episode149 炎竜戦、決着
「一気に行くか。『バレッジソリッド』」
「あたしもやるよ! 『ホールドショット』! えいっ、えいっ!」
攻撃し過ぎるとこちらがターゲットを取ってしまう可能性もあるが、もうそんなことを気にしている余裕はないからな。
火力を抑えていると、アッシュのMPが尽きてスリップダメージで全滅するので、ここは遠慮せずにガンガン攻撃していく。
(今のところは大丈夫そうだな)
俺達は加減せずに攻撃しているが、リッカの方がヘイトを稼いでいるようで、今のところはこちらにターゲットが向いていないからな。
とりあえず、この調子で攻撃し続けたので良さそうだった。
(とは言え、こちらにターゲットが移ることもあるだろうし、避けられるように準備だけはしておかないとな)
だが、いつこちらにターゲットが移るかは分からないからな。こちらが狙われても避けられるように、準備だけはしておくことにした。
「クオン、これを。『物質圧縮』プラス『マテリアルチェイン』!」
ここで俺は『物質圧縮』で強化した『マテリアルチェイン』をクオンに向けて放って、鎖を彼女の腹に巻き付ける。
「ちょっと、何するの!」
「避けられそうになかったら俺がサポートするので、それは我慢してくれ」
「あ、そういうことなら先に言ってよね! 分かったよ」
この状態で俺が鎖の先を持っておけば、回避のときに引っ張ってサポートできるからな。
こうしておけばサポートが必要ないときは手放すという選択も取れるので、この状態で戦闘を続けることにする。
「グルッ!」
と、ちょうどそんな話をしていたところで、炎竜がリッカへの攻撃を止めて、こちらを振り向いた。
(狙いはクオンか)
その視線の先にいたのはクオンだった。どうやら、『ホールドショット』で固定砲台と化して矢を撃ち続けていたので、彼女が一番ヘイトを稼いでいたらしい。
「クオン、避けろ!」
「ちょっと待っ……」
俺は爆発を避けるためにその場を離れながらクオンに警告するが、彼女は攻撃中だったので、すぐには対応できそうになかった。
「――俺がやるしかないか。はっ!」
『ホールドショット』は構えを取ることで矢を連射し続けるスキルだが、構えた状態だと回避距離が大きく下がってしまうからな。
自力では避けることはできなさそうなので、ここは俺がサポートすることにした。
俺は安全な位置にまで離れたところで鎖を一気に引っ張って、鎖を巻き付けられたクオンを素早くこちらに引き寄せる。
「グルッ!」
「うわっ⁉」
直後、振り下ろされた炎竜の爪が地面を砕くが、何とか直撃は防ぐことができた。
(爆発までは防げなかったか)
だが、その攻撃によって発生した爆発までは避け切ることができなかったので、ダメージを受けて吹き飛ばされてしまっていた。
「……っと、大丈夫か?」
俺は吹き飛ばされてちょうどこちらに飛び込んで来たクオンをそのまま受け止める。
「うん、おかげ様でね」
「グルッ!」
「おわっ⁉」
クオンを回避させたは良いが、炎竜の狙いはまだ変わっていないからな。炎竜は今度はこちらを狙って攻撃して来ていた。
(『マテリアルウォール』は間に合わないな)
爪は振り下ろされようとしていて、『マテリアルウォール』による壁の展開は間に合わないからな。
間に合うのであれば一番安定して避けられる方法だったのだが、残念ながらその選択肢はなさそうだった。
(かと言って、普通に避けるのも体勢が悪いので難しいか)
今はクオンを受け止めて、そのまま彼女を抱いているような状態だからな。
こちらは体勢が悪い状態なので、回避行動を取るのも難しかった。
(だが、考える時間はない。動くか)
何とか策を考えたいところだったが、時間もないからな。すぐに動くことにした。
「ならば、これで――」
「うわっ⁉」
このままだと避けられないので、まずは素早くクオンを放して、そのまま彼女を押して突き飛ばす。
「はぁっ!」
そして、俺は彼女を突き飛ばした反動を利用して、後方に跳んだ。
「ガルッ!」
「まだまだ――」
だが、それだけでは終わらない。これでは回避距離が足りないので、体を捻って尻尾で地面を蹴るようにして加速して、さらに回避距離を伸ばす。
「っ!」
しかし、それでも回避距離が足りずにダメージを受けて吹き飛ばされてしまった。
(ダメージは受けたが、何とか直撃は避けられたか)
直撃すれば倒されていた可能性もあったからな。ダメージは受けてしまったが、まだ何とかなるので冷静に立て直すことにする。
「……私がやる。『剣閃――抜刀無双刃』」
と、ここでその様子を見たリッカが連続攻撃を仕掛けてヘイトを稼いで、ターゲットを取ってくれた。
「回復はそちらで
そこにすかさずアッシュからそんな指示が飛んで来る。
「分かった」
彼はソールとリッカの回復で手一杯だからな。受けたダメージの回復はこちらで行って立て直すことにする。
「クオン、このまま元の位置に戻るぞ」
「分かったよ」
早く領域が展開されている位置に戻らないと、スリップダメージで落とされてしまうからな。
【下級HP回復ポーション】のクールタイムはまだ残っているので、炎竜の動きに注意しつつ早く戻ることにした。
「……ここだな」
残りHPが少ないので焦りそうになるが、攻撃に当たりさえしなければ問題はないからな。
俺は冷静に炎竜の動きを見て、隙の大きいタイミングで展開していた領域に駆け込む。
「クオンも無事に戻れたか」
「まあこのぐらいはね」
そのタイミングでクオンも領域内に戻っていて、立て直しは何とかできそうだった。
「む、クールタイムも終わったな」
と、ちょうどここで【下級HP回復ポーション】のクールタイムも終わったので、それを使って自身のHPを回復しておく。
「それじゃあスパートにしよっか」
「そうだな。『バレッジソリッド』」
ここで一気に仕掛ければ『マテリアルジャッジメント』で倒し切れる範囲にまで削れそうだからな。
アッシュの残りMP的にも厳しいので、もうラストスパートと行くことにした。
俺は『マテリアルジャッジメント』に必要な分のMPを残しつつ、ガンガン攻撃していく。
「……そろそろ準備して」
と、ある程度攻撃したところで、リッカから俺にそんな指示が飛ばされた。
どうやら、『マテリアルジャッジメント』で倒し切れるところまで炎竜のHPを削ることができたらしい。
「分かった。サポートを頼めるか?」
『マテリアルジャッジメント』は元々キャストタイムが10秒と長いし、『物質圧縮』を行う分でさらに長くなるからな。
俺が狙われては困るので、他のメンバーにサポートしてもらうことにする。
「おう、任せとけ」
それを受けてソールはすぐに盾を構えてターゲットを取りに向かった。
「……タイミングは指示する」
「分かった」
これだけは確実に通さなければならないからな。攻撃準備を始めるタイミングはリッカの指示で決めることにした。
「グルルァッ!」
と、そんな話をしていると、炎竜がさせるかと言わんばかりに魔法陣を展開して来た。
(面倒なのが来たが、ここを乗り切って決めれば終わりか)
一番厄介な攻撃ではあるが、これさえ乗り切れれば決められそうだからな。
俺には最後にすべきことがあるので、ここで倒されないように気を引き締める。
「――始めて」
だが、俺がそんなそんなことを考えていたところで、リッカが攻撃準備を始めるよう指示して来た。
「分かった。『物質圧縮』プラス『マテリアルジャッジメント』」
この状況で攻撃準備をしてもうまく行かないように思えるが、リッカのことだからな。
何か考えがあるものだと思われるので、それを信じて動くことにした。
俺はすぐに『物質圧縮』で【クラフトマテリアル・氷】を圧縮して、攻撃の準備を始める。
「グルァッ!」
「……じっとして」
直後、炎竜の魔法が起動して火球が降り注ぎ始めるが、俺の元にまで駆けて来たリッカはそのまま俺を抱き上げた。
「っと……それで大丈夫なのか?」
「――任せて」
リッカは俺を抱き上げたまま駆けて、火球の軌道を見極めつつ確実に躱していく。
(まあ信じて任せるしかないか)
今の俺にできることは彼女を信じて『マテリアルジャッジメント』を発動する準備を進めることだからな。
俺はそのままリッカに抱き上げられながら、攻撃の準備を進めていく。
(俺を抱えて速度はだいぶ落ちているが、それでも大丈夫そうだな)
ここで攻撃の準備を進めながらリッカの様子を確認するが、彼女は火球の軌道に加えて爆風の範囲も完全に見切っていて、難なく攻撃を躱していた。
リッカは上を見ながら火球の爆発をギリギリで躱して、その都度発生した熱風が俺達の肌を撫でる。
そして、そのまま攻撃を躱し続けて、炎竜の魔法攻撃をやり過ごすことに成功した。
「……止んだか」
「……うん。スタミナないし、もう降ろす」
魔法攻撃が終わったことを確認したところで、俺はすぐにそっと降ろされる。
「時間は?」
「後七秒だな」
『マテリアルジャッジメント』が発動可能になるまでは後七秒で、この様子であれば問題なく決着になりそうだった。
「グルルァッ!」
そう思ったのだが、炎竜はそれだけは阻止すると言わんばかりに俺にターゲットを向けていて、その爪を振り下ろそうとしていた。
「――続けて」
一旦攻撃を中断して仕切り直すという選択肢もあったが、リッカはこのまま続けるよう指示を出しながら俺の肩に足を掛けて、そのまま炎竜に向けて飛び掛かった。
「グルッ!」
「――ふっ!」
そして、振り下ろされた爪に向けて抜刀攻撃を放って、『見切り』を発動させて攻撃を弾いた。
「うぐっ……」
だが、爪と接触したことによって発生した爆発は防ぐことはできないので、それによって吹き飛ばされてしまっていた。
「グルル……」
そして、リッカを吹き飛ばした炎竜は次はお前だと言わんばかりに俺を睨み付けると、再び腕を振り上げた。
(これは厳しいか?)
キャストタイム中の俺はあまり動けないからな。残り時間は三秒だが、既に腕を振り上げて攻撃態勢に入っているので、このままだと間に合いそうになかった。
「こういうときは俺の出番だな。『シールドガード』!」
だが、俺を守れるのは彼女だけではない。こちらの様子を見て駆け寄って来ていたソールが前に出て、『シールドガード』でシールドを展開した。
そのシールドによって炎竜の一撃は遮られて、吹き飛ばされそうになりつつも俺への攻撃を完全に防ぐ。
「――助かる」
「シャム、決めてやれ!」
「ああ! 『マテリアルジャッジメント』!」
それによって、『マテリアルジャッジメント』の起動準備が整った俺はすぐにそれを起動して、上空に魔法陣を展開した。
「このために作った198個の【クラフトマテリアル・氷】を圧縮した一撃――これで終わりだ!」
そして、魔法陣から出現した巨大な剣が落下を始めて、炎竜に直撃すると同時に大爆発を起こした。
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