episode142 初の炎竜戦を終えて

 初の炎竜戦を終えて拠点に戻った俺達は、録画した映像を確認した上で話し合いを始めようとしていた。


「さて、炎竜戦に当たっての問題点だが、まずはスリップダメージについて考えるか」

「……うん」


 スリップダメージが思っていたよりも大きく、かなり戦況に影響を与えているからな。

 まずはそのあたりのことについて話すことにした。


「俺達には【星界のアミュレット】のリジェネ効果があるとは言え、回復量はそんなに多くはないので当てにはならない。それは分かるな?」

「……うん」


 【星界のアミュレット】にはHPが徐々に回復するリジェネ効果があるが、そこがメインの効果ではないからなのか、回復量はかなり少ないからな。

 スリップダメージを軽減することはできるが、とても頼りにできるようなレベルではない。


「となると、ここはやはり素直に火耐性を積むべきか?」

「……それが良い」


 あのスリップダメージは火耐性で軽減することができるらしいからな。

 炎竜の攻撃が火属性がメインなことを考えると、火耐性は上げておいて損はないので、素直に火耐性を積むのが良さそうだった。


「そうなると、問題はリッカの防具だが……どうする?」


 重量をゼロにするのはかなり手間が掛かるからな。

 今回のためだけに重量がゼロの火耐性装備を作るつもりはない以上、今の装備で行くか重量がある火耐性装備で行くかの二択になるので、本人にどうするのかを聞いてみる。


「……もう少し様子見る」

「分かった。一応いつでも作れるように素材は確保しておこう」


 炎竜とはまだ一回戦っただけで、そこを判断するのはまだ早いだろうからな。

 いつでも作れるように素材だけは確保しておいて、もう少し様子を見てから決めることにした。


「それはそうと、採掘した物を見せてくれるか?」


 その話はさておき、映像を見るとリッカは炎竜が投げて来た岩に対して隙を見て採掘を行っていたので、そのときに入手したアイテムを見せてもらうことにした。


「……うん」


 リッカが取り出したのは橙色に輝く石だった。

 ひとまず、手に取って詳しく確認してみる。


「熱っ⁉」


 だが、その石はかなりの高温で、驚いて落としそうになってしまった。


(とりあえず、テーブルの上に置くか)


 このままだとゆっくり見られないからな。一旦テーブルに置いてから詳細を確認することにした。

 俺は渡された石をテーブルの上に乗せて、その詳細を確認する。



━━━━━━━━━━


【煉獄溶融石】

 煉獄火山の溶岩によって溶けた物質が固まってできた石。

 火属性の魔力が込められていて、常に強い熱を放っている。

 非常に熱いので、取扱注意。


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「【煉獄溶融石】か……初めて聞くな」


 一応、市場などは見てアイテムの情報は集めているが、【煉獄溶融石】というアイテムは聞いたことがなかった。


「と言うか、よく採掘できると気付いたな。何故分かったんだ?」


 普通は採掘しようとは思わないだろうからな。何故、採掘できることに気が付いたのかを聞いてみる。


「……勘」

「勘かよ……」


 何か明確な根拠があるのかと思ったのだが、そんなことはなくただの勘だったらしい。


「……まあ他ゲーの大型モンスターでダウン中に虫網とかピッケルで採集できるのもいるし、それぐらいは思い付く」

「ふむ? そうなのか? ……まあその話は良いか」


 それで思い付くものなのかと言いたいところだが、そこは割とどうでも良いことなので、気にせずに話を続けることにする。


「その結果爆死したわけだが、まあ収穫はあったな」


 リッカは五回目の採掘をした際に岩が爆発して、吹き飛ばされて溶岩に落下したが、【煉獄溶融石】という新たなアイテムを発見することができたからな。

 収穫はあったので、そこは良しとすることにした。


「……今度から四回だけ採掘する?」

「採掘目的ならな」


 あの岩の周囲にいるとスリップダメージが発生するからな。

 攻略目的ならば攻撃してさっさと破壊してしまった方が良いので、それを行うのは採掘目的のときだけにすることにする。


「と言うか、この情報を売っても良いよな……」


 俺達が直接集める必要もないからな。情報を売るというのも選択肢としてはありだった。


「まあそれは後で考えるとして、試しにこれで何か作ってみるか?」


 入手方法が分かっていれば複数入手することは難しくないからな。これを使って試しに何か作ってみるのも良さそうだった。


「……後で良い」

「まあまだ話は済んでいないし、それが良いか」


 まだ話すことはあるからな。試すのはそれが済んでからにすることにした。


「とりあえず、炎竜戦は短期決戦を狙う方針で良いか?」

「……うん」


 元々被弾が少ないような戦闘スタイルとは言え、スリップダメージがあると普段以上に被弾を許容できないからな。

 事故率が高いことを考えると長期戦は避けたいので、短期決戦を挑むのが良さそうだった。


「ただ、問題は火力だな」


 だが、問題は短期決戦を実行するだけの火力があるかどうかだった。

 リッカがメイン火力ではあるが、【無じゅうおう】のアビリティや【リザルライトの刀】に付与されている『研ぎ澄ませる一撃』の、HPが100%以上のときに与えるダメージが増加する効果がスリップダメージで実質的に無効化されてしまっているからな。

 火力が少々削られてしまっているので、それも響いてきそうだった。


(まあそこは俺が補えば良いか)


 そうは言っても、それが全てではないからな。俺がその分の火力を出せば何とかなるし、今考えるようなことではないので、その話はまだ置いておくことにした。


「やはり、魔法道具の開発を進めるべきか……?」


 魔法道具の開発は後回しにしてきたが、開発に成功すればかなり役立つだろうからな。

 期間に余裕もあるので、魔法道具の開発を進めるのも良さそうだった。


「……クオンにも来てもらう?」

「それもありだろうが……問題はアドラが許可してくれるかどうかだな」


 他のプレイヤーと協力しても良いかどうかを聞いていなかったからな。

 許可が下りないと連れて行けないので、まずはそれを聞きに行く必要がありそうだった。


「とりあえず、【煉獄溶融石】の情報をネムカに伝えてみようと思うのだが、どう思う?」

「……あり」

「分かった。では、彼女の店に行くか」


 リッカも情報を提供することには賛成のようだからな。

 彼女の同意も得たところで、俺達は『猫又商会』の経営する店に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 外に向かった俺達は真っ直ぐと『猫又商会』の経営する店に向かっていた。


「……む? あれは……オーリエか?」


 と、俺は通りを歩いていると、同じく通りを歩いていたオーリエを発見した。


(ちょうど良い。協力して挑んでも良いかどうか聞いてみるか)


 彼女であれば答えてくれるだろうからな。ちょうど良い機会なので、そのあたりのことについて聞いてみることにした。


「少し良いか?」

「おやー? 誰かと思えばお二人でしたかー。どうかしましたー?」

「炎竜戦のことについて聞きたいことがあってな」

「何ですかー?」

「俺達以外の者と協力して挑んでも良いのか?」

「別に構いませんよー。これ自体は試練ではありませんのでー」


 どうやら、本番の試練ではないので、他のプレイヤーと協力して挑んでも問題ないらしい。


「そうか」

「他に聞きたいことはありますかー?」

「オーリエは何故ここにいるんだ? アドラ様の世話は良いのか?」


 彼女はアドラの世話役のはずだからな。基本的には竜都ドラガリアで過ごしているはずなので、そのあたりのことについて少し聞いてみることにする。


「はい。ユヅリハ様の様子を見に行っていたメンバーが帰って来ましたのでー」

「そうだったか」


 ユヅリハ達はもう戻ったようだからな。それに合わせて、様子を見に行っていたメンバーも戻っていたらしい。


「まあわたしはわたしでユヅリハ様の動きに対応できるように、始都セントラルにいるように言われたんですけどねー」

「それでこちらに来ていたのか」

「そういうことですねー。しばらくその任に就いていたアリカと交代ですー。まあミズガルさんの様子を見るという目的もありますけどねー」

「む? 彼と何か関係があるのか?」


 リデル=ミズガルは『変態紳士』の二つ名で呼ばれているトッププレイヤーだが、彼のことは何も知らないからな。

 ひとまず、彼との関係を聞いてみることにする。


「わたしが少し技を教えましたのでー」

「そうだったか」


 どうやら、ミルファやユヅハが俺にそうしたように、オーリエはリデル=ミズガルに対してスキルを伝授したらしい。


「それでは、わたしはしばらくこちらにいますので、また何かありましたらどうぞー」

「ああ。では、またな」


 リデル=ミズガルのことについて聞いておきたい気もするが、別にそこまで聞きたいわけでもないからな。

 今この場で話を聞くのは止めておくことにした。


 そして、オーリエと別れた俺達はそのまま『猫又商会』の経営する店に向かったのだった。

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