episode113 歪みの狼との集団戦を終えて

 ウェスティアに戻された俺達は全員で集まって話し合いを始めようとしていた。


「さて、全員集まったね? それじゃあ始めようか」

「そうだな」

「とりあえず、考えるべきことはあの即死攻撃のトリガーについてだね」

「そうだな」


 もちろん、集まったのは先程の戦闘の反省会をするためだが、一番の目的は全滅の原因となったあの攻撃のことについて話し合うためだ。

 あれを何とかしないと、攻略ができないからな。まずはそれを解明する必要があった。


「あれについての情報は……あればこうはなっていないか」


 集まる前にひずみの狼についてのことは調べてみたが、それらしき情報はなかったからな。

 そもそも誰かが情報を持っていればこんなことにはなっていないので、それは聞くまでもなさそうだった。


「そうだね。何か意見はある?」

「そうだな……俺達が三人だけで戦っていたときの方が戦闘時間は長かったし、少なくとも経過時間ではないな」


 初戦のときの方が戦闘時間は長かったが、あの攻撃は使ってこなかったからな。

 とりあえず、経過時間がトリガーではないことは確実だった。


「リッカは何か意見はあるか?」


 こういうことはゲームに詳しいリッカの方が分かるだろうし、ここに来るまでの間にも考えていたようだからな。

 ひとまず、リッカの見解を聞いてみることにする。


「……人数」


 それに対して、リッカはただ一言そう答えた。


「詳しく聞かせてくれないか?」


 それだけでも分からなくはないが、もう少し詳しく話してもらうことにする。


「……実質的に挑戦可能な人数が無制限だけど、それ用に調整されてない」

「つまり?」

「挑戦人数を制限するためのギミックの可能性がある」

「……なるほどな」


 仕様上やろうと思えば百人で挑むことだってできるからな。

 リッカが言うように、そこまでの人数で挑むことを前提に調整はされていないようなので、挑戦人数を制限するためのギミックという可能性は十分に考えられた。


「確かに、普通は入場人数に制限があったりするし、無制限ならそれを前提に調整するからね。……まあ調整の甘いゲームだとそうとも限らないけど」


 それを聞いたヨルムは最後に一言そう付け加えつつも、納得した様子を見せる。


「後者のパターンだとしたらどうする?」

「これまでプレイした感じだと、それはなさそうだろうからね。そこは考えなくて良いと思うよ」

「まあそれもそうか。ところで、こういう即死ギミックはよくあるものなのか?」


 俺はあまりゲームに詳しくないからな。このような即死ギミックは普通のことなのかどうかを適当に聞いてみる。


「うん。トリガーを満たすと即ワイプは普通にあるね」

「……ワイプ?」

「……全滅のこと」


 俺のその疑問にはリッカが答えた。


「他に意見はある?」

「「「…………」」」


 ヨルムが他のメンバーに意見がないかと尋ねるが、リッカよりも有力な意見がないのか、誰も意見を出すことはなかった。


「そう言えば、新たに情報はないか?」


 戦っている間に新たな情報が上がっているかもしれないからな。

 俺は確認していないので、確認した者がいないかどうか確認してみる。


「一応ここに集合するまでに掲示板は見てみたけど、特に新しい情報はなかったね」

「そうか」


 どうやら、ここに来るまでにヨルムが確認していたらしいが、特に新情報はなかったらしい。


「一応確認するが、大人数での討伐に挑戦している他のグループの報告はなかったか?」

「大人数での挑戦はここが最初だったみたいだから、他のグループの報告はないよ」

「……となると、現状では情報なしか」


 人数がトリガーだったとしても、それに引っ掛かったのは俺達が最初になるだろうからな。

 現状では何の情報もない状態と言っても良さそうだった。


(とりあえず、人数がトリガーであることを前提に話を進めるか)


 まだ確定したわけではないが、他に情報もないからな。

 ひとまず、このまま人数がトリガーであることを前提に話を進めていくことにした。


「まあ仮に人数がトリガーであることが正しかったとして、問題は制限人数だな」


 人数制限があるのは良いとして、問題はトリガーとなる人数だった。

 それによって編成を変える必要があるからな。そのあたりについて探る必要がありそうだった。


「昼過ぎにフルメンバーの二パーティで挑んだ人の報告があったけど、そこには情報がないね」

「つまり、十二人の場合は問題ないということか。他に情報を持っている者はいないか?」


 何か情報を持っている者がいるかもしれないからな。他のメンバーにも聞いてみることにする。


「……いや、何でお前が仕切ってるんだ?」


 だが、代表者のヨルムではなく俺が仕切っていることに突っ込まれてしまった。


「しかも、お前ら集合遅かっただろ。こういうときだけ出しゃばるなよ」

「集合が遅かったのはリッカを待っていたからだし、仕方がないだろう?」


 今回の集合に遅れたのは、一人だけ即死を免れたリッカが戻って来るのを待っていたからだからな。それも仕方がないことだと言える。


「……叩き斬る?」


 ここでリッカはその態度が気に入らなかったのか、刀に手を据えて構えを取った。


「リッカ、話をややこしくしないでくれ」


 好戦的な態度では対立するばかりだからな。ひとまず、リッカをなだめることにする。


「まあまあ……別にそこは良いじゃん」


 と、ここでその様子を見たヨルムが仲裁に入ってきてくれた。


「……助かる。リッカ、すぐに手を出そうとするのは止めて、落ち着くということを覚えてくれるか?」


 ヨルムが他のメンバーを止めてくれそうだからな。そちらは彼に任せて、俺はリッカを落ち着かせることに集中することにする。


「……シャムは間違ってない」

「だからと言って、すぐに手を出して良いというわけではないぞ? まずは冷静に話し合うところから始めてくれるか?」

「むぅ……」


 俺は軽く説教するが、リッカはそれが気に入らなかったのか、頬を膨らませながらこちらに擦り寄って来た。


「……人と話すのが苦手なのは分かるが、必要なことだ。分かってくれるか?」


 ここで俺は擦り寄って来たリッカを左腕で抱くようにして、右手で優しく彼女の頭を撫でる。


「……あのー……ここでいちゃつくのは止めてもらって良いかな?」


 だが、その様子を見ていたヨルムに止めるよう言われてしまった。


「いや、そのつもりはないのだが……まあ言われたからには止めよう。……む?」


 と、ここで強い視線を感じて周囲を確認してみると、ここにいるメンバー全員から敵対的な視線を向けられていた。


「……とりあえず、ここで話していても仕方がなさそうだから、一旦デスペナが切れるまで解散にしない?」

「俺はそれでも良いぞ」


 今集まって話をしても進展しなさそうだからな。その提案には賛成だ。


「それで良いぞ」

「そうだな」


 他のメンバーもヨルムのその提案に賛同する。


「それじゃあ一旦解散、時間になったらまたここに集まってくれる?」

「分かった」

「そうするか」


 そして、ヨルムのその一言で解散となって、それぞれのグループで散って行った。


「俺達はどうする?」

「……情報収集」

「まあそれが妥当か」


 他にも大人数で挑んでいるグループはいて、そちらから情報が上がる可能性があるからな。

 掲示板を見るなりして、情報を集めながら待つのが一番良さそうだった。


「街の様子も見ながら情報収集をして、時間には戻れるように調整するということで良いな?」

「……うん」

「では、行くか」


 そして、方針が決まったところで人が多い街の中心付近に移動して、そのまま情報収集をしながら時間になるのを待ったのだった。

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