episode147 炎竜
それからの戦闘は順調に進んで、特に事故もなく炎竜のHPが半分を切りそうなところまで来ていた。
「……そろそろ半分だな」
「だね。とりあえず、折り返し地点までは余裕だったね」
「折り返しと言うより、ここからが本番だな。ひとまず、一旦攻撃を止めて回復するぞ」
HPが半分を切ると発狂してさらに強化されるからな。
ここからの行動はまだほとんど分かっていないし、余裕を持てるのはここまでなので、ここは一旦攻撃を止めて万全の状態に整えることにした。
「準備が整ったら言ってくれ。俺から動く」
「分かったよ」
半分を切るときは一気に仕掛けたいが、その前に『相伝・狐火』と【
仕掛ける際もタイミングを合わせたいので、まずは全員の準備が整うのを待つことにした。
(とりあえず、MPは全回復させておかないとな)
俺達はそれぞれで回復ポーションなどを使って準備を整えていく。
「こっちは全員もう良いぞー」
「あたしもいつでも行けるよ」
「分かった。では、攻撃できるように構えておいてくれ。『相伝・狐火』」
そして、全員の準備が整ったことを確認したところで、俺は『相伝・狐火』を起動した。
(さて、どうだ?)
炎竜の周囲に出現した火の玉が着弾すると、衰弱の状態異常と魔法攻撃力低下、敏捷低下の弱体効果が付与される。
「これも行くぞ?」
さらに、そのまま【
「まあ上出来といったところか」
試した感じだと、炎竜は炎上と恐怖の状態異常に完全耐性を持っているようだからな。
物理攻撃力低下の効果は入らなかったが、【
「では、攻撃は俺がそちらに合わせよう。準備は……大丈夫そうだな」
「……うん」
「あたしも準備万端だよ」
「バフも掛け直しておいたぞ」
リッカは『心眼抜刀――明鏡止水』を、クオンは『チャージショット』をフルチャージ状態で構えているからな。
アッシュが掛けたバフ効果も乗っているので、このまま仕掛けることにした。
「分かった。では、行くぞ。『バレッジソリッド』!」
「――『心眼抜刀――明鏡止水』」
「行くよ。『チャージショット』ーー!」
そして、万全の状態になったところで、アタッカー組は一斉に攻撃を放った。
「グルォッ⁉」
その攻撃によって俺達は炎竜に大ダメージを与えることに成功する。
「お、半分切ったな。じゃあ俺は一旦離れるぞ」
「……私も」
この後は
その
「グルルォォーーッ!」
二人が離れると、炎竜は
それと同時に炎竜が放つ熱気もより強くなって、スリップダメージがさらに加速する。
「さて、ここからはこれの出番か」
ここで俺は【癒しのアロマ】を取り出して、そのままそれを起動して周囲のメンバーにリジェネ効果を付与する。
これまでは【豊穣の種】で回復していたが、ここからは攻撃が強化されて、樹はすぐに壊されてしまうだろうからな。
この先はそれを見越して温存しておいた【癒しのアロマ】を使ってリジェネ効果を付与することにする。
「アッシュ、サポートは頼んだぞ」
「任せておけ」
ここからは攻撃が強化される上に、スリップダメージも【下級HP回復ポーション】を使い続けてようやく相殺できるほどのダメージになるからな。
アッシュがいかにうまく回復を回すかがカギになるので、彼の腕の見せどころだった。
「これも使っておくか」
ここで俺は同じく温存しておいた【ブリザードマテリア】を中心付近に投げて、そこから火属性ダメージを軽減する領域を展開する。
「これでもうできることはないか」
俺にできるサポートはこれで以上になるからな。アタッカーとしての役割に戻ることにした。
「グルルォッ!」
「おわっ⁉」
と、ここでソールは炎竜の爪での一撃を盾で受けるが、爪が触れると同時に発生した爆発で吹き飛ばされそうになっていた。
(盾で受けても完全には防ぎ切れないのか。厄介だな)
ソールが崩れるとアッシュにターゲットが移る可能性があるからな。
アッシュが倒されると回復が追い付かなくなって詰むので、それだけは避ける必要があった。
「リッカ、いざというときは頼んだぞ」
「……任せて」
リッカであれば炎竜の攻撃も避けられるだろうからな。ソールが崩れたときには彼女に何とかしてもらうことにする。
「グルルァッ!」
と、ここで炎竜は大きく口を開くと、俺の方に向けて火球を放って来た。
「そんなものに当たるとでも……おわっ⁉」
俺はそれを横方向に跳んで避けるが、火球は着弾と同時に爆発を起こして、その爆風で軽く吹き飛ばされてしまった。
(やはり、全体的に攻撃が強化されているな)
発狂前であればこんなに爆発は強くなかったし、爪での攻撃に爆発も付いていなかったからな。
全体的に攻撃が強化されているようなので、これまでは特に問題のなかった攻撃も警戒する必要がありそうだった。
「とりあえず、攻撃していくか。『バレッジソリッド』」
それはさておき、アタッカーである俺がガンガン攻撃していかないと終わらないからな。
俺はクールタイムが経過して再使用が可能になった『バレッジソリッド』でHPを削っていく。
(今のところは順調だな)
発狂状態に移行してから攻撃は激しくなっているが、対策のおかげもあってか、順調にHPを削ることができていた。
(とは言え、何が切っ掛けで崩れるかは分からないし、できるだけ早く終わらせないとな)
発狂状態に移行したことで解禁されたスキルもあるかもしれないからな。
初見の攻撃は厳しいし、そうでなくとも普通に事故って終わる可能性もあるので、できるだけ早くHPを削り切ってしまいたかった。
「グルァッ!」
「……む?」
と、そんなことを思っていると、炎竜が口を開いて光を集約させるという、これまでに見たことがないモーションを見せていた。
「リッカ!」
初見の攻撃の分析はリッカに任せる方針だからな。とりあえず、彼女の見解を聞いてみることにする。
「……超火力のブレス系の可能性が高い」
「ふむ、同意見と言ったところか」
まあ何となくそんな感じはするからな。ブレス系の攻撃が来るという予想は俺と同意見らしい。
「ブレスのタイプは不明。たぶん直線か薙ぎ払い」
「どうすれば良い?」
「……ソールが防いで」
その上で出した結論はソールに任せるというものだった。
「任せとけ! 全員俺の後ろに隠れてくれ」
リッカの指示を受けたソールは前に出ると、盾を構えて攻撃が来るのを待つ。
「グルァッ!」
「ここだな。『フォートレスシールド』!」
そして、炎竜が攻撃を放つタイミングに合わせて、ソールは『フォートレスシールド』というスキルを発動させた。
このスキルは盾を起点にしてシールドを展開するスキルで、言ってしまえば『シールドガード』の上位互換のようなスキルだ。
だが、その性能は『シールドガード』とは比べ物にならないほどに優秀で、こちらはほとんどダメージを受けないほどにまでダメージを軽減することができる上に、ノックバック、状態異常、弱体効果なども完全に防ぐことができる。
ただ、『シールドガード』と同じく前方からの攻撃しか防ぐことができないので、そこは注意が必要だ。
もちろん、非常に強力なスキルなので、クールタイムは300秒とかなり長く設定されている。
なので、使いどころはしっかりと見極める必要があった。
「……む?」
と、俺達は炎竜からどんな攻撃が飛んで来るのかと思いながら構えていたが、炎竜から飛んで来たのは超低速の光球だった。
「何だ、あの炎を圧縮したような光球は?」
その光球は極限まで炎が圧縮された結果白く輝いているようで、どちらかと言えば火球と言った方が正しそうだが、分かれば良いのでそこは気にしないことにする。
「――ソールを追尾してる」
「ふむ……そのようだな」
その光球はソールを追尾しているようで、ゆっくりではあるが着実に彼に迫っていた。
「グルルァッ!」
だが、悠長に考えている暇はない。光球を放った炎竜はもう動いて来ているので、すぐにこちらも対応する必要があった。
「どうする?」
「――光球には触れずに避けながら戦って」
「分かった」
あの光球の特性はまだ分かっていないからな。下手に触るのは危険なので、ここはリッカの指示通りに動くことにした。
(とは言っても、移動を強制させられるのはかなり面倒だぞ?)
移動を強制させられると、『ヒーリングエリア』の効果領域内にいることを維持できないからな。この行動の制限はかなり厄介だった。
「リッカはアレについてどう思う?」
「……たぶん触れたら即死。打ち消しできるかは不明だけど、下手に触れると爆発しそう」
「まあそれには同意見だな」
あの光球には相当なエネルギーが込められていそうだからな。
下手に刺激すると大爆発を起こして全滅もあり得そうなので、それは俺も同意見だ。
「何とかできないのか?」
「……条件を満たせば消える可能性はあるけど、戦闘終了まで消えない可能性もある」
「つまり、現状どうにもならないということか」
条件を満たせば消えるとしても、その条件が分からないのであれば意味がないからな。現状ではどうしようもなさそうだった。
(戦況は悪化したが、何とかやるしかないか)
厄介な物が増えた上に、『フォートレスシールド』も無駄打ちに終わってしまったからな。
戦況は悪化してしまったが、文句を言っていても仕方がないので、このままそれに対応しつつ戦闘を続けることにした。
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