episode256 ホーリーホーンドラゴン戦、開始!
「グルルル……」
地上に降り立ったホーリーホーンドラゴンは黒い
(動いて来ないな)
だが、警戒して睨み付けて来るだけで、何故か動いて来る気配がなかった。
(どうやら、アドラのことを警戒しているようだな)
その視線の先に捉えているのはアドラで、見たところ彼女のことを警戒して動いていないようだった。
(そう言えば、角を折ったと言っていたな)
このホーリーホーンドラゴンは角が折られているが、折ったのはアドラだからな。向こうはちゃんと実力差を理解しているようで、それによって下手に動けないでいるようだった。
「リッカ、【劣化蘇生薬】はどうする?」
まだ【劣化蘇生薬】をどうするかを決めていないが、動きが止まっている今なら受け渡しができるからな。リッカにどうするかを聞いてみる。
「……いらない。全部シャムが使って」
「分かった。では、俺はここで待っておこう。アドラ様、リッカの方は頼んだ」
「任せておくが
「……うん」
突然の襲来となったが、準備は万端のようなので、すぐにでも戦闘には移れそうだった。
「では、始めるが
「……そうする」
「グルルォォーーーッ!」
そして、アドラのその言葉を皮切りに戦闘が開始された。
「『妖力変換』、『
先に動いたのはリッカの方だった。彼女は『妖力変換』でMPを妖力に変換した上で初手でバフを重ね掛けすると、すぐに減った分のMPを【MP回復ポーション】で補給する。
「グルッ!」
「――遅い。『抜刀神速』」
ホーリーホーンドラゴンは様子見と言わんばかりにブレスを放つが、そんな単純な攻撃では反撃のチャンスを与えるだけだった。
リッカは『抜刀神速』で素早く接近して、ブレスを躱しつつ攻撃を叩き込む。
「まだ行く。『妖華一刀』」
さらに、抜刀した刀を両手で持ってオーラを集約させると、そのまま刀を振り抜いて『妖華一刀』というスキルで追撃を仕掛けた。
オーラを
このスキルは妖刀のスキルで、妖力を消費して強力な斬撃を放つスキルだ。
俺は試練に向けての準備をしていたので、直接見るのは初めてだが、リッカによると妖刀のスキルの中でも基本と呼べるスキルになっているとのことらしい。
「ガルッ!」
「後手に回ってる時点で手遅れ。はっ――」
ホーリーホーンドラゴンはリッカを迎撃しようと右腕を振り下ろすが、彼女の速度を前に後手での対応になっている時点で止められるはずもなかった。
リッカはその攻撃を『パワージャンプ』でやや斜め上に跳躍することで回避して、それと同時に刀を素早く納刀する。
「――そこ。『剣閃――抜刀無双刃』」
「グォッ⁉」
そして、敵の頭部の前に位置した彼女は『剣閃――抜刀無双刃』で敵に大ダメージを与えた。
(うまく当てやすい位置で使ったな)
『剣閃――抜刀無双刃』は抜刀攻撃から素早く連続して攻撃を放つスキルだが、攻撃速度が速い分、正確に狙いを定めることが難しいらしいからな。
リッカはそれを当てやすい位置から放つことで、全ての攻撃をうまく命中させることに成功していた。
まあこの巨体が相手なら攻撃を当てるだけであれば、ある程度近付くだけで十分なのだが、各種効果によるクリティカル補正を考えると、できるだけ攻撃はクリティカルにしたいからな。
頭部に攻撃すればクリティカルになるのは『
(それにしても、火力がエグいな……)
火力と速度に全振りしているのに加えて、バフ効果も色々と重ね掛けしているからな。
その火力は他のプレイヤーの追随を許さないほどに圧倒的で、この調子であれば想定よりも遥かに早く戦闘が終わりそうだった。
「グルッ!」
「――無駄」
と、ホーリーホーンドラゴンはリッカが着地するところを狙って、再び爪で攻撃を仕掛けるが、今度は抜刀攻撃で『見切り』を発動されて、攻撃を弾かれてしまっていた。
「まだ――『
さらに、リッカはそのまま『
このスキルは『見切り』の発動直後にのみ使用できるスキルで、使用条件が厳しい代わりに威力がかなり高く設定されているスキルだ。
習得は【居合の構え】アビリティではなく、かなりレベルが上がりにくい【絶対なる境地】アビリティで習得できるスキルになるので、習得したのは比較的最近になる。
「それにしても、よく決められるよな……」
『見切り』はタイミングがシビアな上に、リッカの耐久力だと失敗すれば終わりだからな。
失敗が許されない状況でもきっちりと決めていくのは流石と言う他なかった。
「そう驚くことでもあるまい。この程度は必然であろう?」
「まあそれはそうかもしれないが……失敗するとは思わないのか?」
「思わんな」
そんな俺の質問に対して、アドラは迷うことなく即答する。
「できるからこその絶対の自信じゃ。故に必然。当然のことであろう?」
「……そうだな」
俺には難しいように見えても、リッカにとってはそこまでではないようだからな。それも分からなくはなかった。
「まあその話はさておき、リッカは……大丈夫そうだな」
ここでリッカの方を改めて見てみるが、彼女は敵の攻撃を捌きつつ、着実にダメージを与えて行っていた。
(事前に研究していたとは言え、ここまで優位に進めるとはな)
攻略動画を見て敵の動きを頭に叩き込んでいるとは言え、それだけでここまで戦えるようになるわけではないからな。
その圧倒的なセンスの良さはとても真似できるようなものではなかった。
「
「……確かに、今は自分のことを考えた方が良いか」
この様子を見た感じだと、リッカの方は敵が発狂状態になるまでは状況が動きそうにないからな。
しばらくは大丈夫そうなので、今の内に自分の試練のことについて考えておくことにした。
「では、まずはその幼体を手懐けてみてはどうじゃ?」
「む、そう言えばそれがまだだったな」
手懐けないと連れて行けないからな。まずはそこから始めることにした。
「では、早速と言いたいところだが……」
「グルルル……」
「……相変わらず警戒されているな」
早速、ホーリーホーンドラゴンの幼体を手懐けるために近付こうとするが、こちらのことを警戒しているので、近付くと襲われてしまいそうだった。
「まあそれでもやるしかないか」
だが、それができなければ始まらないからな。ここで見ていても仕方がないので、このまま行動に移ることにした。
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