episode154 リデル=ミズガル
「おら、行くぞ!」
最初に動いたのは敵のリーダーだと思われる男だった。
男は大剣を振り上げながらリッカに接近すると、そのまま彼女に向けて武器を振り下ろす。
「――そこ」
「何っ⁉」
だが、そんな単純な攻撃では反撃のチャンスを与えるだけだった。
リッカは抜刀攻撃で『見切り』を発動させて攻撃を弾くと、そのまま素早く敵を斬り付ける。
(ちゃんと追撃は複数回発動しているな)
リッカの武器には火属性の追撃効果が合計で五回分あるが、追撃はちゃんとその回数分発生していた。
(火属性攻撃の威力上昇が重複しているかは分からないが、それは後で考えれば良いか)
追撃は見ただけですぐに分かるが、火属性攻撃の威力上昇が重複しているかどうかは少し検証が必要だからな。
その話は置いておいて、今は目の前の敵を倒すことだけを考えることにした。
「リッカ、狐火はどこに撃てば良い?」
『相伝・狐火』はクールタイムが長く、一回しか使えないと考えて良いからな。
使いどころが重要になるのと、前衛の動きをベースに全体の動きを考えた方が良いと思われるので、リッカにどうするかを聞いてみる。
「……双剣使い。すぐに」
「分かった。『相伝・狐火』」
指示を受けて、俺はすぐに双剣使いに向けて『相伝・狐火』を放つ。
「何だこれは――っ!」
双剣使いは初めて見る攻撃を警戒して下がるが、必中攻撃なので躱すことはできない。
彼を囲うように出現した火の玉は周りを回りながら接近して、着弾すると炎上、火傷、恐怖、衰弱の状態異常と物理攻撃力低下、魔法攻撃力低下、敏捷低下の弱体効果が付与された。
(やはり、耐性がなければ確実に入るようだな)
炎竜が相手だと耐性があるからなのか確実には入らなかったが、南セントラル平原の雑魚敵が相手であれば確実に状態異常と弱体効果が入っていたからな。
素の付与成功率は100%になっているものだと思われた。
「――削り切る!」
『相伝・狐火』の着弾を確認したリッカは、大剣を持ったリーダーの男の脇を抜けて双剣使いに接近すると、『剣閃――抜刀無双刃』からの連続攻撃で一気に落としに掛かる。
「こいつ――速い⁉」
双剣使いもそれなりに速いはずだが、完全に特化しているリッカの速度には対応することができていなかった。
何とか剣で受けて防ごうとしているが、防ぐことができずに一方的に削られていく。
「そう簡単にやらせるかよ!」
「おらよ!」
だが、敵は一人ではないので、そのまま倒し切ることはできなかった。
後衛の魔法使い達は一斉にリッカに向けて魔法を放って、それを止めようとする。
「――任せた」
しかし、十分に相手との距離もあって余裕のある彼女には通用しない。
リッカは隙を突いて双剣使いの顔面を踏み付けると、そのまま『クイックステップ』で前方に高く跳んで、後衛を仕留めに向かう。
「分かっている。『
いくら火力があるとは言っても、他のメンバーに干渉されて双剣使いを仕留め切れないことは分かっていたからな。
俺はそれを見据えて構えておいた『
「これは――ぐわーーー!」
双剣使いは足元に現れた魔法陣から放たれるその攻撃を避けることはできなかった。
リッカの攻撃で状態異常やデバフが付与されていた双剣使いは大ダメージを受けて、HPがゼロになってばたりと倒れる。
(オーバーキルだったか? いや、他の攻撃だと避けられる可能性もあったわけだし、これで良かったか)
火力的にはオーバーキルだったが、『
命中させることを考えると、これで良かったように思える。
「おい、援護しろ!」
「んなこと分かってる!」
「おっと、君達の相手は僕だよ」
後衛達はリッカに接近されて援護を求めるが、こちらにはまだ動いていないミズガルがいるので、そう簡単には行かなかった。
ミズガルは前衛二人の前に立ちはだかって、彼らが援護に向かうことを阻止する。
「チッ……邪魔だ!」
「おっと、そんなに慌てなくても、ちゃんと相手してあげるよ」
「ぐっ⁉」
リーダーの男は大剣でミズガルに斬り掛かるが、その攻撃は『パリィ』で受け流されて、反撃を受けてしまっていた。
(今のは『カウンター』か)
『カウンター』は『パリィ』の発動直後に使用できるスキルで、その名の通りに『パリィ』で崩れた相手に強力な一撃を叩き込むスキルだ。
『パリィ』を成功させないと使えないスキルなので、一般的には使いにくいスキルだと言われているが、その分威力は高く設定されている。
「まずは君から片付けさせてもらうよ」
「っ……!」
ミズガルはそのままリーダーの男に連続攻撃を仕掛けて、一気にHPを削っていく。
(やはり、速いな)
その速度はリッカほどではないがかなりのもので、敏捷に振った戦闘スタイルなのは確実だった。
「援護するぞ!」
「おっと、危ないね」
「っ!」
ここでもう一人の前衛が斧で攻撃して援護するが、両手武器の速度ではミズガルを捉えることはできない。
彼はそれを必要最低限の動きで躱して、リーダーの男に集中攻撃していく。
「俺もやるか。『バレッジソリッド』」
リッカの方は三対一ではあるが、相手は全員後衛なこともあって、一方的に押しているからな。
彼女の方は大丈夫そうなので、ここはミズガルの方を援護することにした。
俺は『バレッジソリッド』で斧使いの方を狙って攻撃して、彼がリーダーとの戦闘に集中できるように援護する。
「チッ……おらっ!」
「そんな攻撃が当たると思ったかい?」
リーダーの男はこのままだと押し切られると判断したのか、ダメージを受けながら無理矢理反撃するが、そんな半端な攻撃ではむしろ攻撃のチャンスを与えるだけだった。
ミズガルは最初と同じように同じように『パリィ』からの『カウンター』で攻撃して、男のHPをさらに削っていく。
「それじゃあそろそろ終わりにしようかな」
「ぐはっ!」
そして、『カウンター』で怯んだ隙に顔面にストレートを叩き込んで、リーダーの男にトドメを刺した。
「さて、後は君だけだね」
「っ!」
そこからの展開はあっという間だった。二人でも相手できなかったミズガルを一人で止めることができるはずもなく、そのままあっさりと斧使いも倒される。
「……片付いたな。リッカの方は――」
「――もう終わった」
前衛が片付いたところで改めてリッカの方を確認するが、そちらも全員片付いていて、彼女はこちらに合流して来ていた。
「この様子だと、僕の助けは必要なさそうだったね」
「……どうだろうな。ところで、そちらは何をしにここに来たんだ? 俺達を助けるために来たわけではないだろう?」
彼がここに来たのは俺達を助けるためではないはずだからな。
その話は置いておいて、ひとまず、ここに来た理由を聞いてみることにする。
「まあ助けるためではないね。僕がここに来たのは君達の様子を見るためだよ。攻略勢としては上位勢の動きは確認しておきたいからね」
「……本当か?」
言っていることは間違っていないが、俺達の動きはリッカやクオンが動画を上げていることもあって、わざわざ直接見に来ずとも分かるからな。
様子を見に来たのは間違いないようだが、それが真意ではないように思える。
「……勘が鋭いとでも言うべきなのかな? 正直に言うと、このゲームでのリッカの様子を見に来ただけだよ」
「リッカの様子を?」
「まあね。フルダイブ型のVRゲームに触って来なかったリッカが参戦したとあれば、気になるのは当然。そうは思わないかい?」
「いや、俺に言われてもだな……」
彼は他のゲームでリッカと関わったことがあるようなので、気になるのは分からなくもない。
だが、それに同意できるわけではないので、俺に言われても困る。
「と言うか、何故今になって見に来たんだ?」
「それは単にタイミングが合わなかっただけだね」
「そうか」
「とりあえず、ネムカに会いに戻ったらどうだい? そろそろログインするはずだよ」
「む? そうなのか?」
俺は彼女からは特に何も聞いていないからな。少しそのあたりのことについて詳しく聞いてみることにする。
「バウンティハンター向けに話があるって聞いていないのかい?」
「バウンティハンター? そんな話は聞いていないぞ」
「そうかい。まあどうせ呼ばれるだろうから、今から戻っておくと良いよ」
「分かった。リッカもそれで良いな?」
「……うん」
彼が嘘を言っているようには思えないからな。ここはアドバイス通りに始都セントラルまで戻ることにした。
「とりあえず、フレンド登録しておかないかい?」
「もちろん、構わないぞ。歩きながらで良いか?」
「構わないよ。それじゃあ行こうか」
そして、ミズガルとフレンド登録をした俺達はそのまま一緒に始都セントラルまで戻ったのだった。
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