第6章 懸賞金争奪戦

episode151 炎竜の素材

 翌日、俺はネムカからの連絡を受けて『猫又商会』の拠点に向かっていた。


「それで、【炎竜の爪】の買い取り金額は決まったのか?」


 連絡の内容は炎竜の素材についての話をしたいというものだったからな。

 昨日は【炎竜の爪】を三本渡しただけで査定待ちだったので、まずはそれについて聞いてみることにする。


「はい。一本当たり十万ゼルでどうでしょう?」

「む、そんなに出してくれるのか?」

「はい。現状での入手難易度を考えると、そのぐらいが妥当かと」


 まあ確かにもう一度取って来いと言われても、また倒せる気はしないからな。現状での稀少性を考えると、高額なのにも納得だった。


「分かった。追加で必要か?」


 【炎竜の爪】は全部で八本あるからな。まだこちらには五本あるので、どうするのかを聞いてみる。


「できれば欲しいですが、提供は難しいのではないですか?」

「まあな」


 こちらから聞いておいて何だが、稀少な素材だからな。一本十万ゼルという値段で買ってくれるとは言っても、そう簡単には提供できない。


「……まあその話は一旦置いておきましょうか。ひとまず、こちらが三十万ゼルになります」


 ここでネムカは【炎竜の爪】三本分の代金である三十万ゼルをテーブルの上にぽんと置く。


(流石は生産系ギルドのトップといったところか)


 三十万ゼルは安い金額ではないが、それを何のためらいもなく出しているからな。

 生産系ギルドのトップとだけあって、相変わらず資金は潤沢なようだった。


「ああ。とりあえず、これは受け取っておこう」


 【炎竜の爪】は三本は売ることを約束していたからな。その分の代金は受け取っておくことにする。


「さて、話は【炎竜のねんりん】、【炎竜の爪】、【炎竜の真紅核】の三つについてになるが、結論から言うと【炎竜のねんりん】と【炎竜の爪】は提供できるぞ」


 一つしかない【炎竜の真紅核】とは違って、【炎竜のねんりん】と【炎竜の爪】は数に余裕があるからな。

 全ては提供できないが、この二つについては提供可能だ。


「ですが、できれば提供したくないのでは?」

「……まあな」


 できれば自分で全て使って何かを作りたいところだったが、『猫又商会』にはだいぶ世話になっているからな。

 協力できるのであれば可能な限り応えるつもりなので、今回は求められれば提供するつもりだ。


「……一つ質問をしましょう。それらの素材を全て自分で使うとしたら、どう使いました?」

「そうだな……【炎竜の爪】は適当に使うとして、【炎竜のねんりん】は品質を100にした物で何かを作って、余った分で防具を作るといった感じだな」


 炎竜のドロップアイテムの品質は70から80で、品質を100まで上げるには十個ぐらい必要になるからな。

 【炎竜の爪】の品質を100にすることはできないので、そちらは適当に使うつもりだ。

 そして、【炎竜のねんりん】は十五個あって品質100を狙えるので、そちらは品質100の物を一つ作って、余った分を防具に回すといったところだ。


「そうですか。では、こういうのはどうでしょう? 素材の提供は不要ですので、そちらで自由に使っていただいて構いません。その代わりに作製した物を見せていただけませんか?」

「……それだけで良いのか?」

「はい。どちらかと言えば欲しいのは情報になりますので」

「……なるほどな」


 彼女の店であれば利益は他の物で十分に上げることが可能で、その目的でこれらの素材を買い取る必要はないからな。

 情報を得るのであればそれでも十分ではあるので、その提案にも納得が行った。


「分かった、それで行こう」


 なので、その提案を受けることにした。


「ところで、【炎竜の爪】を使って何か作れたか?」

「はい。【炎竜の爪】と【炎竜の核】を合成したところ、【パラガドラインゴット】を作ることができました」


 ここでネムカはそう言いながら橙色のインゴットを取り出して、それをテーブルの上に置く。


「なるほどな。他には何か作ったのか?」

「他には杖を作りましたね。こちらになります」


 俺が他に何か作ったのか尋ねると、【パラガドラインゴット】に続いて、今度は橙色の杖を取り出した。

 とりあえず、その詳細を確認してみる。



━━━━━━━━━━


【炎竜の杖】

物防:30

魔攻:450

魔防:30

耐久:600

重量:7

空S:3

品質:75

効果:炎竜の覇気、煉獄の現れ、真炎の覚醒

付与:魔力覚醒術、無印魔法

Cost:0/50

説明:持ち手に炎竜の爪を用いることで魔力の伝導率を良くした杖。炎竜の核の魔力を最大限に引き出すことに成功していて、かなりの性能を誇る。



【炎竜の覇気】

 煉獄火山の上層の主が放つ強者の覇気。

 攻撃に火属性を付与して、攻撃時に火属性の追加ダメージを与える。

 また、火属性攻撃の威力が上昇する。

 さらに、攻撃時に確率で対象を怯ませる。

 加えて、攻撃時に確率で火耐性低下の効果を付与する。


【煉獄の現れ】

 火口からかすかにまみえるは煉獄への入口。

 戦闘時、一定時間が経過するごと火属性攻撃の威力が増加する(上限は+10%)。

 さらに、攻撃時に確率で一定時間ごとに火属性のダメージを受けるようになる効果及び、受ける火属性ダメージが増加する効果を付与する(確率判定はそれぞれで独立)。


【真炎の覚醒】

 覚醒した炎の激流は全てを呑み込み焼き尽くす。

 火属性攻撃時に確率で炎上、火傷、物理防御力低下、魔法防御力低下の効果を付与する(確率判定はそれぞれで独立)。


【魔力覚醒術】

 付与コスト:30

 最大MPと魔力と魔法攻撃の威力が上昇する。

 さらに、戦闘時に一定時間ごとにMPが回復する。


【無印魔法】

 付与コスト:20

 魔法攻撃時に無属性の追加ダメージを与える。

 さらに、魔法系アビリティの消費MPが減少する。


━━━━━━━━━━



「これは……かなり高性能だな」


 火属性攻撃に特化しているが、魔法攻撃力450という値は初めて見るほどに高いからな。

 空きスロットや耐久度もあり、おまけで防御力も付いていて、その性能はかなりのものだった。


 ちなみに、説明していなかったが、『真炎の覚醒』の説明にある火傷は属性耐性が低下する状態異常だ。


「はい。未強化状態でこの数値ですし、三段階ほど上の性能があると思われます」

「やはり、【炎竜の爪】のおかげか?」

「そうですね。持ち手の部分を他の素材で作った際は魔法攻撃力が310でしたし、それで間違いないかと」

「そんなに差があるのか……」


 実数値にして140、割合にして一・五倍近い差だからな。その性能差はかなりのものだった。


「ところで、通常の炎竜素材はどうしました?」

「通常の炎竜素材なら三人に渡したが……それがどうかしたのか?」

「いえ、品質がどうだったのかが気になりまして」

「品質なら70から80ぐらいだったはずだぞ」


 他の炎竜素材も品質はこれらと同じぐらいだったからな。今回ドロップした素材は通常の炎竜素材も品質は70から80だったはずだ。


「やはり、そちらも高品質なのですね」

「む、そうなのか?」

「はい。通常であれば品質は50前後ですので」

「ふむ、そうだったか」


 炎竜の素材は市場には出回っておらず、品質がどの程度なのか確認できなかったが、どうやら、今回ドロップした物は高品質だったらしい。


(言われてみれば、普通のボスが高品質な物をドロップすることはなかったし、考えれば分かることだったか)


 これまで高品質な物は隠しエリアなどの特殊な条件下でしかドロップしていないからな。

 考えれば分かることだったし、既に弱体化ありでの討伐を済ませていたソールに聞けば確実だったので、何も考えずに三人に分けてしまったのは失敗だったように思えた。


「……とりあえず、三人には連絡しておくか」


 まだ売却していないのであれば取り戻せるからな。三人には後で連絡しておくことにした。


「それと、【炎竜の鱗】を一つ売ってくれないか?」

「……炉の強化用ですか?」

「ああ」


 炉の強化用であれば品質は関係ないからな。手元にある品質が高い物を使うのは勿体ないので、ここは『猫又商会』から品質の低い【炎竜の鱗】を買うことにした。


「それでは、品質の一番低い物を渡しておきましょう」

「む、代金は良いのか?」

「いえ、そういうわけではありません。後でまとめて計上した方が楽かと思いまして」

「……なるほどな」


 装備を新調するに当たって必要になる物は『猫又商会』から買うことも考えていたからな。

 ここは彼女の提案通りに後でまとめて計上した方が良さそうだった。


「では、その方針で行くとしよう」

「分かりました。それでは、こちらが【炎竜の鱗】になります」

「ああ。では、また後で連絡する」


 そして、【炎竜の鱗】を受け取った俺は『猫又商会』の拠点を出て、炉の強化に必要なアイテムを作ってもらうためにNPCの店に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 NPCの店で炉の強化に必要なアイテムを作ってもらった俺は拠点に戻っていた。


「さて、これを炉に取り付けてと……これで良いな」


 拠点に戻った俺は早速作ってもらったアイテムを取り付けて、炉の強化を行っていた。


「……できた?」

「ああ。とりあえず、【星界のアミュレット】のことも考えて、今日は付与効果の選定を中心に行うということで良いか?」

「……うん」


 前回のイベントの貢献度ポイントの交換期限が迫っていて、【星界のアミュレット】に付与する付与効果を決めなければならないからな。

 新調する装備に付与する付与効果も考えておきたいので、今日は付与効果の選定を中心に行っていくことにした。


「……何か情報あった?」

「爪を使った物は三段階ほど性能が良いということと、【パラガドラインゴット】の作り方が分かったな」

「……見せて」

「分かった」


 確認したことで、図鑑に情報は登録されているからな。彼女にはその情報を見せることにした。

 俺はメニュー画面を開いて、【パラガドラインゴット】の情報をリッカに見せる。


「……真紅核は?」

「【炎竜の核】の代わりに【炎竜の真紅核】を使って作るということか?」

「……うん」

「ふむ、確かにそれなら【パラガドラインゴット】の上位アイテムを作れる可能性もあるだろうが……まあ比較的失敗の可能性は低いか」


 【炎竜の爪】と【炎竜の核】でちゃんとしたアイテムができることは分かっているからな。

 失敗する可能性は比較的低いと思われるので、試しに作ってみるのも悪くはなさそうだった。


「……作ってみるか」


 少し悩んだが、倉庫にしまっておいても仕方がないからな。

 他に当てもないので、ここは【炎竜の爪】と【炎竜の真紅核】の合成を試してみることにした。


 俺は錬金板の上に【炎竜の爪】と【炎竜の真紅核】を乗せて、それらの合成を始める。


「……できたな」


 そして、合成が済んだところで確認してみると、【ネオパラガドラインゴット】というアイテムが完成していた。


「これで刀でも作るか?」

「……【風化した刀】は?」

「ふむ……火属性であれば作りやすいし、それもありか」


 火属性であれば、煉獄火山で魔力の充填ができるからな。作製は難しくないので、【風化した刀】と合わせるのも良さそうだった。


「品質は80程度を目安に作ったので良いか?」

「……うん」


 品質を100にすることはできないからな。今回は品質が80程度になるように【風化した刀】の品質を調整して作ることにした。


「……やるか」


 品質上げの作業から始める必要はあるが、やり方はもう分かっているからな。ぱぱっと作ってしまうことにした。

 俺は【風化した刀】の品質が80になるまで『良質化合成』を行って、【ネオパラガドラインゴット】と合わせて【古代の刀】を作製する。


「……できたぞ」


 そして、完成したところで、その性能を確認した。



━━━━━━━━━━


【古代の刀】

物攻:50

耐久:3000

重量:3

空S:5

品質:80

効果:なし

付与:なし

Cost:70/70

説明:風化した刀をネオパラガドラインゴットで補強して、武器として使える状態にした刀。丈夫ではあるが、錆びているので攻撃力はほとんどない。


━━━━━━━━━━



「ふむ……【ひずみの欠片かけら】で作った物ほどではないが、性能は良さそうだな」

「……うん」


 コスト上限は70もあるし、空きスロットも五つあるからな。

 高性能なことが予想されるので、これはかなり期待できそうだった。


「では、リッカはこれに魔力を込める作業をしておいてくれ。俺は付与効果の選定と時間があればタイニーフェニックスのテイムを進めておこう」

「……分かった」


 そして、方針が決まったところでリッカと別れて、その日は別々に活動したのだった。

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