episode254 試練に向けての最終確認

 翌日、一日掛けて準備を整えた俺達は試練に向けての最終確認を行おうとしていた。


「さて、これで準備万端だとは思うが、一応確認していくか」

「……うん」

「今回は採集用の道具は持って行かず、消費アイテムを詰め込めるだけ持って行くということだったが、アイテムの選定は済ませているか?」

「……当然」


 普段はフィールドマップに出るときには採集用の道具を必ず持って行っているが、今回の目的は試練だからな。

 少しでも試練の突破率を上げるために、今回は道中での採集はきっぱりと諦めるつもりだ。


「【劣化蘇生薬】の配分はアドラ様から試練の内容を聞いてからその場で決める。これも良いな?」

「……うん」


 【劣化蘇生薬】は二つしかないので、普通に考えれば一つずつ分けるところだが、リッカは『魂の代償』の効果で一度だけ自己蘇生ができるからな。

 俺が二つとも使うという選択肢もあるので、【劣化蘇生薬】の配分は試練の内容を聞いてから決めるつもりだ。


「それと、渡しておいたMP回復ポーションは妥協せずに遠慮なく使ってくれ」

「……そのつもり」


 彼女はMPの消費は激しくないが、それでも回復量が多いポーションを使用した方が回復の回数を減らせるからな。

 各種ポーションは使い切ることがないぐらいの量を用意してあるので、今回に限っては遠慮なく使って行くことにする。


「ホーリーホーンドラゴンとたいろうの行動パターンの復習はしておくか?」

「……いや、良い」

「分かった。妖刀の扱いには慣れたか?」

「……少しは」


 リッカはこの準備期間のほとんどの時間を探索に充てていたからな。そのおかげもあって、妖刀の扱いにも多少は慣れて来たらしい。


「そうか。何か確認しておきたいことはあるか?」

「……ない」

「分かった。では、このまま料理を食べてから出発するか」

「……うん」


 確認はこれで良さそうだからな。まだ時間には少し早いが、このまま料理を食べて出発することにした。


「そう言えば、まだ料理を渡していなかったな。ほい、これがリッカの分だ」


 『猫又商会』から受け取って来たは良いが、まだ渡していなかったからな。俺はその場で料理を取り出して、それをそのままリッカに渡す。


 リッカの食べる料理は【炎竜とシルバーコッコの肉のダブルグリル】で、筋力上昇とスタミナ消費量の軽減効果がある料理だ。

 食材が高級品なだけに料理にしては値段が高かったが、全体の出費からすると誤差範囲なので、今回に限っては特に気にならなかった。


 ちなみに、俺が食べる料理は【シルバーコッコの肉のハーブソテー】で、こちらにはHPとMPの回復量が増加する効果とスタミナ消費量の軽減効果がある。


「……頂きます」

「ああ。俺も頂くか」


 アイテムとして使うことで食べずとも効果を発動させることはできるが、時間にはだいぶ余裕があるからな。

 折角の高級食材なので、ここはしっかりと味わうことにした。


 そして、そのままのんびりと食べて料理を完食したところで、俺達は強者の闘争平原に向かうべく街を発ったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 洞窟を抜けて強者の闘争平原に向かうと、そこではアドラが待ち構えていた。


「……時間通りに来たの」

「ああ、当然だ」


 こちらから頼んでおいて待たせるわけには行かないからな。掛かる時間を計算して、少し早めに来られるように出発したので、ちゃんと時間通りに来ることができていた。


「それにしても、良いのか? このまま案内してもらって?」


 指定された場所に向かわせることも試練の一環にできたはずだからな。案内してもらっても良いのかと改めて確認する。


「この時期に予定を崩されると面倒じゃからの」

「ふむ……。何かあるのか?」

「……エルリーチェからは何も聞いておらんのか?」

「いや、何も聞いていないぞ」


 研究所ではオーリエと話をしただけで、エルリーチェとは会わなかったからな。彼女からは特に何も聞いていない。


「そうか。……近々『セントラル運営評議会』から顕現者リベレイター向けに発表があるはずじゃ。それまで待つがい」

「……分かった」


 詳しく聞いてみたいところだったが、この様子だと教えてくれそうにないからな。この口振りからすると、どうせ近い内に分かるようなので、それまで大人しく待つことにした。


(セントラル地方を管理している『セントラル運営評議会』から顕現者リベレイター向けの発表か……。もしかして、次回のイベントか?)


 そろそろ次回のイベントの概要が発表されても良い頃合いだからな。その可能性は十分に考えられた。


「この件に関してはユヅリハからも話はあるじゃろうが、どうするかは其方そなたらの自由じゃ。好きにするがい」


 と、ここでアドラはこの話に関して一言そう付け足す。


「む……? どういうことだ?」

「それは本人の口から聞くがい」


 俺はその話を詳しく聞こうとするが、こちらもこれ以上は話す気がないようで、話は聞けそうになかった。


「……分かった」

「先のことを気にするとは、随分余裕があるようじゃの」

「別にそういうわけではないのだが……。まあ良い。このまま案内してくれるか?」


 今は試練のことに集中した方が良さそうだからな。その話は試練が終わってから考えれば良いので、そろそろ移動を始めることにした。


かろう。では、少し待つがい」


 アドラはそう言って数十センチメートルほどの高さにまでふわりと浮かび上がると、俺達の肩にぽんと手を乗せる。

 そして、その手に赤いオーラをまとうと、そのオーラがこちらに流れ込んで来て、そのまま俺達を包み込んだ。


「む、何だこれは?」

わらわの力を少し貸しただけじゃ。翼を広げるよう念じてみるがい」

「……こう?」


 ここでリッカは集中した様子で目を閉じると、まとったオーラが背中の方に集まって、その背中に透明だった物が実体を現すかのように竜の翼がすっと出現した。


「ほう、こんなこともできるのか。興味深いな」


 このようなものは初めて見るからな。何かと気になるので、このまま詳しく確認してみることにした。


(翼が生えているような見た目にはなっているが……これは実体なのか?)


 見た目こそ竜の翼そのものだが、その翼は幽霊のように半透明だからな。実体を伴ってるかと言われれば、少々怪しいところだった。


「ふむ、実体はないようだな」


 なので、直接触って確認してみるが、案の定この翼には実体がないようで、そのまま手がすり抜けてしまった。


(魔力が集まったものか?)


 見たところ、先程アドラが渡して来たオーラが集まってできたもののようだからな。

 正確なことは分からないので推測の域は出ないが、この翼は魔力が可視化できる形で集まったものだと思われた。


其方そなたもやってみるがい」

「分かった。こうか?」


 俺も促されるままに翼を広げることを強くイメージすると、リッカと同じように背中に翼が出現した。


「その状態であれば其方そなたらでも飛べるはずじゃ」

「む、そうなのか?」

「ひとまず、試してみるがい。同じように念じれば飛べるはずじゃ」

「分かった」


 当然やったことはないが、翼も念じるだけで出現させられたからな。ひとまず、言われた通りにやってみることにした。


 俺は翼を広げたところで、強く地面を蹴って垂直に跳び上がる。

 さらに、そのまま飛ぶように意識してみると、空中で静止することに成功した。


「問題なさそうじゃな。では、行くとするかの」

「ああ」

「……うん」


 そして、そのまま俺達はアドラと共に飛行して、目的地へと移動したのだった。

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