episode257 ホーリーホーンドラゴンの幼体の保護

(さて、どうするか……)


 行動に移ろうとしたは良いものの、この様子だと下手に手を出せないからな。どうすべきかは少し考えた方が良さそうだった。


「……どうしたのじゃ?」


 ここで動こうとしない俺の様子を見たアドラが、何をしていると言わんばかりにげんな顔を向けて来る。


「いや、どうしようかと考えていてな」

其方そなたはテイムができるじゃろう?」

「まあそれはそうなのだが、テイムはほぼ使っていないからな……」


 今のところ、タイニーフェニックス以外にテイムしたいモンスターがいないからな。

 テイムモンスターは未だにタイニーフェニックスだけで、テイムの経験はほとんどないので、【テイム】のアビリティは持っていても、その経験は役に立ちそうになかった。


「じゃが、知識はあるじゃろう?」

「まあな」


 だが、テイムをするために必要な知識はあるからな。それを基に何とかして行くことにした。


「とりあえず、エサを与えてみるか」


 適切なエサを与えれば懐かせることができるはずだからな。まずはそれから試してみることにした。


「……と言いたいところだが、何を与えれば良いんだ?」


 しかし、その適切なエサが何になるのかが分からないからな。そこから考えて行く必要がありそうだった。


「……ドラゴンは基本的に肉食じゃぞ? 知らんのか?」


 だが、そんなことも知らないのかと少し呆れた様子を見せながらも、アドラはエサのことについて教えてくれた。


「如何せんドラゴンをテイムしようと思ったことがないものでな」

「……そうか」

「とりあえず、情報感謝する。早速、試してみることにしよう」


 なので、早速エサを与えて懐かせることに挑戦してみることにした。


「ほら、エサだぞ」


 俺は食料として持って来ていた【ウルフの干し肉】を取り出して、それを持ってホーリーホーンドラゴンの幼体に近付いて行く。


「グルルル……」


 相変わらず幼体は警戒しているが、これができなければ次に進めないからな。俺は構わずに少しずつ距離を詰めていく。


「ガルッ!」

「おわっ⁉」


 しかし、残り三メートルほどのところにまで近付いたところで、幼体がこちらに跳び掛かって来た。

 俺は何とかそれを腕当てで防いで、すぐに下がって距離を取る。


(やはり、直接近付くのは難しいか)


 これだけ警戒されている状態で近付いても、打ち解けられそうにないからな。手渡しでエサを与えるのは難しそうだった。


「では、これならどうだ? よっと……」


 なので、ここはエサを目の前に投げて様子を見てみることにした。

 俺は右手に持った【ウルフの干し肉】を投擲して、幼体の目の前に肉を落とす。


「グルル……?」


 すると、幼体はそれに興味を持ったのか、目の前に落ちている【ウルフの干し肉】を手で拾い上げて、その匂いを嗅ぎ始めた。


「…………」

「……警戒は解けていないか」


 幼体は拾い上げた【ウルフの干し肉】を見ながらも、チラチラとこちらに何度も視線を移しているからな。

 俺が与えた肉に興味を示しているのは確実だが、警戒はまだ解けていないようだった。


「……ガルッ!」

「む、やっと食べたな」


 それからしばらく俺と【ウルフの干し肉】に交互に視線を移してばかりだったが、二十秒ほどが経過したところで、ようやく肉に口を付けた。

 人間用の大きさの【ウルフの干し肉】は一口で完食されて、一瞬で食べ終わってしまう。


「…………」

「……まだ欲しいのか?」


 物欲しそうにこちらを見ているからな。どうやら、あの少量では満足していないようで、まだ肉を欲しているらしい。


(少しは警戒が解けて来ているようだな)


 だが、その目からは警戒の色が少しではあるが薄くなっているからな。この調子で行けば何とかなりそうだった。


「肉はまだまだある。好きなだけ持って行け」


 食料は不足しないように多めに持って来ているし、飛行して移動したせいか、満腹度もあまり減っていないからな。

 リュックの枠がスタック単位なこともあって、数にはだいぶ余裕があるので、このまま追加で肉を与えることにした。


「よっと……」


 俺は今度は【ウルフの干し肉】を三つ取り出して、それらを両手で持ってまとめて投擲する。


「ガルッ!」


 すると、先程とは違って今回はすぐに肉に飛び付いた。


(この様子なら近付いても大丈夫か?)


 確実に警戒心は解けて来ているからな。そろそろ近付けないかどうかを試してみても良さそうだった。


「ほら、エサだぞ」


 なので、早速、行動に移してみることにした。

 俺は【ウルフの干し肉】を右手に持って、驚かせないようにゆっくりと近付いて行く。


「グルル……」


 ホーリーホーンドラゴンの幼体は完全には警戒を解いていないようだが、最初のように攻撃して来るようなことはなかった。

 そのまま目の前にまで近付いた俺は【ウルフの干し肉】を手渡しで与えていく。


「グルル……」

「何だ? まだ欲しいのか?」

「ガルッ!」


 肉はそこそこの量を与えたのだが、ドラゴンであるこの幼体にはこれでは不足のようで、まだまだ欲しがっているようだった。


(エサをもらっていなかったのか?)


 この様子を見た感じだと、エサを与えてもらえていない可能性が高そうだからな。

 確実なことは言えないが、見たところ、かなりお腹を空かせているようだった。


「分かった。だが、その前にポーションを使うぞ」


 このまま食料を与えても良いが、先に減っているHPを回復させた方が良さそうだからな。まずはポーションを使ってHPを回復させることにした。

 俺は【下級HP回復ポーション】を取り出して、それをホーリーホーンドラゴンの幼体に振り掛ける。


「回復はしたが、これでは足りないか」


 しかし、一本だけでは回復量が不足していて、全回復させるにはまだ何本も使う必要がありそうだった。


(まあ基本的にモンスターはHPが多いし、こんなものか)


 プレイヤーと同じ基準のHPだとすぐに倒されてしまうせいなのか、モンスターのHPはプレイヤー側とは違う基準で設定されているからな。

 プレイヤーのHPの基準に合わせられた回復アイテムでは、回復させるのに数が必要になるのも仕方がないので、そこは割り切って使っていくことにした。


「少し待ってくれ。すぐに終わらせる」


 俺はそのまま【下級HP回復ポーション】を追加で消費して、幼体のHPを回復させていく。

 そして、ポーションを何本も使うことにはなったが、そのHPを全回復させることに成功した。、


「終わったぞ」

「グル……ガルッ!」

「そんなに急かすな。食料はまだあるし、誰も取りはしないぞ」


 焦らなくとも食料はなくならないからな。俺はすぐに【ウルフの干し肉】を取り出して、それを一つずつ与えていく。


「十分に懐いたようじゃな」

「ああ、何とかな」


 この様子であれば、ちゃんと連れて行くことができそうだからな。何とかスタートラインに立つことはできていた。


「では、今の内に試練のことについて考えて行くか」


 リッカの方が片付き次第、こちらの試練が始められるだろうからな。彼女が戦っている間に試練での戦略を考えておくことにした。


「別にそこまで急ぐ必要はないぞ? 試練を始めるタイミングは其方そなたに任せる」

「む、そうか」


 そう思ったのだが、戦略を考える時間はちゃんと与えてくれるようなので、やはり後で考えることにした。


「では、リッカの方の様子を見てみるか」


 こちらは一段落したからな。まだ戦闘は続いていて、そちらのことも気になるので、このまま洞穴の外の様子を確認してみることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る