episode153 プレイヤーキラー

 闘都コロッセオスに移動した俺達はオブソル岩石砂漠に向かうためにスピリア荒原に出ていた。


「オブソル岩石砂漠に向かうたびに思うが、地味に面倒だな……」


 オブソル岩石砂漠に向かうにはスピリア荒原を抜ける必要があるからな。

 敵は簡単に倒せはするし、東西に長いマップなのでそんなに時間は掛からないが、面倒であることに変わりはなかった。


「……先にデザトランスに行く?」

「ふむ……それもありか」


 デザトランスはオブソル岩石砂漠の北端にある街で、ユヅリハの屋敷に向かうにしてもそちらからの方が近いだろうからな。

 一旦ユヅリハの屋敷に向かうのは止めておいて、先にそちらを目指すというのもありだった。


「では、戦闘は極力避けて、デザトランスを目指すということで良いな?」

「……うん」

「……む? あれはプレイヤーか?」


 と、そんな話をしながら歩いていると、前方にプレイヤーらしき影を発見した。


「……警戒」


 それを見たリッカは何かを感じ取ったのか、俺に警戒するよう促しながら動きを慎重にする。


「そんなに警戒するほどか?」

「……たぶんPK」


 どうやら、リッカはあれがPKのプレイヤーだと睨んでいるらしい。


(確かに、探索をしている様子はないな)


 それを受けてそのプレイヤー達の動きを改めて確認してみるが、探索をしている様子はないからな。

 PKが集まって動いているという話も聞くので、警戒するに越したことはなさそうだった。

 なので、俺も警戒しながら動くことにした。


「避けるように動くか?」

「……一応」

「分かった」


 避けるように動いているにも関わらず、こちらを狙って来るようであればほぼ確定だからな。

 確認の意味も込めて、ここは避けるように動くことにした。


「……こちらに来ているな」


 こちらは大回りで移動しているが、向こうはわざわざこちらに近付いて来ているからな。

 場所的にも闘都コロッセオスの近くという、救援を求めて来るような場所ではないので、確定と見て良さそうだった。


「どうする? このまま逃げつつオブソル岩石砂漠を目指すか?」


 余計な消耗は避けたいし、オブソル岩石砂漠であれば敵が強く、簡単には追って来れないからな。

 移動速度はこちらの方が早いはずなので、ここは逃げることを提案してみる。


「……【望遠鏡】で賞金首か確認して」

「む、分かった」


 この距離だと素の状態ではプレイヤーの詳細を確認できないが、【望遠鏡】を使えば詳細を確認できるはずだからな。

 逃げるにしても余裕はあるので、ここはリッカの指示通りに【望遠鏡】で詳細を確認してみることにした。


「ふむ……全員賞金首だな」

「……トータルバウンティーは?」

「賞金総額か? ……百万だな」


 パーティは六人のフルパーティで、賞金は一人当たり十五万ゼルから二十万ゼル、その合計金額は百万ゼルにも上った。


「……狩る」

「確かに百万は美味しいかもしれないが……大丈夫か? 相手は六人だぞ?」

「……賞金低いし、たぶん弱い」

「む、かなりの金額だと思うが、これでも安いのか?」


 最低でも十五万ゼルと、かなりの金額だからな。懸賞金にしては高額な部類のはずなので、少しそのあたりのことについて聞いてみることにする。


「……集まって動き始めたことを受けて、全体的に大きく賞金引き上げられた」

「ふむ、そうだったのか」


 俺はそのあたりのことは調べていないので知らなかったが、どうやら、懸賞金が引き上げられていたらしい。


「と言うか、安くてもこの金額か……」

「……うん。プレイヤー間では次のアプデまでに運営が面倒なのを掃討させようとしてるって話も上がってる」

「アップデートか……そう言えば、次のアップデートでプレイヤーが増えるのだったな」

「……うん」


 このゲームはフルダイブ型のVRゲームとしては初のMMOのジャンルで、サーバーへの負荷など、未知数なことも多いからな。

 そのせいか、このゲームは当選したプレイヤーのみが参加できるという方式で、順次プレイヤー数を増やすことになっている。

 そして、つい最近その二次参加プレイヤーの抽選が終わって、次のアップデートでの参加が決まったので、もうすぐプレイヤーが増えることが確定しているのだ。


「まあその話は良い。とりあえず、あいつらを倒すことを考えるか」

「……うん」


 今すべきことはあのプレイヤー達への対処だからな。

 その話は置いておいて、いつ戦闘になっても大丈夫なように準備だけはしておくことにした。


「敵は……前衛三人と後衛三人で、全員アタッカーか? また随分と極端なパーティだな……」


 ここで改めて敵を確認してみるが、見たところ全員がアタッカーのようだった。


「……目的はPKだし、アタッカーを選ぶのは当然」

「ふむ……ソロベースで考えるとそうなるし、確かにそれは一理あるな」


 相手を倒すには当然火力が必要になるからな。PKを目的にするのであれば、アタッカーを選ぶことは自然なこととも言えるので、それには納得だった。


(となると、やはり彼らは元々ソロだった者が集まった、寄せ集めのようだな)


 初めから複数人で組んでいたとしたら、バランスを考えてパーティを構築するだろうからな。

 そういった点からも、彼らは元々ソロや少人数で活動していた者達が集まった、寄せ集めであると考えて良さそうだった。


「……まあMPKならその限りじゃないけど、その場合でも動きが軽い方が良いし、結局アタッカー率は上がる」

「MPK?」

「……モンスタープレイヤーキラー。意図的にトレインしたのを押し付けたりしてPKする」

「トレイン?」

「……多数のモンスターのタゲを取って引き回すこと」


 俺が知らない用語を尋ねると、リッカはすぐに返して来る。


「そうか。……思うのだが、PKをする意味はあるのか?」


 ここで俺はそんな根本的な疑問をリッカに投げ掛ける。

 このゲームではプレイヤーを倒してもアイテムは手に入らないし、倒してもそのプレイヤーにデスペナルティを与えるだけで、何も実利がないからな。

 利がないどころか無駄に消耗するだけなので、PKをする意味はないように思える。


「ない」


 そんな俺の素朴な疑問に対して、リッカはきっぱりとそう答えた。


「……まあ死ぬとアイテムなんかを落として、それを奪えるゲームもあるけど、このゲームはそうじゃない。だから、実利的な意味ではPKする意味はない」

「まあそうだよな。となると、それ以外の部分か……」

「……ああいうのは格下狩りをして、力の誇示をすることなんかが目的」

「それは力を誇示したと言えるのか……?」


 力を誇示したいのであれば格上、最低でも同格程度でないと実力を証明したとは言えないからな。

 格下狩りをしても意味はないし、それで威張っても虚勢でしかない。


「……自分が満足すれば良い」

「……迷惑なことだな。そういった意味でもアタッカーを選ぶのも当然ということか」


 実際に相手を倒すことで、その実感が沸くだろうからな。

 そういう意味でも、相手を直接倒すことができるアタッカーを選択するのは当然とも言えた。


「……さて、だいぶこちらに近付いて来たが――っと……⁉」


 と、そんな話をしながら近付いて来るPKだと思われるプレイヤー達の様子を見ながら移動していると、彼らは射程に入ったところで魔法を放って来た。

 俺はそれを冷静に横に跳んで避けて、敵の方を向いて構える。


「おうおうおう! お前ら止まりなー!」


 そして、一団が俺達の行き先を塞ぐように立ちはだかると、先頭にいたリーダーだと思われる男が武器を振り回しながら俺達を止めて来た。


「……何だ? 俺達は忙しいのだが?」

「おい、お前ら! 金を出しな! 金を出したら見逃してやらないこともないぜ?」

「いきなり金を出せと言われてもだな……取引する気はあるのか? 要求する前に対価として提供する物を提示したらどうだ?」

「おいおい……状況を分かってんのか? 俺らは取引しに来たんじゃねえ。分からないなら体に教えてやるよ!」

「っと……!」


 俺は彼らと話し合いを試みるが、やはり話を聞くつもりはないようで、問答無用で攻撃を仕掛けて来た。


「……どうせ話は無駄。初めから仕掛けた方が良かった」

「そういう決め付けは良くないな。要求は金だったわけだし、交渉次第では何とかなった可能性もあっただろう?」

「……こっちも交渉する気はない」

「まあそれはそうだが……出会い頭にいきなり仕掛けては、どちらがPKなのか分からないぞ?」


 こちらは完全に倒すつもりで動いていて、お金を出せば見逃してくれると言われても、それに応じる気はなかったからな。

 交渉する気はなかったし、賞金首を倒してもペナルティはないので、話を聞かずに戦闘に移っても良かった。


 だが、話もせずに問答無用で仕掛けては、もはやどちらがPKなのかが分からないからな。一定の常識という意味でそれは止めておいた。


「二人でごちゃごちゃと随分余裕だな!」

「っ!」


 と、そんな話をしていると、リーダーらしき男がこちらは蚊帳の外かと言わんばかりにリッカに攻撃を仕掛けて来た。


「おやおや、いたいな少女に乱暴なんて、これは見過ごせないね」


 と、ここでその様子を見ていたのか、一人の二十代の人間の男が争いを止めるよう促しながら俺達の後方から現れた。


 男は膝のあたりまで着丈のある、薄ピンク色を基調としたコートを着たスーツ姿をしていて、頭にはシルクハットを被っていた。

 そのダークブラウンの短髪はわずかに風に揺られていて、片眼鏡からは青い瞳を覗かせている。


 その風貌から伝わって来るのは「紳士」というイメージで、彼が何者なのかは何となく察することができた。


「あ? 誰だお前? 邪魔すんのか?」

「おっと、名乗っていなかったね。僕はリデル=ミズガル。少女をこよなく愛する者さ」


 彼の名はリデル=ミズガル、『変態紳士』の二つ名で呼ばれるトッププレイヤーの男だった。


「僕のことはミズガルって呼んでくれたら良いよ。ところで、二人とも助けは必要かい?」

「……加勢してくれるのか?」

「懸賞金は分けてもらうけどね。もちろん、先に見付けたのは君達だから、二人だけで倒して懸賞金を独占しても良いよ」

「……どうする?」


 懸賞金が懸かっていて、俺が決められることではないからな。ひとまず、リッカにどうするかを聞いてみる。


「……実力見せてもらう」

「どうやら、このゲームでの僕の実力を見たいみたいだね。分かったよ」


 リッカのその一言を受けて、ミズガルは俺達に加わった。


「一人加わったところで、六対三だ。多勢に無勢だな!」

「さて、それはどうかな?」


 ミズガルは男の挑発的な言動を軽く流して、余裕の表情を見せながら武器である手甲を構える。


「俺はどうすれば良い?」

「適当に動いてくれて構わないよ。この程度の相手なら、僕一人でも十分だからね」

「分かった。では、やるとするか」


 そして、急遽ミズガルが加わったところで、俺達はPK達との戦闘を始めたのだった。

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