episode106 歪みの狼との初戦闘
それから順調に移動していた俺達は目的地の近くにまで来ていた。
「この辺りだったよね?」
「俺の予想ではな。とりあえず、ここから【望遠鏡】で探してみよう」
場所に関してはあくまでも予測だからな。この辺りにいるとも限らないが、ひとまず、この場から【望遠鏡】で周囲を確認して探してみることにする。
「うん。お願いするよ」
【望遠鏡】は一つしか持ち込んでいないからな。俺はすぐに【望遠鏡】を取り出して、
「……あれか?」
捜索を始めると、すぐにそれらしき影を発見することができた。
(この距離だと正確には分からないな)
だが、ギリギリ見えるといった程度で、輪郭がぼやけている状態なので、確実にその影が
まあこのエリアにこの色のモンスターは他にはいないので、確定と言っても差し支えはなさそうではあるが。
「見付かった?」
「ああ。とりあえず、気付かれない程度に近付くぞ」
「分かったよ」
それらしきモンスターを発見した俺達は早速近くに移動を始める。
「この辺りなら大丈夫か」
そして、モンスターの輪郭が確認できるところにまで近付いたところで、止まって様子を見ることにした。
「……うん、情報通りだし、間違いないね」
「そうだな」
見ると、そこには資料で見た通りの、体長が三メートル以上はあると思われる黒い狼がいた。
どうやら、あれが探していた
「早速、仕掛ける?」
「……できれば様子見たい」
クオンはすぐに仕掛けようとするが、それにリッカが待ったを掛ける。
「それは他のプレイヤーが戦っているところを見たいということか?」
「……うん」
「初見では挑まないのか?」
「……リスクあるし、データは欲しい」
「スケルトンソーサラーを初見で攻略した者が言うようなセリフではないような気はするが……まあそれも仕方がないか」
時間を浪費してしまうと、目標ポイントに届かなくなる可能性もあるからな。
戦闘貢献度によって貢献度ポイントが分配されることを考えると、できるだけダメージを与えたいので、可能な限り攻略法を考えてから挑みたいというのは分かる。
しかし、今は周囲に他のプレイヤーは見当たらず、観戦して情報を得ることもできないからな。
一応、他のプレイヤーが来るのを待つという手もあるが、それこそ時間の浪費で、下手したらデスペナルティ以上の時間のロスになる可能性もあるからな。その選択肢はない。
「だが、これでも大切な友人だからな。できる限り協力してやりたいので、リッカも協力してくれないか?」
「……良いよ」
「悪いな。わがままを言って」
「……別に。私の方がわがまま言ってる」
「あのー……こっちに戻って来てもらっても良いですかー?」
と、ここでその様子を見ていたクオンが、こちらを覗き込みながらそんなことを言ってくる。
「む、悪い。とりあえず、リッカが最初に仕掛けて、その直後に俺達も仕掛けるということで良いか?」
「……うん」
「それで良いよ。けど、その前にオープニング用の撮影をしても良い?」
「別に構わないぞ」
「それじゃあすぐに終わらせるから、そこで待ってて」
そして、クオンはそれだけ言って少し離れると、そのままオープニング用の撮影を始めた。
「……とりあえず、待つか」
俺達にできることはないからな。このまま
「おーい。終わったよー」
それからしばらく待っていると、オープニングの撮影を終えたクオンが戻って来た。
「そうか。ではリッカ、前衛は頼んだぞ」
「……うん」
そして、クオンのオープニング用の撮影が終わったところで、それぞれ配置に着いた。
「……良い?」
「ああ」
「いつでも行けるよ」
「……分かった」
全員の準備が整ったことを確認したリッカは、気付かれないようにゆっくりと接近を始める。
「……ガルッ!」
だが、ある程度接近したところで、
「グルルォォーーッ!」
「っ!」
リッカを発見した
(状態異常を無効化する効果が剥がされているな)
リッカは『稀代の輝き』の効果で戦闘開始時に一度だけ状態異常を無効化する効果が自身に付与されるが、見るとその効果が剥がされてしまっていた。
どうやら、あの
「援護する。『衰呪・消失』」
「行くよ! 『スピニングアロー』!」
だが、悠長に分析している暇はない。俺とクオンはすぐに遠距離攻撃でリッカを援護する。
「ガルッ⁉」
(状態異常は入らなかったか)
『衰呪・消失』には確率で脱力と減衰を付与する効果があるが、残念ながら状態異常は入っていなかった。
まあそもそもあのモンスターに状態異常が効くのかどうかもまだ分からないが。
「……グルッ!」
と、先程の攻撃でこちらの存在に気が付いた
「んぐ⁉」
「っ! 大丈夫か⁉」
すると、彼女に麻痺の状態異常が付与されて、動けなくなってしまっていた。
(効果時間は五秒。これなら大丈夫か……?)
とは言え、その効果時間は五秒なので、そんなに問題はないように思えた。
「いや、念のために防壁を張っておくか。『マテリアルウォール』」
だが、何をして来るのか分からない相手だからな。
元になっていると思われるストライクウルフは一瞬で距離を詰めるスキルも持っていたので、『マテリアルウォール』でクオンの前に壁を展開しておくことにした。
「――私もいる」
ここでリッカは自分のことを忘れるなと言わんばかりに『抜刀剣閃』で攻撃を仕掛ける。
「ガルッ!」
しかし、その攻撃は高く跳ぶことで躱されてしまった。
(何だあれは?)
それは良いのだが、
「…………」
リッカもそれを警戒してか、少し距離を取って敵の動きに備える。
「ガルッ!」
そして、
「うぐっ⁉」
「クオン⁉」
すると、クオンの足元付近から薄く黒い斬撃ような物が放たれて、彼女は高く打ち上げられてしまった。
(しかも、狙われているな)
さらに、
「間に合え――!」
俺はすぐにクオンに向けて『マテリアルチェイン』で鎖を放って巻き付けて、素早くこちらに引き寄せる。
「ガルッ!」
「大丈夫か?」
「ありがと、シャム」
「――離れて」
と、クオンを助け出したのも束の間、リッカがそう指示を飛ばしてくる。
「分かった」
リッカの指示通りに、ひとまず、すぐにこの場を離れることにした。
俺はクオンを抱き抱えたまま、俺達と
「リッカ、このまま援護すれば良いか?」
「――うん」
「あのー……恥ずかしいからそろそろ降ろしてくれない?」
と、必要な分だけ距離を取ったところで、クオンが降ろすよう要求してきた。
「む、そうだな」
このままだと弓を使えないだろうからな。俺はそのままクオンをそっと地面に降ろす。
「ところでリッカ、先程の攻撃への対処はどうすれば良い?」
睨み付けによる麻痺付与や先程の攻撃への対処方法を考えておく必要がありそうだからな。
戦闘しているところで悪いが、そのあたりのことについて話をしておくことにする。
「……睨み付けはたぶん回避不可。攻撃はタイミング合わせれば避けれると思う」
「そう言われても、俺達にできるかは分からないぞ?」
リッカにはできても、俺達にできるかは分からないからな。
回避できる前提で話を進められても困るので、被弾することも考えて話を進めてもらうことにする。
「……一発は耐えられるし、すぐに回復して。麻痺はもう一人がサポートして」
「分かった」
一撃で七割近く持って行かれるとは言え、回復しておけば俺達の防御力でも確実に耐えることができるからな。
攻撃は被弾前提で回復することで耐えて、麻痺にはもう一人が補助することで対応することにした。
「リッカが麻痺させられた場合はどうする?」
「……シャムが何とかして」
「分かった」
俺であれば『マテリアルチェイン』で遠距離からでも干渉できるからな。
基本的には俺がサポートして、俺が麻痺させられた場合はクオンにサポートしてもらうという方針で行くことにした。
「さて、どこまで行けるかは分からないが、やれるところまでやるか」
まだ戦闘は始まったばかりだからな。俺はそのまま
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます