episode112 歪みの狼との集団戦
それから移動しながら今回の戦略を聞いた俺達は、
「場所は近いし、そろそろだと思うが……」
俺はそんなことを呟きながら【望遠鏡】を使って周囲を確認して、
「悪いね。任せることになって」
「【望遠鏡】持ちに任せるのは妥当な判断だ。気にしないでくれ」
【望遠鏡】を持っているのは俺だけだったからな。
俺が捜索を担当することになるのは至極順当なことではあるので、そこは別に気にしていない。
「と言うか、この人数で大丈夫か?」
四パーティ分の二十四人プラス俺とリッカの計二十六人だからな。
普段はこの人数を扱うことはないので、本当に大丈夫なのかと確認を取る。
「一応、百対百のPvPなんかがあるMMOでギルマスをやったことはあるよ。もちろん、VRではないけどね」
「そうか」
どうやら、他のゲームで大人数のプレイヤーを同時に動かすゲームをやったことがあるので、少しは自信があるらしい。
まあこのゲームは三人称視点で見ながら指示を出すゲームとは違うので、それがそのまま直結するということはないだろうが、経験を活かすことはできるだろうからな。
それなりに指揮能力はあると思われるので、少しは安心できそうだった。
「……いたな」
と、そんな話をしながら
「みんな、聞いた? 早速、準備してくれる?」
その報告を聞いたヨルムはすぐに全員に向けて指示を飛ばす。
「戦闘中のプレイヤーはいる?」
「いや、いないな」
戦闘中のプレイヤーがいると、計画通りに動くことができなくなる可能性があるので待つ必要があったが、
この様子ならこのまま予定通りに戦闘に移れそうだった。
「分かったよ。それじゃあまずは予定通りにタンクがタゲ取りして、それが済んだら他のメンバーも行こうか」
タンクだけが先に行けば確実にターゲットを取れるし、開幕の
タンク役が受ければほぼ無害なので、ターゲットを取ることも兼ねて、予定通りにタンク役のメンバーが前に出ることとなった。
「遠距離組と補助組はタンクのタゲ取りが済んだら動いて。攻撃はヘイトを買いすぎない程度にね。前衛アタッカー組は指示があるまで待機。それじゃあタンク組は動いて」
「分かった」
「任せろ!」
そして、ヨルムが各所に指示を出したところで、
「掛かって来い! 『鉄壁』!」
まずは先程の指示通りにタンク組のメンバーが
「……タゲは取れたね。それじゃあ遠距離組は反対側に回って、近接アタッカー組は近くで待機。補助組はそれぞれ別れて配置に着いて。それじゃあ行こうか」
「分かった」
そして、予定通りにタンクのメンバーがターゲットを取ったことを確認したところで、それぞれで別れて配置に着いた。
「とりあえず、遠距離組はタゲを取らない程度に仕掛けて」
「よっしゃ、やるか。『アイシクルショット』!」
「俺もやるぞ! 『フレアバースト』!」
配置に着いたことを確認したヨルムが指示を飛ばすと、遠距離組は一斉に動き始める。
「俺もやるか。『衰呪・消失』」
俺も動いて良さそうだからな。初手はデバフ狙いで『衰呪・消失』を放つ。
(今回はデバフが入ったな)
前回戦ったときにはデバフが入らなかったが、今回は確率判定に成功したのか、
「あれ? 誰かデバフ入れた?」
「俺が入れたぞ。……余計なことはしない方が良かったか?」
そのあたりのことは聞いていないし、特に何も言っていなかったからな。
まあ俺がデバフ効果のあるスキルを使えることを知らなかっただけだろうが、問題があっても困るので、今更ではあるが確認しておく。
「いや、今回は別に構わないよ。他に何かできることはある?」
「暗闇付与と鈍重付与、筋力と魔力の低下を反射で付与するスキルはあるぞ」
他には暗闇を付与する『封光・暗転』、敏捷が低下する状態異常である鈍重を付与する『加重・鈍刻』、スケルトンソーサラー戦では時間を計る目的でしか使わなかったが、攻撃してきた対象の筋力と魔力を確率で低下させる『護術・反呪』がある。
「それなら、暗闇付与と鈍重付与のスキルは適宜使ってくれる?」
「分かった。『加重・鈍刻』」
オーラを
俺は鈍重の付与を狙って、『加重・鈍刻』で魔法弾を飛ばす。
(今度は入らなかったか)
しかし、今度は確率判定に失敗したようで、鈍重は付与されていなかった。
「タンクが代わったら反射スキルを入れて」
「分かった。少し近付くぞ」
ある程度近付かないと付与できないからな。俺はそのまま付与ができる位置にまで接近する。
「……ここだな。『護術・反呪』」
そして、タンクが代わったタイミングに合わせてバフを付与した。
「……グルッ?」
「……あ」
だが、ここでその様子に気が付いた
(これは……マズいか?)
もはや嫌な予感しかしないし、この後の展開も予想できるが、何とかなる可能性はゼロではないので、諦めずに動いてみることにする。
「ふむ、俺は大したことはしていないし、見逃してくれても――」
「ガルッ!」
「だよな!」
しかし、案の定こちらにターゲットが向いて、襲い掛かって来た。
「リッカ!」
だが、打つ手がないわけではない。すぐ近くには近接アタッカー組が待機しているので、そこにはリッカがいる。
なので、ここは彼女に対応を任せることにした。
俺は素早くバックステップで距離を取って、『物質圧縮』で強化した『マテリアルバスター』を使って大剣を構える。
「――任せて」
それを受けて、リッカは『スワップステップ』という一定距離内の指定した位置に素早く移動する歩法スキルを使って、俺の前に移動して構える。
「――そこ」
そして、抜刀攻撃で
「助かる。はっ!」
俺はその隙を突いて大剣を振り抜いて、そのままタンク役のメンバーがいる方向に駆け抜ける。
「――『抜刀神速』」
それに続く形でリッカも攻撃しながらタンク役のメンバーがいる方向に抜けて行った。
「頼んだぞ」
そして、タンク役のメンバーにターゲットが移ったことを確認したところで、そのまま俺達は元の配置に戻った。
「悪いな、勝手にリッカを動かして」
許可もなく勝手にリッカを動かしてしまったからな。忘れずに一言謝罪を入れておく。
「いや、別に構わないよ。ヘイト管理ができていなかったこちらに非があるからね」
「そう言ってくれると助かる」
「って言うか、遠距離アタッカーって言ってなかった?」
ここで先程の『マテリアルバスター』での一撃を見ていたヨルムはそんなことを聞いてくる。
「いや、近接攻撃の手段も持っているというだけで、接近戦は基本的にできないぞ?」
近接攻撃の手段は『マテリアルバスター』ぐらいしかないからな。
接近戦ができるほどのスペックもPSもないので、遠距離攻撃がメインであることに変わりはない。
「それなら良いや。とりあえず、タゲ取りは大丈夫そうだから、そろそろ近接アタッカー組も仕掛けてくれる?」
「やっと出番か。任せとけ!」
「こっちもやるか」
ここでヨルムが指示を飛ばすと、近接アタッカー組が一斉に動き始めた。
「俺もやるか。『マテリアルブレード』」
俺も態勢は立て直したからな。適当に攻撃して援護する。
「アオォーーーン!」
と、ここで
(問題はここからだな)
オーラを
「……来たね。みんな、一気に仕掛けてくれる?」
「つまり、予定通りということか」
オーラを剥がすことを最優先に動くとのことだったからな。
戦闘の方は順調に進んでいるので、どうやら、このまま予定通りに動くつもりらしい。
「任せておけ。『バレッジブレード』」
火力には自信があるからな。俺は勢い良く振り上げた手をばっと前に突き出して、【クラフトマテリアル】で形成された刃を射出する。
「喰らえ! 『溜め斬り』っ!」
「『パワースラッシュ』!」
それを皮切りに他のプレイヤーも一斉に
(オーラの削れる速度が早いな)
俺が最初に挑んだときは三人だったので中々削れなかったが、今回は大人数なのでオーラの削れる速度が明らかに早かった。
「グルッ……アオォーーーン!」
と、ここで
「何だ⁉」
「っ⁉」
その
「ガルルォォーーン!」
「何っ⁉」
「ぐわっ……⁉」
そして、そのままの流れで放ってきた黒い波動に直撃してしまった。
(タンクも含めて即死か……)
しかも、その火力はとんでもなく高く、タンクも含めて一撃で倒されてしまっていた。
……拘束の付与を回避したリッカを除いて。
「……先に戻ってて。少し一人で相手してる」
その残ったリッカは構えを取ると、そのまま一人で
(このまま戻るしかないか)
もう俺にできることはないからな。そのまま俺は他のメンバー達と一緒に拠点に戻ったのだった。
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