episode139 狐火
リッカと別れて外に出た俺はユヅハに連れられて東セントラル平原にある東セントラル森林に向かっていた。
「着いたわよ」
「ふむ、ここか。……何故ここに来たんだ?」
スキルを教えるだけであればここまで来る必要はないからな。ひとまず、ここに来た理由を聞いてみる。
「相手が弱すぎても教え甲斐がないでしょう? だから、始都セントラルから近いところで、敵が強めの場所に来ただけよ」
「そうだったか」
どうやら、相手が強い方が教えるのに都合が良いと思ってここに連れて来たらしい。
「別に敵が弱くても問題ないと思うが……」
ミルファに教えてもらったときは弱い相手で教えてもらったしな。
それで問題ないことは確認済みなので、わざわざここに来る必要はなかったように思える。
「あら、何か言ったかしら?」
「いや、何でもない」
機嫌を損ねると面倒なことになるからな。余計なことは言わずに、このまま話を進めることにした。
「それで、何を教えてくれるんだ?」
「私が教えるのは『妖炎・狐火』よ」
「ふむ、いかにもといった感じのスキルだな」
彼女のイメージにはぴったりのスキルだからな。伝授してもらうのにもちょうど良さそうなので、このまま教えてもらうことにした。
「まあ精霊種でも何でもないあなたには完全に再現することはできないでしょうけど、実戦で十分に使えるぐらいのものにはなるはずよ」
「そうか」
「とりあえず、一度見せてあげるわ」
そう言うと、ユヅハは右奥の方にあった茂みに視線を移す。
「む、そこに敵がいるのか?」
「ええ、そうよ。分からないかしら?」
「……悪いな。分からなくて」
「仕方がないわね。ほら、見せてあげるわ」
ここでユヅハはそう言って俺の肩を両手で掴んで目線の高さを合わせると、その両目を妖しく光らせた。
「っ⁉」
その目をしっかりと見ていた俺は一瞬目が眩んでしまう。
「これで分かるようになったはずよ。見てみなさい」
「どれどれ……」
俺は言われるがままに周囲を見渡してみると、あちこちに何かの輪郭が白く浮かび上がって見えることが確認できた。
「これは……モンスターの輪郭か?」
「ええ、そうよ。これなら隠れていても見えるでしょう?」
「そうだな」
確かに、これであれば簡単に敵を見付けられるし、距離も何となくで分かるからな。索敵には非常に便利そうだった。
「それじゃあそこにいるドリルラビットで試すわね」
「ああ、頼んだ」
「妖狐の呪炎に焼かれなさい。『妖炎・狐火』!」
ユヅハがスキルを起動すると、ドリルラビットの周囲に九つの人魂のような火の玉が現れる。
すると、それらの火の玉はぐるぐるとドリルラビットの周りを回って、そのまま回りながら接近し始めた。
「キュッ⁉」
そして、それらの火の玉が着弾すると、大量の状態異常とデバフ効果が付与された。
(これは……ユヅリハがストライクウルフに対して使っていたものと同じだな)
だが、そのスキルには見覚えがあった。
そう、初めてストライクウルフと出会ったときにユヅリハが使っていたスキルだ。
あのスキルの正体はこれまで謎のままだったが、どうやら、あのスキルは『妖炎・狐火』というものだったらしい。
「どう? 分かったかしら?」
伝授するスキルを見せ終わったユヅハはそう言いながら火球を飛ばして、先程のドリルラビットをしれっと片付ける。
「確認してみよう」
これで伝授されたスキルは習得できたはずだからな。早速そのスキルの詳細を確認してみる。
━━━━━━━━━━
【相伝・狐火】
対象に必中の火の玉を放って、状態異常と弱体効果を付与する。
付与される状態異常と弱体効果は効力値に応じて増加する。
完全には習得できていないので、消費MPが増えて、状態異常と弱体効果の付与の成功率が低下する。
習得率:0%
キャストタイム:5秒
クールタイム:300秒
━━━━━━━━━━
確認すると、スキルの名称が『相伝・狐火』となっていて、ユヅハが先程使ったものとは違うようだった。
(完全に再現できないと言っていたのはこのことか?)
彼女はスキルを見せる前にそんなことを言っていたからな。
どうやら、全く同じスキルを習得することはできないらしい。
「試しにそこにいるドリルラビット相手に使ってみなさい」
「分かった」
教えてもらって使えるようになったわけだからな。早速、試し撃ちをしてみることにした。
「悪いが、的になってもらうぞ。『相伝・狐火』」
スキルを起動すると、ターゲットとなったドリルラビットの回りに三つの人魂のような火の玉が出現する。
(火の玉の数が少ないな)
ユヅリハやユヅハが使ったときには火の玉が九つ出現していたが、俺が使うものでは三つしか出現していなかった。
やはり、彼女達が使うものを完全に再現することはできないらしい。
「はっ!」
「キュッ⁉」
そして、それらの火の玉が着弾すると、炎上、恐怖、衰弱の状態異常と、物理攻撃力低下、魔法攻撃力低下、敏捷低下のデバフ効果が付与された。
「ふむ、弱体に特化しているだけあって、かなり強いな」
一度にこれだけの効果を付与できるスキルは他にはないからな。必中なのもあって、かなり有用なスキルだった。
ちなみに、衰弱の状態異常の効果は一定時間ごとにHPとMPが減少するという、毒などの上位互換のものになっている。
「上出来ね」
ユヅハはそう言いながら火球を放って、先程と同じようにドリルラビットを片付ける。
「私とユヅリハ様が使うオリジナルには程遠いけど、あなたが使う分には問題なさそうね」
「そんなに違うのか?」
「あら、私との格の違いを知りたいのかしら? まあ今日は気分が良いから、特別に見せてあげるわ」
そのつもりはなかったのだが、どうやら、その性能を見せてくれるらしい。
折角の機会なので、オリジナルとなる『妖炎・狐火』の性能を確認してみる。
━━━━━━━━━━
【妖炎・狐火】
妖狐の放つ呪炎が災いを
対象に必中の火の玉を放って、耐性を無視して状態異常と弱体効果を付与する(完全耐性には無効)。
付与される状態異常と弱体効果は効力値に応じて増加する。
クールタイム:60秒
━━━━━━━━━━
「ふむ……確かにオリジナルには程遠いようだな」
キャストタイムがなく、クールタイムも短い上に耐性を貫通する効果まであるからな。
そもそもの効力値が違うというのもあるが、あれだけ大量の効果を耐性を無視して付与できるのは脅威的と言える。
まあ流石に完全耐性持ちには無効なようだが、それでも十分すぎる性能だ。
「まああなたのものでも炎竜に十分通用するはずよ。だから、そこは安心しなさい」
「そうか」
『相伝・狐火』は火の玉を放つ攻撃なので、一見すると火属性の攻撃にも見えるが、あくまでも弱体効果と状態異常を付与するスキルだからな。
炎竜は非常に高い火耐性があって、火属性の攻撃がほとんど効かないらしいが、このスキルには関係ない。
まあ炎上のあたりは完全耐性を持っていそうなので効かないだろうが、それ以外のものは効く可能性があるので、十分に使えそうだった。
「炎竜の爪を壊さずに戦うのは苦労するでしょうけど、わざわざ教えに来てあげたのだから、ちゃんと討伐は成功させなさい」
「ああ。……爪を壊さずに戦うのは苦労する?」
「ついでにこのまま今のあなたの実力も見てあげるわ。とりあえず、このまま森の奥に向かうわよ」
そう言うと、ユヅハは地上から五十センチメートルほど浮いた状態で森の奥の方に向けて移動し始める。
「いや、その前に聞きたいことが……まあ良いか」
気になることはあるが、この様子だと聞いてくれそうにないからな。
とりあえず、このまま彼女に付いて行くことにした。
そして、その後は森の奥の方で戦闘を行って、ユヅハに今の俺の実力を見せたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます