episode137 タイニーフェニックスのテイム

 煉獄火山に向かった俺とリッカは最短ルートで下の階層へと向かって、前回辿り着いた第三層まで来ていた。


「さて、ここに来た目的は三つ。一つは炎竜のいる第五層へのルートを見付けること。もう一つはタイニーフェニックスのテイム。そして、最後の一つは【古代の刀】に魔力を蓄積させることだ」


 今回からは従来からの目的である第五層へのルートを探すことに加えて、二つの目的が追加される。

 なので、それに合わせて探索の方法を考える必要があった。


「優先順位としては第五層へのルート、テイム、【古代の刀】の順になるが、そこに異論はないか?」

「……うん」


 最優先になるのは期限のある炎竜の討伐、次点で素材の確保ができるテイム、最後に急ぎではない【古代の刀】になるが、そこはリッカも同意見のようで、すんなりとそれを受け入れてくれた。


「とは言え、それはあくまでも目安だ。そこまで急ぐ必要はないし、状況を見て動くぞ」


 そうは言っても、そこまで急いで炎竜までのルートを探す必要はないからな。

 それが絶対ではないので、それを指針にして動くことにする。


「とりあえず、ルートを探しつつ、遭遇したタイニーフェニックスにはテイムを試みる。この方針で行こうと思うが、それで良いか?」

「……うん」

「では、そこの通路から探索を始めるか」


 ちょうど近くに未探索の通路があったので、まずはそこから探索を始めることにした。


「さて、ここは――」

「ピイイィィーーッ!」

「おわっ⁉」


 そして、そのままその通路に入ろうとしたが、通路の前にまで来たところで、通路にいたタイニーフェニックスが俺に突撃して来た。


「っと、危ないな……」


 だが、とっに後方に跳ぶことで、何とかそれを回避することに成功していた。


「……ちょうど良い。早速テイムをしてみるか」


 探す手間が省けてちょうど良いからな。ここでテイムを試してみることにした。


「まずは懐かせる必要があるが、とりあえず、エサを与えるか」


 テイムをするには『テイム』というスキルを使う必要があるが、その成功率は懐かせることで上げることができるからな。

 テイムを始める前にまずは懐かせることにした。


 その懐かせる方法はいくつかあるが、【テイム】のアビリティのレベルが低い今はエサを与える以外の方法はないからな。

 他に選択肢もないので、今回はエサを与えるという方法で懐かせることにした。


「持って来た物で懐いてくれると良いが……まあそれは試してみるしかないか」


 モンスターごとに適切なエサは決まっているようだが、調べてもタイニーフェニックスのエサについての情報は得られなかったからな。

 鳥が好みそうなアイテムは何種類か持って来たので、一つずつ試してみることにした。


「おい、エサだぞ」


 俺は【癒し草の種】を取り出して、それをタイニーフェニックスに向けて差し出す。


「ピィッ!」

「ぐふぉっ⁉」


 しかし、それではお気に召さなかったらしく、それには目もくれずに俺の腹に突進して来た。


「ならば、これはどうだ?」


 持って来たアイテムは他にもあるからな。諦めるには早いので、他のアイテムも試すことにした。

 そのまま俺は他のアイテムを使って懐かせようと試していく。


「……さて、色々と試したは良いが……」

「……全部ハズレ」


 それからテイム用に持って来たアイテムは全て試したが、その中に適切なアイテムはなかったらしく、結局懐かせることはできなかった。


「となると、このままテイムするしかないか」


 成功率は低いが、成功率を上げることができない以上はどうしようもないからな。

 仕方がないので、このままテイムに挑戦することにした。


「ピィッ!」

「よっと……そこだな、『テイム』!」


 突進攻撃を躱した俺はそのままタイニーフェニックスに向けて『テイム』を発動する。


「む、失敗か」


 しかし、成功率が低いので、案の定失敗してしまった。


「リッカ、倒して良いぞ」

「……うん」


 『テイム』の判定は同じ個体に対して一回しか行えないからな。

 もうこの個体に対しては『テイム』を使えないので、さっさと倒してしまうことにした。


「ふっ……はっ……」

「ピィッ……」


 俺が許可を出したところで、リッカが【古代の刀】を使って攻撃して、タイニーフェニックスを片付ける。


(意外と早く倒せるな)


 【古代の刀】は初期装備レベルに攻撃力が低いが、素の筋力値が高いせいか、意外と簡単に倒せていた。


「刀の方はどうだ?」

「……変化なし」


 ここで【古代の刀】の状態を確認してみるが、この攻撃回数では特に変化は見られなかった。


「そのようだな。ところで、『剣閃――抜刀無双刃』の方はどうなんだ?」

「……見る?」

「そうするか」


 それはそうと、リッカが教えてもらった『剣閃――抜刀無双刃』のことについてまだ聞いていなかったからな。

 ここでその詳細を確認しておくことにした。


「どれどれ……」


 俺はリッカが表示した画面を見て、『剣閃――抜刀無双刃』の詳細を確認する。



━━━━━━━━━━


【剣閃――抜刀無双刃】

 剣閃によって斬撃のリーチを伸ばした抜刀攻撃による連続攻撃。

 完全には習得できていないので、キャストタイムと消費MPが増加して、威力が低下する。

 習得率:0%

 キャストタイム:4秒

 クールタイム:60秒


━━━━━━━━━━



「ふむ……俺のものとは違って使いやすそうだな」

「……うん」


 俺が教えてもらった『マテリアルジャッジメント』は必殺技といった感じで、クールタイムもキャストタイムも長いからな。

 こちらはクールタイムが一分だし、キャストタイムも完全習得すれば一秒になるので、それなりに使いやすそうだった。


「……シャムは習得率上げるために使ったら?」

「それもそうだな」


 『マテリアルジャッジメント』はクールタイムが六時間もある上に、ある程度の広さがある場所でないと使えないからな。

 習得率を上げるためには何度も使わないといけないので、この場で一度使ってしまうことにした。


「さて、ターゲットは……そこのフレイムヘッジホッグで良いか」


 辺りを見回してみると、近くにフレイムヘッジホッグがいたので、とりあえず、そこに撃ち込んでみることにした。

 俺は『マテリアルジャッジメント』を起動して、上空に魔法陣を展開する。


「消し飛べ。『マテリアルジャッジメント』!」


 そして、そのままフレイムヘッジホッグ達に向けて『マテリアルジャッジメント』で形成した巨大な剣を落とした。


「ギエーーーッ⁉」

「ふむ、一撃か」


 その攻撃はかなりの火力で、直撃したフレイムヘッジホッグ達は一撃で倒せていた。


「ただ、消費する【クラフトマテリアル】の数は148個か……重いな」


 それは良いのだが、完全習得していないことによって消費量が増えているとは言え、【クラフトマテリアル】を148個も消費するので、かなり重いスキルだった。


「と言うか、148個とは中途半端だな……」

「……99の一・五倍」

「まあそう考えるのが妥当か」


 元々の消費量が99個で、完全習得していないことによって消費量が一・五倍になっているとすると、計算がちょうど合うからな。そう考えるのが妥当そうだった。


「これで習得率は10%か……」


 また、ここで『マテリアルジャッジメント』の習得率を確認してみると、10%になっていた。

 なので、完全習得までには後九回は使う必要がありそうだった。


「まあその話は良い。そろそろ行くか」

「……うん」

「では、先程の通路に――」

「ピイイィィーーッ!」

「おわっ⁉ またお前か!」


 一段落したところで通路の調査に向かおうとしたが、そこであれこれしている内に復活していたタイニーフェニックスが再び俺に向けて突進して来た。


「……まあ良い。もう一度『テイム』を試してみるか」


 ちょうど良い機会だからな。再度テイムに挑戦してみることにした。

 俺はそのタイニーフェニックスに対して『テイム』を発動して、再度テイムを試みる。


「……む? 判定が無効……?」


 しかし、そのタイニーフェニックスに対しては『テイム』の判定自体が行われなかった。


(蘇生されたので同個体扱いになっているのか)


 どうやら、タイニーフェニックスの復活は新しい個体がスポーンしているわけではなく、同じ個体が自己蘇生されているようで、復活したタイニーフェニックスはテイムできないようだった。

 タイニーフェニックスのテイムはテイムに失敗したら倒して、復活したタイニーフェニックスに対して再度テイムを試みるというやり方でテイムする予定だったが、残念ながらその方法は使えないらしい。


「……こうなると、タイニーフェニックスのテイムはかなり面倒ではないか?」


 タイニーフェニックスのテイムを行うためには別の個体を探さなければならないからな。

 それだけ聞くと他のモンスターと同じだと思うかもしれないが、タイニーフェニックスは復活するせいなのか、個体数自体は少ないので、テイムにはかなり手間が掛かりそうだった。


「……まあ今は深くは考えないでおくか」


 今すぐに考える必要はなさそうだからな。とりあえず、このまま探索を続けることにした。


「では、今度こそ行くか」

「……うん」


 そして、改めて一段落したところで、俺達は探索を再開したのだった。

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