episode253 劣化蘇生薬

 『猫又商会』の拠点を後にしてソールに連絡を入れた俺は『渡り鳥の集い』のギルド拠点に向かっていた。


「お、来たな」


 『渡り鳥の集い』のギルド拠点に向かうと、すぐにソールに出迎えられた。


「ノーシュに話はしたのか?」

「もちろん、してあるぞ。このまま来てくれるか?」

「分かった」


 リーダーに話は通してくれているようだからな。すぐに話はできそうなので、このまま話し合いの場に向かうことにした。

 俺はソールに連れられて、そのまま歩いてノーシュがいると思われる別室へと向かう。


「……来たな」


 別室へと向かうと、そこでは既にノーシュが席に着いて俺のことを待っていた。


「早速、話と行くか」


 俺とソールの席も用意されているからな。俺達はそのまま席に着いて話を始める。


「そうだな。話はこれに関してだったな?」


 ここでノーシュは一本の薬瓶を取り出すと、それをテーブルの中央に置いた。


「ふむ……これが噂の蘇生薬か」


 確認してみると、その薬瓶の中身は【劣化蘇生薬】で、その効果は戦闘不能の味方一人を残りHPが10%の状態で蘇生するというものだった。

 HPの回復量は少ないが、蘇生できるという点が重要だからな。これがあるだけで試練の突破率が変わって来ると思われるので、是非とも欲しいところだった。


 ちなみに、このアイテムは自身に対してであれば戦闘不能の状態でも使用可能で、ソロの場合でも問題なく使用することができるようになっている。


「一応、確認するが、提供する気はあるのだな?」


 こうして話し合いの場を設けている時点でその気はあるのだろうが、まだ彼の口から直接聞いていないからな。交渉を始める前に、念のために確認しておく。


「ああ」

「とりあえず、提供可能な個数と求める条件を聞いても良いか?」


 これを聞かないと交渉を進められないからな。まずはその二点を聞いてみる。


「個数は二個まで、条件は少し高い金額で買い取ることだな」

「ふむ……それだけか?」

「今のところは使う予定はないし、まだあるからな。別に構わないぞ」


 どうやら、【劣化蘇生薬】は特別な目的があって買ったわけではなく、単に使う場面があるかもしれないので確保しておきたかったというだけのようで、手元にある程度残しておけば、手放してしまっても構わないと思っているらしい。


「そうか。それで、いくらになるんだ?」

「一つ五万五千ゼルだ」

「五万五千ゼルか……」


(もはや、消費アイテムの値段ではないな……)


 使い切りのアイテムとしては破格の値段になるからな。既にだいぶお金を使ってしまっていることもあって、そう簡単には購入を決められなかった。


「……一つ提案しても良いか?」

「何だ?」

「【劣化蘇生薬】を借りるというのではダメか?」


 なので、ここは【劣化蘇生薬】を借りることを提案してみる。


「……どういうことだ?」

「こちらとしては使うことを予定しているのは近々に控えている一戦だけだ。つまり、それが済めば必要なくなる」


 消費アイテムとしては非常に高価で、持っていても普段は使うことがないからな。重要な戦闘でしか使わないので、試練が終わればしばらくは使う予定がない。


「なので、使った分だけ代金を支払って、残った分は返却するというのはどうだ?」


 と言うことで、ここは【劣化蘇生薬】を借りて、使った分だけ代金を支払うことを提案してみる。


「なるほどな。……ソールはどう思う?」

「んー……別にそれで良いんじゃね?」

「……そうか。では、その提案を受けることにしよう」


 そう言うと、ノーシュはもう一本の【劣化蘇生薬】を取り出して、最初の一本と一緒にこちらに差し出して来た。


「では、これで交渉成立だな」


 そして、そのまま二本の【劣化蘇生薬】を受け取って、無事に交渉成立となった。


「それでは、俺はもう行かせてもらおう」


 これでもうここですべきことはないからな。そのまま俺は『渡り鳥の集い』のギルド拠点を後にしたのだった。



  ◇  ◇  ◇



 『渡り鳥の集い』のギルド拠点を後にした俺は外でリッカと合流して、今後のことについて話し合おうとしていた。


「さて、【劣化蘇生薬】は二つ手に入ったが、どう分ける?」


 【劣化蘇生薬】は二つあるからな。まずはこれをどう振り分けるかを考えたいところだった。


「……内容見てから決める」

「ふむ……まあそれが良いか」


 まあ試練の内容が分かってから配分を考えたので良さそうだからな。ここは二つとも持って行っておいて、向こうに着いてからどうするかを考えることにした。


「とりあえず、挑戦は予定通りに明日からで良いか?」

「……うん」


 準備はおおよそ整ったからな。このまま予定通りに進めて問題なさそうなので、明日から挑戦を始めることにした。


「では、このままオーリエのところに向かうか」


 なので、そのことをオーリエに報告するために、そのまま俺達は歩いて研究所に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 研究所に向かうとオーリエに出迎えられたので、俺達はそのまま応接室に向かっていた。


「本日はどのようなご用件でしょうかー?」

「そろそろ試練を受けようと思ってな。その報告をしに来た」

「そうでしたかー。予定日時を聞いても良いですかー?」

「ああ」


 具体的な日時はここに来るまでにリッカと話して決めておいたからな。俺はその日時をそのままオーリエに伝える。


「分かりましたー。アドラ様に伝えておきますねー」

「ああ、頼んだ」

「それでは、試練についてもう少し詳しくお話ししますねー」

「む、何かあるのか?」


 今のところ、試練に関しての情報は強者の闘争平原で行うということぐらいしかないからな。追加情報はありがたいので、このまま話を聞いてみることにする。


「はいー。試練を行う正確な場所が決まりましたよー」

「ふむ、どこになるんだ?」

「ここになりますー」


 そう言ってオーリエは強者の闘争平原の地図を取り出すと、その最北端付近を指差した。


「最北端付近か……。ここに何かあるのか?」

「特別何かがあるというわけではありませんが、強いて言うのであれば巣穴でしょうかー」

「巣穴?」

「はいー。岩山の表面にはいくつも穴がありますので、そこを巣穴にしているモンスターは多いですねー」


 どうやら、エリアを隔離している岩山の表面にはたくさんの穴があるようで、そこを巣穴として利用しているモンスターが数多く生息しているらしい。


「なるほどな。となると、試練の相手はそこのモンスターか?」


 わざわざこの場所を指定したわけだからな。試練の相手はここにいるモンスターになる可能性が高そうだった。


「この場所には何か特別なモンスターでもいるのか?」

「いえ、そういうことはありませんよー」

「ふむ……であれば、普通に強者の闘争平原にいるモンスターが相手になると見て間違いないか」


 特別なモンスターがいるというのであれば話は別だったが、そうではないようだからな。

 やはり、強者の闘争平原で出現する通常のモンスターが相手であると見て良さそうだった。


「……うん。たぶんホーリーホーンドラゴンかたいろう

「まあそうなるよな……」


 強者の闘争平原で出現するモンスターの中で特に強いのがその二体になるからな。試練の相手はその二体のどちらかになる可能性が高そうだった。


「オーリエはどう思う?」


 オーリエに聞けば何か分かるかもしれないからな。ひとまず、彼女にも意見を求めてみる。


「アドラ様が決めることなので、わたしには確かなことは言えませんが、その可能性は高いと思いますよー?」

「そうか」


 オーリエもリッカと同意見のようで、やはり、このどちらかが相手になる可能性が高そうだった。


(まあ確定ではないが、その二体のどちらかである可能性が高いと分かっただけでも大きな収穫か)


 相手を絞ることができれば、対策を考えやすいからな。確定はさせられないが、十分な収穫であるとは言えそうだった。


「では、俺達はそろそろ行くことにしよう」


 これ以上は情報を得られそうにないからな。そろそろ拠点に戻って、試練に向けての最終調整を行うことにした。


「そうですかー。それでは、わたしはアドラ様に伝えに行って来ますねー」

「頼んだ。では、またな」


 そして、用件を済ませた俺達は研究所を後にして、残った時間を試練の準備に充てたのだった。

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