episode146 炎竜戦、開始
「グルォ? ……グルルォォーーン!」
俺達の存在に気が付いた炎竜は
「ソール、頼んだ」
「任せろ!」
だが、
戦闘が始まると同時に予定通りにソールが一人で炎竜に接近して、ターゲットを取りに向かう。
「グルォッ!」
すると、炎竜はソールに狙いを定めて、その爪を素早く振り下ろした。
「攻撃は少し待て。『エンチャントアイス』」
ここでアッシュが『エンチャントアイス』という氷属性を付与するスキルを使って、アタッカーである俺、リッカ、クオンにその効果を付与していく。
「もう攻撃して良いぞ」
「分かった。『バレッジソリッド』」
「分かったよ。『ターゲットアロー』!」
そして、アッシュによる『エンチャントアイス』の付与が済んだところで、俺とクオンはそれぞれで攻撃を仕掛けた。
「アッシュ、前衛のサポートは頼んだぞ」
「任せておけ。はっ!」
ここでアッシュは『ヒーリングエリア』という、範囲内の味方のHPを徐々に回復させる円形の領域をソールがいる場所に展開する。
(回復量は十分そうだな)
その回復量は本職のヒーラーとだけあって、スリップダメージを十分に相殺できるほどの回復量があった。
「前衛は大丈夫そうだな」
「だねー。リッカは正面から攻撃してるけど、あれで大丈夫なの?」
「ああ。後方に回ると尻尾での薙ぎ払いが面倒だし、『ヒーリングエリア』の領域内で戦った方が消耗が少ないからな。むしろ、この方が良い」
ソールが正面でターゲットを取っているので、リッカが後方に回って挟み込むことも可能だが、炎竜は尻尾での薙ぎ払いなど、後方への攻撃手段も持っているからな。
挟み込むことによって大きく優位に立てるわけでもないので、ソールと一緒に『ヒーリングエリア』内で戦う方がメリットがあると判断したまでだ。
「でも、ソールを狙った攻撃に巻き込まれる可能性もありそうだけど、そこはどうなの?」
「そこは立ち回りでどうにでもなる。できるだけ距離を取っているだろう?」
もちろん、クオンの言うように近くにいるとソールを狙った攻撃に巻き込まれてしまう可能性はある。
だが、二人は『ヒーリングエリア』の領域の端のあたりをそれぞれ反対側でうまくキープして、可能な限り距離を取っているからな。
できるだけそうならないようにしてあるし、被弾しそうになっても普通に避けることは可能なので、そこは特に問題はない。
「……みたいだね。まあシャムと二人のときはリッカが攻撃を捌いてたみたいだし、安心して良さそうかな」
「まあそういうことだな」
俺と二人で戦ったときはリッカが一人で前衛を務めていたわけだからな。
前衛組は任せておいても問題なさそうだった。
(さて、戦況も安定してきたし、そろそろこれを使うか)
ここで俺は【豊穣の種】を取り出して、それをそのまま足元に投げて起動する。
すると、種から飛び出した芽があっという間に成長して、その場に樹が生成された。
このアイテムは同時に複数展開することができないという特性上、安定して陣取れる場所で使う必要があったからな。
少し使うタイミングを見計らっていたのだ。
「うわっと⁉ 使うなら言ってよね!」
「む、悪い」
「まあそれは良いや。樹にダメージが入ってるけど、そこは大丈夫なの?」
「ああ。そのために複数持って来ているからな」
スリップダメージは炎竜による攻撃扱いのせいなのか、樹にもダメージが入っているが、それを見越して【豊穣の種】は複数持ち込んでいるからな。
破壊されても再展開できるし、破壊される前提で戦略を考えているので、そこは問題ない。
「とりあえず、準備は整ったし、このまま半分まで削るぞ」
「分かったよ」
こちらも回復量は十分で、スリップダメージを相殺できているからな。
戦況も安定していて必要な準備も整ったので、そろそろ削りにいくことにした。
「行くぞ。『バレッジソリッド』!」
「あたしもやるよ。『ホールドショット』ー!」
「――『剣閃――抜刀無双刃』」
今回はソールとアッシュがいるからな。そのおかげで俺達アタッカーは攻撃に集中できるので、三人でHPをガンガン削っていく。
(やはり、今回は妖術は必要なさそうだな)
妖術は状態異常や弱体効果を付与できるが、その分火力が低いからな。
その状態異常や弱体効果も炎竜が相手では成功率が低いので、今回は成功率が高い『相伝・狐火』と【
また、それらのデバフ系のものもHPが半分を切って発狂するまでは使うつもりはない。
と言うのも、このゲームには累積耐性と呼ばれるシステムがあり、状態異常が付与される度にその状態異常が効きにくくなるからだ。
まあ一定時間が経過すればその耐性も元に戻るらしいが、今回はそんな長期戦にはならないだろうからな。
HPを半分削るところまではデバフがなくとも問題なく行けるはずなので、このまま攻撃を続けていくことにする。
「グルルォォーー!」
と、ここで炎竜は右腕を振り上げると、自身の上方に複数の魔法陣を展開した。
「っ! 『物質圧縮』プラス『マテリアルウォール』!」
その魔法陣からは大量の炎弾が降り注ぐからな。
避けるのは難しいので、俺はすぐに『物質圧縮』で強化した『マテリアルウォール』で壁を展開して、クオンと一緒にそこに隠れる。
「ソール、そちらは任せたぞ」
流石にここから前衛のサポートはできないからな。そちらはソールに全て任せることにする。
「おう、任せとけ! 『シールドガード』!」
ここでソールは『シールドガード』という、盾を前に出してダメージを軽減するシールドを展開するスキルを使って、シールドを展開する。
「俺もやるか。『エレメントベール』!」
それを見たアッシュは素早くその後ろに隠れると、『エレメントベール』という一定時間、属性ダメージを軽減する領域を展開するスキルを使って炎弾に備えた。
「グルァッ!」
そして、炎竜が腕を振り下ろすと、魔法陣が起動して炎弾が降り注いだ。
(何とか耐えられそうだな)
攻撃が集中すると壁が壊されることもあるが、今回は問題なく耐えられそうだった。
(リッカは……大丈夫か?)
リッカは安定して避けることが可能なので、隠れたりせずに独立して避けるのだが、今回はほとんど動かずに止まって構えていた。
(いや、当たらない……? もしや、炎弾の軌道を完全に見切っているのか?)
彼女は攻撃の構えを取ったまま動いていないからな。見たところ、攻撃の軌道を完全に見切っていて、当たらないことを分かった上で構えているようだった。
「……『心眼抜刀――明鏡止水』」
そして、リッカは最後の炎弾が着弾したところで、構えておいた攻撃を叩き込んだ。
(あの炎弾の雨の中で五秒の溜め時間を確保したか。よくやるな)
炎弾が降っている間は他の攻撃はして来ないとは言え、五秒の溜め時間を確保するためには、あの数の弾の軌道を瞬時にかつ正確に見抜く必要があるからな。
まあ自分の周囲に降って来るものだけを見れば良いと言えばそうなのだが、そう簡単にできることではないので、流石と言う他なかった。
「お、耐えられたな。これなら安定しそうだな」
あっさりと耐え切ったところで、ソールは感心した様子でそう言いながら態勢を整え直す。
「む、普段はそうではないのか?」
この様子だと普段は安定していないようだからな。余裕もあるので、そのあたりのことを少し聞いてみることにする。
「庇える人数にも限りがあるからな。安定して耐えるのは無理だし、誰かが落ちることも多いな」
「そうだったか」
「まあだからこそ爪はできるだけ早く壊した方が良いんだけどな」
この攻撃は爪を壊せば使って来なくなるらしいからな。
スリップダメージが厄介なことももちろんだが、事故率の高い攻撃はできるだけ使われたくないので、爪をいかに素早く壊すかが炎竜戦のカギになっていることも分かる。
「そうか。とりあえず、これを再展開しないとな」
先程の攻撃で【豊穣の種】で展開した樹が破壊されてしまったからな。様子を見て樹は再展開しておくことにした。
「まあこの調子なら問題なさそうだし、このまま戦闘を続けるか」
この調子ならばHPが半分を切るまでは問題なさそうだからな。俺達はその後も炎竜との戦闘を順調に進めて行ったのだった。
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