことだった。

 さらに言うと、攻撃して来てくれたことで間合いに入りやすくなったので、その動きはむしろ好都合だった。


(つまり、最初から何も変わってない)


 状況としては外せば被弾するようになったというだけの話であって、この一撃を決めることに関して大した影響はなかった。

 そのため、初めから決めるつもりだった彼女にとっては、状況は何一つ変わっていないも同然だった。


「グォォーーー!」

「…………」


 敵の攻撃が迫るが、リッカは冷静にホーリーホーンドラゴンの逆鱗のみを見て狙いを定める。


「――そこ」


 そのままリッカは間合いに入った瞬間に抜刀して、『心眼抜刀――明鏡止水』を発動した。

 狙い澄ました一閃は吸い込まれるように逆鱗に迫って、まとった妖力のオーラが軌跡となって斬撃の跡を残していく。


 そして、そのままブレることなく綺麗な軌道を描いた斬撃はその先にあった逆鱗を斬り裂いた。


「グルァーーーッ⁉」


 いくらドラゴンとは言っても、リッカの最大火力の一撃を弱点で受けて無事で済むはずがなかった。

 その攻撃を受けたホーリーホーンドラゴンは大きく仰け反って、抜刀攻撃で発生した突風と共にその巨体が軽く数メートルほど吹き飛ぶ。


「――まだ。『抜刀神速』」


 さらに、仰け反ったことによってリッカに向けて放った攻撃は外れて、彼女に追撃のチャンスも与えてしまっていた。

 リッカは着地すると同時に『抜刀神速』で攻撃しつつ接近して、そのままの流れで『一刀ざん』を叩き込む。


「グル――オォーーッ!」

「っ!」


 だが、生態系の頂点に立つ絶対強者たるドラゴンが長時間自由にさせてくれるはずもなかった。

 ホーリーホーンドラゴンは尻尾を横薙ぎに振って反撃しつつ、自身の上方に魔法陣を展開して次に備える。


「なら――」


 それに対してリッカは跳躍することで尻尾での一撃を回避すると、そのままホーリーホーンドラゴンの背中に足を着けた。


「グラッ!」

「遅い――『パワージャンプ』」


 そして、魔法陣から攻撃が放たれる直前に背中を足場に『パワージャンプ』で跳躍することで、水平方向に跳んで一気に距離を取った。

 魔法陣から放たれた白いビームはホーリーホーンドラゴンの周囲に降り注ぐが、既にリッカは攻撃範囲から逃れた後で、光は何もない地面を空しく貫く。


「…………」

「…………」


 それによって仕切り直しとなったことで、戦場に一時いっときの静寂が訪れた。


(残り四分の一。このまま削り切る!)


 だが、その静寂も最終決戦という名の嵐の前の静けさでしかない。リッカは【MP回復ポーション】でMPを回復させると、スタミナが全回復したところで、接近して攻撃を仕掛けた。

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