episode108 歪みの狼との初戦闘を終えて
「とりあえず、試しに
「だね」
複数パーティで協力して何度も挑むことを前提に調整されているのか、HPが非常に高く設定されているからな。
それに加えて、ちょっとしたギミックもあるので、
「ところで、撮影の方はこれで大丈夫か?」
「うん。バッチリだよ。シャムの方から動画について何か希望はある?」
「と言うと?」
クオンが上げる動画に対して口出しするような立場ではないからな。
自由にしてもらって構わないので、こちらから言うようなことは特にない。
「伏せておきたいこともあるでしょ? その武器のこととか」
「……ああ、そういうことか。そこは特に気にする必要はないぞ。どうせその内知られることだからな」
リッカは近々ストライクウルフ戦の動画も含めた、『Origins Tale Online』関連の動画を上げる予定のようだからな。
どの道そこで知られることになるので、その点については問題はない。
(と言うか、いくら編集の手を加えても、俺のことを隠し通すことは不可能だと思うが……)
リッカほどではないとは言え、前に出たりもしていたし、メインの火力担当にもなっていたからな。
どう動画を編集しても、俺のことを隠し通すことは不可能だと思われた。
(……まあどうでも良いか)
こちらが許可を出した以上、どう編集するつもりだったのかを考えても意味はないからな。
さっさとその思考は切り上げて、話に戻ることにした。
「分かったよ。リッカは今回の動画は上げないの?」
「……基本的にちゃんとした攻略しか上げない」
リッカが上げる動画は基本的に対戦系かガチガチの攻略系になるからな。
今回のような、とりあえず挑んでみたといった感じで動画を出すようなことはないので、そこは問題ない。
「だよねー……」
「む、クオンはリッカの動画を見たのか?」
まるでそのことを知っていたかのような反応だからな。
どうやら、クオンはリッカの上げている動画を見たことがあるらしい。
「うん。聞いたことのある名前だったし、調べたらすぐに分かったよ」
「そうだったか。よく分かったな」
「対戦系のゲームだと普通に上位にいるし、昔の機種のゲームを中心にRTAの記録も持ってたりするしで、調べたらすぐに出てくるぐらいには有名だよ?」
「まあそれもそうか」
リッカは界隈では有名な方だからな。調べればすぐに分かることではあるので、言うまでもなかったか。
「特に最近だと『スマファイ』では大会で上位に入ってたし、このゲームでも上位勢の『リデル=ミズガル』って人と競ってて有名だったしね」
「む? 誰なんだ、それは?」
そう言われても、俺はリデル=ミズガルという人物のことは知らないからな。
その人物のことについて詳しく聞いてみることにする。
「『変態紳士』って呼ばれてる人だよ」
「ふむ、そうだったか」
その呼び名は聞いたことがあったが、プレイヤーネームは知らなかったからな。
どうやら、『変態紳士』と呼ばれていた人物のことを言っていたらしい。
「と言うか、そもそも何故そんな呼び名なんだ……」
「あたしはそのあたりのことについては詳しくないけど、それは本人の性格から来るものじゃない? 自分で名乗ったわけじゃなくて、リスナーからそう呼ばれるようになったみたいだし」
「そうだったか」
まあ自分でそう名乗ったりはしないだろうからな。わざわざ聞くまでもないことだったか。
「呼び名からして不穏な感じはするが、問題は起こしていないのか?」
「女性に話し掛けまくってるらしいけど、無理に迫ったりするようなことはしてないみたいだし、特に問題にはなってないよ」
「それはそれで問題な気はするが……まあ良いか」
問題があれば運営が対応するだろうからな。俺が気にするようなことでもないので、この話はもうここまでにしておくことにした。
「それじゃああたしは早く動画を上げたいから、そろそろ行くね」
「ああ。また何かあったら言ってくれ」
「うん。それじゃあね」
そして、クオンはそれだけ言い残すと、ログアウトして姿を消した。
「……この後どうする?」
「とりあえず、ドラガリアに向かって、竜王に会ってみるつもりだ」
今回の件に関して、竜王が一枚噛んでいるようだからな。
デスペナルティが付与されている間は動けないので、その間に竜王がいる竜都ドラガリアに向かって、話を聞いてみようと思っている。
「……分かった」
「では、行くか」
そして、イベントエリアを出て通常のエリアの戻った俺達は、そのまま竜都ドラガリアに向かったのだった。
◇ ◇ ◇
竜都ドラガリアに移動した俺達は竜王がいる城へと向かっていた。
「さて、城の前まで来たは良いが……」
「……問題は入れてくれるかどうか」
とりあえず、城に来たは良いが、今回は前回と違って呼ばれているわけではないからな。
今回はさして重要な用事があるわけでもないので、城に入れてもらえない可能性が高そうだった。
「まあダメ元で聞いてみるか」
可能性はゼロではないからな。ひとまず、門番に話をしてみることにした。
「少し良いか?」
「何だ?」
「竜王様と話をしたいのだが、城に入れてもらうことはできるか?」
「竜王様との面会には許可が必要だ。許可がないのなら、早々に立ち去るが良い」
「まあそうだよな……」
門番に竜王に会えないか聞いてみるが、案の定断られてしまう。
「そもそも何の用だ? 必要であれば取り次ぐぞ?」
「用件は
「ああ、あの黒いモンスターのことか」
門番は
「何か知っているのか?」
「いや、それについては現在調査中だ」
「そうか……」
詳しく話を聞こうとするが、彼も情報を持っていないようで、情報は得られそうになかった。
「竜王様かドラーク様が情報を持っている可能性があるという話も聞いたが、それについてはどうなんだ?」
「詳しくは分かっていないが、ドラーク様が何か情報を掴んでいる可能性はあると見ている」
どうやら、あの受付嬢と見解は同じようで、竜神ドラークが情報を握っていて、それを竜王に伝えたと見ているらしい。
「そうか。となると、ドラーク様に話を聞くのが一番良いか」
「それはそうだが、ドラーク様はどこにいるのか分からないし、聞いたところで答えてくれるとは限らないぞ?」
「結局、問題はそこか……」
情報を握っていると思われる竜神ドラークに聞くのが一番ではあるが、その居場所すら分からないからな。
さらに言うと、仮に会うことに成功したとしても、質問に答えてくれるとは限らないので、竜神ドラークから話を聞くのは現実的ではなさそうだった。
「まあ何かあれば竜王様から発表があるはずだ。この件に関しては調査組に任せて、お前達は普段通りに過ごしておくと良い」
「それが良いか」
俺達にできることはほとんどなさそうだからな。調査の方は専門のメンバーに任せて、報告を待つことにした。
「用件はそれだけか?」
「ああ。悪いな、時間を取らせて。リッカ、もう行くぞ」
「……うん」
そして、俺達は話を聞き終わったところで、始都セントラルに戻ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます