episode145 炎竜戦へ

 それから三日が経過したが、俺は相変わらず魔法道具の開発と炎竜戦用の装備の作製を行っていた。


「ふむ……少しは準備も整って来たといったところか」


 装備や魔法道具もおおよそ整ったし、あれから炎竜戦も何度か行って戦闘にも慣れて来たからな。

 そろそろ炎竜の討伐を考えても良さそうだった。


「おーい、順調か?」

「……む、お前達か」


 と、そんなことを考えていると、呼んでおいたソール、アッシュ、クオンの三人が俺達の拠点を訪れて来ていた。


「やっほー。来たよ。調子はどう?」

「順調……と言いたいところだが、少し手詰まりになっていてな」

「手詰まり?」

「ああ。炎竜戦はどうしても二人では突破できそうになくてな。どうしようかと考えていたところだ」


 炎竜はリッカと二人で討伐する予定だったが、俺達だけではどうしようもなさそうだからな。

 三人には一緒に炎竜に挑んでもらおうと思って来てもらった。


「ふーん……意外だね、シャム達ならどんな相手も倒しちゃいそうなのにね」

「……別に俺達は全能というわけではではない」

「で、何に苦戦してるの?」

「スリップダメージと必中攻撃がどうにもならなさそうでな」


 問題なのはスリップダメージと必中攻撃の二つで、これらはどうやっても防ぎようがないからな。

 どうしてもそれらの攻撃で倒されてしまうので、俺とリッカの二人だけでは倒すことができていなかった。


「確かに、その二つは回避しようがないけど、ポーションで回復すれば何とかなったりしないの?」

「HPが半分を切るまではそれで何とかなるぞ。ただ、半分を切ってからは無理だな」

「って言うと?」

「爪を破壊せずにHPが半分を切ると発狂状態になることは知っているか?」


 必中攻撃である爆破睨みも即死はしないので、クオンが言うようにHPが半分を切るまでは【下級HP回復ポーション】でギリギリ何とかすることも可能だ。

 だが、爪を破壊せずにHPが半分を切ると発狂状態になって強化されるので、そこからがどうにもならなかった。


「いや、初めて聞いたけど……ソールとアッシュは聞いたことある?」

「いや、ないぞ」

「ないな」


 クオンはソールとアッシュに尋ねるが、二人も炎竜の発狂状態については知らないようだった。


(やはり、そのことは知らないか)


 まあ爪を破壊せずに倒そうと思ったことがないだろうからな。

 見たところ、挑戦しているプレイヤーもいないようで、情報も出回っていないので、彼らが知らないのも無理はなかった。


「そうか。発狂状態になるとスリップダメージと攻撃が強化されてな。俺達だけではどうにもならないので、お前達に協力してもらおうと思っている」

「なるほどな。……映像はあるか?」

「もちろんあるぞ。発狂状態の部分だけで良いな?」

「ああ。って言うか、そこだけで良いぞ」

「分かった」


 もちろん、戦闘時の映像は録ってあるからな。そう来ると思って、その部分を切り取った映像は用意してあるので、それを確認させる。


「……確かに強化されてるな」

「まあそういうことだ」

「とりあえず、詳しく聞かせてくれ」


 その映像を見終わったアッシュは眼鏡を正しながら現状を確認して来る。


「一番の問題は回復だな。見ての通りスリップダメージが重すぎて、【下級HP回復ポーション】では回復が追い付かない」


 炎竜戦における最大の問題は回復が全然追い付いていないことだ。

 特に発狂状態に入った後のスリップダメージは非常に重く、【下級HP回復ポーション】を使い続けてようやく打ち消せるかどうかといったレベルなので、これでは討伐は夢のまた夢だった。


「確かに、このダメージはえげつないね……対策は考えてるの?」

「とりあえず、火耐性の高い防具と装飾品は用意したぞ」


 火耐性を上げればスリップダメージは減らせるし、火属性攻撃がほとんどの炎竜が相手であれば全体的にダメージを抑えられるからな。

 今回のために【フレイムヘッジホッグの皮】で作った火耐性を重視した防具と【フレムルビー】で作った火耐性のある指輪は用意している。


 ちなみに、リッカも流石に火耐性を上げないと無理だと思ったのか、今回は火耐性を重視した装備で行くことにしているので、彼女の分も用意してある。


「クオンは火耐性装備はあるか?」

「いや、耐暑装備しかないよ」

「では、クオンの分も作って提供しよう」

「良いの?」

「こちらから協力を要請しているわけだからな。それぐらいは提供するぞ」


 依頼されたわけではなく、今回はこちらが協力をお願いしているわけだからな。

 今回の炎竜戦に必要な物なので、そのぐらいであれば提供するつもりだ。


「分かったよ」

「ソールとアッシュは必要ないな?」

「おう、いらないぞ」


 ソールとアッシュは『渡り鳥の集い』として炎竜の討伐は既に行っているからな。

 二人は対炎竜用の装備は既に整っているので、装備の提供は必要なさそうだった。


「ところで、魔法道具は作れたの?」

「まあいくつかな。見てみるか?」

「うん、見せて」

「分かった」


 これから一緒に戦うことを考えると、性能は見せておいた方が良いだろうからな。ここで一度作った魔法道具を全て見せておくことにした。

 俺は今まで作った魔法道具をテーブルの上に並べていく。


 あれから色々と試したが、新たに作れたのは【豊穣の種】、【癒しのアロマ】、【ブリザードマテリア】の三つだ。

 ちなみに、【癒しのアロマ】と【ブリザードマテリア】の性能は以下のようになっている。



━━━━━━━━━━


【癒しのアロマ】

品質:40

効果:癒しの香り

付与:なし

Cost:15/15

説明:癒し効果のある香りを拡散させる魔法道具。範囲内にいる味方にHPが徐々に回復する効果を付与する。


【癒しの香り】

 範囲内にいる味方に一定時間ごとにHPが回復する効果を付与する。



【ブリザードマテリア】

品質:40

効果:冷気領域

付与:なし

Cost:15/15

説明:氷属性の魔力が封じられた魔法道具。投げると火属性のダメージを軽減する領域が展開される。


【冷気領域】

 領域内にいる味方が受ける火属性ダメージを減少させる。


━━━━━━━━━━



「へー……色々あるね」

「まあ今回は確実に討伐する必要があるからな。魔法道具の開発はかなり本格的に行ったぞ」


 『猫又商会』には【炎竜の爪】の提供を約束した上で素材を提供してもらっているからな。

 特に【豊穣の種】はエルフ専用エリアで手に入る素材も必要だったが、『猫又商会』からの素材の提供のおかげで作ることができたからな。

 その上で討伐に失敗しては申し訳も立たないので、今回は本格的に魔法道具の開発を行わせてもらった。


「とりあえず、討伐に参加するということで良いか?」

「うん、良いよ」

「もちろん良いぞ」

「構わないぞ」


 粗方話したところで三人にどうするかを尋ねるか、聞かれるまでもないと言わんばかりに快諾してくれた。


「分かった。このまま準備が済んだら向かうということで良いか?」

「俺はそれで良いが、クオンはどうするんだ? 炎竜に挑んだことはないよな?」

「ふむ……少し練習した方が良いか?」


 初見で挑むのは厳しいだろうからな。今回は討伐を狙わずに、練習するというのも選択肢としてはありだった。


「いや、このまま本番で良いよ。みんなの時間を使わせるわけにもいかないからね」

「そうか。それで大丈夫だと良いが……」

「……ギミック対応不要のレンジだし、何とかなる」

「まあそれもそうか」


 少々不安ではあるが、リッカの言うように遠距離から攻撃するだけで、細かい動きは必要ないからな。

 難しい動きは要求されないし、このメンバーの中では俺と並んで動きが簡単ではあるので、何とかなりそうではあった。


「とりあえず、俺は装備の作製に取り掛かろう。クオンは俺達の炎竜戦の映像を見て、炎竜の動きを頭に入れておいてくれるか?」

「分かったよ」

「じゃあ俺とアッシュは戦略でも考えておくか」

「そうしてくれると助かる。それなら、リッカも加わったらどうだ?」

「……うん」


 話し合いであればリッカもいた方が良いだろうからな。ここはソール、アッシュ、リッカの三人で炎竜戦における戦略を考えてもらうことにした。


「では、俺は作業に取り掛かろう。決まった話は後で聞かせてくれ」

「おう、じゃあまた後でな」

「ああ」


 そして、その後はそれぞれで準備を進めて、必要な準備が整ったところで煉獄火山に出発したのだった。



  ◇  ◇  ◇



 それから準備を整えて煉獄火山に向かった俺達は、炎竜のいる第五層に向かっていた。


「……着いたな」


 道は分かっている上に今回は五人なので、今回はスムーズに第五層まで辿り着くことができていた。


「ここが第五層……本当に炎竜戦用の場所になってるね」

「映像を見て分からなかったか?」

「そう言われても、映像だと第五層がここだけかは分からなかったからね」

「む、それもそうか」


 まああの映像では炎竜との戦場のことしか分からないからな。言われてみれば、それも当然か。


「全員準備は良いか?」

「……うん」

「いつでも行けるよ」

「良いぞー」

「ああ」

「では、行くか」


 そして、全員の準備が整っていることを確認したところで、俺達は炎竜がいる足場に一斉に飛び降りた。

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