episode138 古代の刀

 二度目の煉獄火山の探索を終えた俺達は、始都セントラルに戻って広場のベンチで休んでいた。


「とりあえず、炎竜がいる第五層までの道は分かったな」

「……うん」


 今回の探索も色々とあったが、とりあえず、一番の目的であった第五層までの道は発見することができた。


「【古代の刀】の方はどうだ?」

「……まだ」


 また、【古代の刀】は耐久度の三分の一近くを消費するほど使ったが、まだ次の段階に加工できる状態にはなっていなかった。


「風化した武器もタイニーフェニックスのテイムも時間が掛かりそうだな……」


 風化した武器は特定の相手を必要とする上に魔力を溜めるのに時間が掛かり、タイニーフェニックスのテイムは想定以上に厄介なことが分かったからな。

 少し今後のことを考える必要がありそうだった。


「……他に風化した武器作らないの?」

「他に作れそうなのは氷属性の物ぐらいだし、時間も掛かるからな。炎竜戦用に作っても良かったが、今回は止めておいたぞ」


 炎竜戦で氷属性は有効だろうが、作製に手間が掛かるからな。

 簡単に作れるのであれば作っていたが、時間があるかも分からないので、今回は作らなかった。


「……そう。特殊な武器になりそうな物は試さないの?」

「特殊な武器になりそうな物となると【ひずみの欠片かけら】は候補だったが、魔力を込める作業が難しそうだからな。他に候補もなかったし、今するようなことでもないので止めておいたぞ」


 【ひずみの欠片かけら】で作ることは考えたが、魔力を込める作業で対象になるモンスターは『ひずみの』と名を冠するモンスターになるだろうからな。

 そのモンスターの出現率の低さを考えると、作製は困難だと思われるので、作るのは止めておいたのだ。


「……タイニーフェニックス」


 と、ここでそれを聞いたリッカはただ一言そう言ってくる。


「む?」

「タイニーフェニックスがひずみ化すれば行ける」

「ふむ、確かにそうだが……タイニーフェニックスがそうなることはあるのか?」


 タイニーフェニックスはアイテムをドロップしないことを考えると、ひずみ化しても【ひずみの欠片かけら】はドロップしないだろうからな。

 そんなモンスターがひずみ化するかどうかと言えば、少々怪しいところだった。


「……さあ。でも、普通に上げることもできるし、高品質なのを作っておいても良い」

「……長い時間を掛けて作るということか」


 実を言うと、いつか高品質な物を作ることを想定して【風化した刀】は集めていたので、品質100の物を作ることは可能だ。

 なので、長い時間を掛けて作ることを前提にして作るというのは選択肢としてはありだった。


「……む?」


 と、そんな話をしていたところで、前方の少し上の方からこちらを見ているかのような何者かの気配を感じた。


「……ユヅハか?」

「あら、よく分かったわね」


 俺に言い当てられたユヅハはそう言って姿を現すと、すっと降下して俺達の前に着地する。


「何となくそんな気はしたからな。と言うか、普通に街に入って来ているが、大丈夫なのか?」


 彼女達は基本的には敵対視されているようだからな。

 表立って争うようなことはしていないが、警戒されていることは確かなので、そこは大丈夫なのかどうか確認を取る。


「警戒して監視を寄越すことがあるぐらいだし、街に入るぐらいなら別に大丈夫よ」

「そうか」


 まあ周囲の者も驚きはしながらも、排斥しようとするような動きは見られないからな。

 特に問題はなさそうなので、このまま話を続けることにした。


「ところで、こんなところまで何をしに来たんだ?」

「あなたにスキルを教えるためよ」


 どうやら、スキルを教えるためにわざわざここまで来てくれたらしい。


「そうだったか。わざわざ悪いな、こんなところまで」

「本当は私達の屋敷にまで辿り着けたら教えてあげる予定だったけど、アドラ様の申し出を無下にするわけにはいかないわ。アドラ様に感謝することね」


(そう言えば、ユヅリハに伝えておくと言っていたな)


 アドラはユヅリハに俺に妖術のことについて教えるよう伝えておくと言っていたからな。

 それを受けて、ユヅハがここまで教えに来てくれたらしい。


「ユヅリハ様はどうしたんだ?」

「ユヅリハ様は準備で忙しいから来れないわ。だけど、安心しなさい。今回教えるスキルは私でも教えられるわ」

「そうか」


 まあスキルを教えに来たわけだからな。その目的は果たせるようにしているのは当然か。


「リッカ、どうする? 別れて行動するか?」

「……【ひずみの欠片かけら】を使った【古代の刀】は渡しておいて」

「分かった。ユヅハ、悪いが少し待ってくれないか?」

「あら、わざわざ来てあげたのに、待たせるつもりなのかしら?」

「……それは悪いと思っている。だが、必要なことなので、許してくれないか?」


 次の探索でひずみ化したモンスターと出会う可能性もあるからな。

 作ると決めたのであればできるだけ早く作っておきたいので、そこは許可してもらいたいところだった。


「仕方がないわね。中央の広場で待っておくから、できるだけ急ぎなさい」

「ああ、分かっている。リッカはどうする?」

「……ユヅハと待つ」

「分かった。では、また後で会おう」


 そして、二人と別れた俺は必要な物の作製のために拠点に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 拠点で目的の物を作った俺は二人が待つ中央広場に向かっていた。


「待たせたな」


 中央広場に向かうと、二人は噴水の前のベンチに座って俺のことを待っていた。


「思っていたよりも早かったわね。褒めてあげるわ」

「そうか。……とりあえず、リッカは起き上がったらどうだ?」


 それはそうと、リッカはユヅハの尻尾を枕にするようにして横たわっていて、気持ち良さそうにしていた。

 このままでは話をしづらいので、ひとまず、起き上がってもらうことにする。


「……シャムも触りたいの?」

「それは……否定しないが、そういうわけではない」


 触り心地はとても良さそうで、触ってみたい気持ちはあるが、そのために引き剥がすわけではないからな。つべこべ言わずに離れてもらうことにする。


「とりあえず、受け取ってくれ」


 ここで俺はリッカに先程作った【古代の刀】を手渡す。

 ちなみに、今回作った【古代の刀】の性能は以下のようになっている。



━━━━━━━━━━


【古代の刀】

物攻:50

耐久:3000

重量:3

空S:5

品質:100

効果:なし

付与:なし

Cost:100/100

説明:風化した刀をひずみの欠片かけらで補強して、武器として使える状態にした刀。丈夫ではあるが、錆びているので攻撃力はほとんどない。


━━━━━━━━━━



「……空きスロとコスト上限が全然違う」


 名称は同じでその性能も似たようなものだが、素材を変えただけで空きスロットとコスト上限が大幅に上がっていた。

 特にコスト上限はこれまでに見たことがないほどに高く、もはや現状ではそのコストを使い切ることができないほどだった。


「恐らくだが、その二つのパラメーターは完成後のものが反映されているのではないか?」

「……それはあり得る」


 その点については色々と考えてみたが、俺が出した結論は完成後のものが反映されるというものだった。

 この段階の物にわざわざ素材ごとにパラメーターを設定する必要性もないからな。その可能性は十分に考えられた。


「必要な物は渡せたようね。それじゃあ行きましょうか」

「ああ」


 そして、【古代の刀】を渡した俺はリッカと別れて、ユヅハに連れられて外に向かったのだった。

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