episode111 対歪みの狼共同戦線の代表者

 イベントエリアに向かったところで、俺達は当たりを付けていたひずみの狼の討伐を計画している一団の元に向かっていた。


「……ここか」


 指定された集合場所はウェスティアにある広場で、そこには参加者だと思われる人物が集まっていた。


「とりあえず、代表者を探してみるか」


 代表者と話をする必要があるからな。まずは代表者を探してみることにした。


(種族は人間、紺色の短髪をした十八歳前後の男で、名前はヨルム……いたな)


 探してみると、この集まりの代表者だと思われる人物はすぐに見付かった。


「少し良いか?」


 代表者は見付かったので、早速その人物に話し掛けてみる。


「……ん? あ、もしかして、参加希望者?」


 話し掛けると、彼はすぐにこちらを振り向いて、ひずみの狼の討伐への参加希望者かどうかを聞いてきた。


「ああ。俺はシャム。こちらはリッカだ。参加することは掲示板の方で伝えていたはずなので、確認してくれないか?」


 参加を希望することは掲示板の方で既に伝えてあるからな。

 とりあえず、それを確認してもらってから話を進めることにする。


「ええっと……」


 ヨルムはこちらの情報を確認しようとしているのか、そう言いながらその赤い瞳をきょろきょろとさせて、俺とリッカに交互に視線を移す。


「……ああ、『永夜の初雪』の二人だね。もちろん、歓迎するよ」


 そして、メモでも見て確認するのかと思いきや、俺達のことは覚えていたらしく、すんなりと迎え入れてくれた。


(そう言えば、俺達は一応ギルドか)


 利便性のためだけにギルドを作成しただけで、ギルドらしいことは全くしていないからな。

 つい忘れそうになるが、外部からはこちらの事情は分からないので、普通のギルドのように見えるらしい。


「改めて自己紹介しておこうかな。僕はヨルム。『ワールウィンドウイング』のリーダーだよ」


 ヨルムは軽く自己紹介すると、こちらに手を差し出して握手を求めてくる。


 彼は『ワールウィンドウイング』というギルドのリーダーで、今回の集まりの代表者だ。

 『ワールウィンドウイング』は攻略の前線にいるギルドの一つで、それなりに有名なギルドだからな。

 実力もあると思われるし、話してみた感じだと一定の常識はあるようだったので、彼の集まりに参加することにしたのだ。


「そうらしいな。少しの間になるとは思うが、よろしく頼む」


 俺は挨拶を返しながらその手を取って、彼と握手する。


「とりあえず、今の状況を聞かせてもらっても良いか?」

「分かったよ。今の状況としては集まったメンバーと話をして、メンバーを選定しているところだね」


 どうやら、状況としては参加希望者が集まり始めたところで、今はそれぞれで話をしているところらしい。


「メンバーの選定とは言うが、基準はどうなっているんだ?」

「基本的には一定の戦力があれば問題ないよ。まあ協調性がない人は弾くけどね」

「そうか」


(基準はそんなに厳しくないようだな)


 ガチ寄りの攻略組なので、基準を厳しめに設定していることも考えられたが、聞いた感じだとそんなことはないようだった。


「とりあえず、二人の戦闘スタイルを聞いても良い?」

「俺は遠距離攻撃タイプの後衛、リッカは見ての通り刀を使った前衛アタッカーだな」

「サブ武器は?」

「使っていないな。リッカは刀、俺はこれしか使っていないぞ」


 使う武器は一つに絞っているからな。サブ武器は用意していない。


「習得しているアビリティは?」

「悪いが、そこまでは言えないな」


 共闘するに当たって可能な限り情報は共有した方が良いだろうが、基本的に情報は伏せておきたいからな。

 アビリティの情報まで開示するつもりはないので、そこは断っておくことにする。


「まあ役割はちゃんと果たすつもりだ。そこは安心してくれ」

「……本当は装備品の情報なんかも聞いておきたかったけど、話すつもりはないみたいだね」

「……悪いな」

「いや、伏せておきたいこともあるだろうからね。無理には聞かないよ」


 ヨルムはこれ以上聞いても答えてくれないと分かったのか、情報を聞き出すことを諦めてくれた。


「ところで、ひずみの狼との戦闘経験はあるのかい?」

「一回だけだがあるぞ」


 あれ以降はずっと木材運びでポイントを稼いでいたからな。ひずみの狼と戦闘を行ったのはあの一回だけだ。


「どんな感じだった?」

「三人で挑んだが、オーラを飛ばす範囲攻撃が厄介で厳しかったな」


 オーラを飛ばす範囲攻撃は攻撃範囲が非常に広く、狙われると回避が難しいからな。

 火力はそんなに高くないとは言え、着実にこちらのHPを削ってくるので、俺達だけではどうしても厳しかった。


「三人? もう一人は?」

「もう一人は遠距離攻撃タイプの後衛だな。一応言っておくと、そのもう一人は参加する予定はないぞ」


 クオンが参加すると、確実に大騒ぎになるからな。一応そこは伝えておく。


「……つまり、前衛アタッカー一人と後衛アタッカー二人だけで挑んだってことかな?」

「まあそうなるな。だが、それがどうかしたのか?」

「いや、それだとまともな戦いにならないと思っただけだよ」

「そうか? リッカが引き付けていたし、戦えないことはなかったぞ?」


 リッカがひずみの狼を引き付けて、攻撃を捌いていたからな。

 戦えないというほどのものではなかったので、そこはきちんと伝えておく。


「あー……アタッカー兼回避タンクっていうこと?」

「まあそういうことだな。……役に立ちそうか?」

「今回はタンク役がいるし、回避タンクとしての仕事はないかな」

「まあそうだよな……」


 俺達とは違って、ちゃんとバランス良くパーティを組んでいるだろうからな。

 普段はリッカが回避タンクとアタッカーを兼任しているが、今回はアタッカーのみの仕事になりそうだった。


「とりあえず、この後は試しに一戦する予定だから、それを見て調整するつもりだよ」

「そうか」

「それじゃあメンバーの選定が済んだら話を始めるから、このまま待っていてくれるかい?」

「分かった」


 まだメンバーが全員集まっていないようようだからな。

 このままでは話を始められないので、言われた通りにこのままメンバーが集まるのを待つことにした。



  ◇  ◇  ◇



 それからしばらく待機して、討伐に参加するメンバーが集まったところで、俺達は話し合いを始めていた。


「それじゃあ話を始めようか。全員ひずみの狼の情報は持っているね?」

「持ってるぞ」

「あるぞー」


 ヨルムのその質問に対して、全員が各々でそれに答える。


(まあ全員ひずみの狼についてのことは調べているか)


 ひずみの狼の討伐を目的に集まっているわけだからな。情報は全員持っているようだった。


「戦闘経験はある?」

「俺はあるぞ」

「こっちはないな」


 だが、戦闘経験に関しては全員があるわけではないようだった。


「そうですか……。では、このままひずみの狼との戦闘に向かいましょうか」

「……良いのか? 詰めなくて?」


 これだともはや集まった意味がないからな。話を詰めなくても良いのかと確認する。


「実戦で分かることもあるだろうからね。ひずみの狼の情報は全員持っているみたいだし、大まかな戦略は移動しながら説明するよ」

「まあそれが良いか」


 俺もスケルトンソーサラー戦は苦戦したし、――リッカのような例外もいるが――情報があれば何とかなるというわけでもないからな。

 様子を見て調整するとも言っていたので、とりあえず、全員に実戦を経験させるというのはありだった。


「それじゃあ出発しようか」

「そうだな」


 そして、話がまとまったところで、現在ひずみの狼がいると思われる場所に向けて出発したのだった。

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