episode155 アレイン

 始都セントラルに戻った俺達は中央広場の近くにある喫茶店で適当に時間を潰していた。


「いやー……あそこで焦ったのはミスだったね」

「……うん。二フレーム早かった」


 リッカは普段は人と話すことはないのだが、今日は珍しく人と話をしていた。

 彼女はミズガルと他のゲームの話をしているようで、軽く盛り上がっている。


「それにしても、喫茶店があったとはな」

「こういう店に来るのは初めてかい?」

「まあな」


 攻略を進める上では来る必要のない場所だからな。このような店に来るのは初めてになる。


「攻略に必須ではないけど、こういうのも悪くないと思わないかい?」

「そうだな。……こういう店も需要があるか……?」

「一定の需要はあるけど、本格運用は難しいだろうね。『猫又商会』がカフェを経営しているけど、売り上げは芳しくないみたいだしね」

「そうか……」


 まあ攻略には必要のない要素だからな。彼の言うように一定の需要はあるだろうが、経営は難しそうだった。


「まあそこは次のアプデに期待ってところかな」

「そうだな」


 次のアップデートで人が増えれば、それに伴って需要も生まれるだろうからな。そこは期待して待つしかなさそうだった。


「こういう店にはよく来るのか?」

「まあね。女の子を誘ってよく来るよ。……まあ大抵は断られるから、一人で来ることがほとんどだけどね」

「……そうか。ところで、懸賞金はどうする?」


 それはそうと、懸賞金の分配をまだ行っていないからな。それについての話をすることにする。


「いや、今回は遠慮しておくよ」

「む、良いのか?」

「今回の目的は賞金稼ぎじゃなかったからね。今回だけは止めておくよ。でも、次回以降は遠慮するつもりはないから、そこのところはよろしくね」

「ああ、分かっている」


 本来は彼も懸賞金を受け取るべきで、今回が特別なだけだからな。そこはちゃんと理解している。


「……む?」


 と、そんな話をしていたところで、メッセージを知らせる通知が届いた。


「……ネムカからか」


 メニュー画面を開いて確認してみると、それはネムカからのメッセージだった。

 ひとまず、メッセージを開いて、その内容を確認してみる。


「……呼び出しか」


 確認してみると、メッセージの内容は思った通り俺達を呼び出すものだった。


「そのようだね」


 メッセージはミズガルにも届いていたようで、彼もメニュー画面を開いてメッセージを確認しながら納得した様子を見せる。


「では、このまま向かうか」

「……うん」


 そして、その後は手早く食事を済ませてから、『猫又商会』の経営する店に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 『猫又商会』の経営する店に向かった俺とリッカは先に拠点に案内されていた。


「それで、何か作りましたか?」


 その目的は作製した装備品の確認で、そのためにネムカは俺達だけを先に拠点に案内していた。


「ああ。【炎竜の鱗】と【炎竜のねんりん】はまだ使っていないが、【炎竜の真紅核】を使って作った【ネオパラガドラインゴット】で刀は作ったぞ」


 ここで俺は被っていた【炎竜のフード】を脱いで、リッカから受け取った【シュウノ煉獄・リュウキリ】と一緒にそれらをネムカに手渡す。


「確認します」


 装備品を受け取ったネムカはそれらをテーブルの上に置くと、詳しく確認し始めた。


「……この刀は普通に作ったのですか?」


 だが、【シュウノ煉獄・リュウキリ】の性能を見た彼女は特殊な方法で作ったことに気付いたようで、そんな質問を投げ掛けて来た。


「いや、少し特殊な方法で作ったぞ」

「そうですか。……情報提供するつもりはありますか?」

「対価次第では考えるが、基本的にはないな」


 いつしか解明されることではあるので、それまでに情報を売ってしまいたいが、売るのはまだ早いように思えるからな。

 もちろん、対価次第では売るつもりだが、基本的にはまだ売るつもりはない。


「……分かりました。気が変わりましたら、いつでも言っていただければ話に乗りますよ」

「ああ。……確認はもう良いか?」

「はい。確認は済みましたので、お返しします」


 確認を終えたところで、渡していた装備品が返却される。


「ところで、メッセージの方は読んでいただけましたか?」

「ああ、もちろん読んだぞ。バウンティハンター向けの話だったな?」


 話はこの一件だけではない。むしろ、メインの話はこちらの方だ。

 話というのは賞金首の情報についてのことで、今からバウンティハンターを集めて話をするとのことらしい。


「はい。参加致しますか?」

「ああ」


 ここに来るまでに賞金首のリストを確認してみたが、懸賞金が思っていたよりも高く、稼ぎになりそうだったからな。

 リッカと相談した上で参加することに決めたので、参加を表明しておく。


「それでは、このままここでお待ちください。これより参加者を集めますので」

「分かった」


 ここで俺達にできることはないからな。そのまま俺達は参加メンバーが集まるのを待ったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 それから十五分ほど待っていると、メンバーが集まって話が始められようとしていた。


「それでは、話を始めさせていただきます」

「それで、賞金首の情報とは言うけど、どの程度の情報を持っているんだい? 君のことだからちゃんと相応の価値はあるのだろうけど、とりあえず、内容を聞かせてくれるかい?」


 最初に発言したのはミズガルだった。彼は早速、今回の本題である情報の内容を確認する。


「そうしたいところですが、情報提供をするのは私ではありません。……どうぞ」


 ネムカがそう言って促すと、彼女の隣に座っていた細目の人間の男が立ち上がった。


「私は情報ギルド『栄華の影』のリーダーのアレインです。よろしくお願いします」


 男はコートを整えて中折れ帽を被り直すと、自己紹介を始める。

 どうやら、彼は『栄華の影』というギルドのリーダーを務めているらしい。


「情報ギルドとは言うが、具体的にどんな活動をしているんだ?」


 俺は彼のギルドのことを何も知らないからな。ひとまず、情報ギルドとやらの活動内容を聞いてみることにする。


「端的に言うと、情報の売買を行っています」

「情報か……。察するに、賞金首の情報を提供しに来たといったところか」

「理解が早くて助かります」


 どうやら、彼は賞金首の情報を売るために人を集めたらしい。


「『猫又商会』に協力してもらうとは大掛かりだな。タダではなかっただろう?」

「そうですね。ですが、この絶好の機会を逃す理由はありませんでしたので」

「なるほどな。紹介料以上の対価が得られると踏んだといったところか」

「それもありますが、一番の目的は宣伝ですね。お恥ずかしいことにうちのギルドはあまり有名ではありませんので」

「……なるほどな」


 実際『栄華の影』というギルド名はここで初めて聞いたからな。名を広めるためというのは尤もな理由だった。


「情報って言うが、それは信用できんのか?」


 と、ここで参加メンバーの一人がそんな疑問を投げ掛ける。


「ネムカの紹介だ。そこは大丈夫だろう」


 彼がひとりでに名乗ったのならともかく、今回はネムカの紹介だからな。

 彼女が信用のできない人物を紹介するとは思えないので、そこは問題ないと思われた。


「まあそういうことです」

「それで、今日はどんな情報を売るつもりなんだ?」

「賞金首の装備品やアビリティの情報などになりますね。こちらになります」


 そして、俺が尋ねるとアレインは商品のリストを表示した。


「ふむ……全てまとめて買うのであれば百五十万、個別の販売もありか……」

「ええ。まとめ買いがお得ですよ」


 その値段はまとめ買いであれば百五十万ゼル、個別に買うのであれば懸賞金の額に応じて一万ゼルから五万ゼルと、値段はそれなりに張るものだった。


「おいおい……流石に高くないか?」

「値段設定を一桁間違えたか?」


 その値段設定を見たプレイヤー達は想定外の値段にざわつき始める。


「さて、それはどうだろうね? とりあえず、僕は買わせてもらうよ」


 だが、ミズガルは迷う様子もなく購入を決めると、硬貨が一杯に入った袋をアレインの前に差し出した。


「ご購入ありがとうございます。それでは、こちらが情報になります」

「確かに受け取ったよ。それじゃあ僕は一足先に失礼させてもらおうかな」


 そして、ミズガルは情報を受け取ると、そのままこの場を去って行った。


「他の皆様はどうしますか? もちろん、相応の価値がないと判断されたのであれば、このままお帰りいただいても構いませんよ?」

「……少し考えさせてもらっても良いか?」


 百五十万ゼルはかなりの大金になるからな。即決はできないので、少し考えさせてもらうことにする。


「ええ、もちろん構いませんよ」

「後で連絡したいのだが、連絡先を聞いても良いか?」

「それでしたら、店に来ていただければいつでも対応しますよ」

「分かった」

「皆様は即決いただけないようですので、私は店に戻ることにしましょう。購入をご希望の方は店までお越しください。それでは、御機嫌よう」


 そして、皆が購入に迷っていて、この場で購入者が出ないことを察したアレインは拠点を出て行った。


「……ところで、『栄華の影』の店はどこにあるんだ?」


 ああ言ったは良いが、俺は『栄華の影』の店がどこにあるのかを知らないからな。このままでは話をしに行くことができなかった。


「……場所も知らないのにあんなことを言ったのですか?」


 それを聞いたネムカは少し呆れた様子でため息をく。


「……場所は聞けば分かると思っただけだ」

「相変わらず格好が付かない人ですね」

「相変わらずは余計だ」

「……まあそれは良いでしょう。場所はここです」


 だが、そんなことは言いつつも、地図を表示して場所を教えてくれた。


「……助かった。礼を言おう」

「いえ、当然のことをしたまでです」

「では、俺達はそろそろ行かせてもらおう。リッカ、行くぞ」

「……うん」


 そして、あれこれ騒いでいる他の参加メンバー達を尻目に、俺達は自分の拠点に戻ったのだった。

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