episode104 初イベントへの新要素
イベント二日目の夜、プレイヤー達が各々の攻略法を見付けていく中、運営の方では不穏な動きが見られていた。
「とりあえず、イベントの方は順調ですね」
イベントの専用エリアやサーバー分けなど、今回のイベントで初となることは多かったが、特に不具合もなく順調にイベントは進んでいた。
「でも、プレイヤーの進捗は想定よりも進んでいませんね」
だが、データを見ると、二日目から効率が低下していて、プレイヤーの進捗が想定よりもだいぶ遅れていた。
「消費アイテムが不足しているみたいだからね。まあ少し予想していた展開ではあるけど」
その原因は明白で、原因は消費アイテムの供給が不足していることだった。
中には東セントラル森林での木材集めを諦めて、物資の運搬に切り替えているプレイヤーもいるようだった。
「……予想していたのなら、それを組み込んだ上で調整しても良かったのでは?」
「そうは言っても、見てからじゃないと何とも言えないからね。厳しめに調整しただけだよ」
「それでプレイヤーが納得すれば良いですけどね……」
運営メンバーの一人は
「ソロの上位プレイヤーはあまり影響を受けていないみたいだし、調整は難しいね。まあ物資の運搬に切り換えたプレイヤーの影響で消費アイテムの供給は増えるだろうし、大丈夫だと思うよ? 追加で供給もするしね」
「それはそうですが……大丈夫ですかね? 追加で要素も入れて」
「元々予定していたことだし、物を運ぶだけだと飽きるだろうからね。ちょうど良い刺激になると思うよ」
そうは言っても、これは元々予定されていたことではあるので、大きな問題はない。
予定通りに実装して、様子を見て調整するだけだ。
「刺激ぐらいで済めば良いですけどね……。と言うか、レイドの調整がメインですよね?」
「まあそれはこっちの事情だけどね」
もちろん、これがメインというわけではなく、レイドに向けての調整の一環なのだが、それはプレイヤー側には関係のない話だ。
「ところで、悪質なプレイヤーへの対応はどうしますか? 権限持ちのNPCに任せますか?」
「いや、こっちで対応するよ。とりあえず、警告と度合いに応じてのペナルティ付与になるかな」
「BANしなくても良いのですか?」
「懸賞金のシステムのテストもしておきたいし、BANはまだ早いかな。もちろん、警告しても改善されなければBANするけどね」
あまりにも悪質な場合は警告なしの一発BANの予定ではあったが、現状警告で十分そうではあるのと、テストしておきたいシステムもあるので、一旦警告で様子を見ることにした。
「とりあえず、ペナルティを与えたことをお知らせで出す予定だから、そのテキストデータを作っておいてくれる?」
「分かりました」
「それと、管理AIの出したペナルティ案のデータを確認して、大きな問題がないかどうか見ておいてくれる?」
「はい、すぐに」
指示を受けて、運営メンバーはすぐに動き始める。
「さて、こっちはこっちで作業をしておきますかね」
そして、指示を終えた
◇ ◇ ◇
翌日、俺達は今日も朝から『Origins Tale Online』にログインしていた。
「む、お知らせが更新されているな」
ログインすると、すぐにお知らせが更新されていることに気が付いた。
ひとまず、メニュー画面を開いて、その詳細を確認してみる。
「悪質なプレイヤーへのペナルティの付与のお知らせとイベントの情報が更新されているな」
更新点は二つで、一つは悪質なプレイヤーにペナルティを付与したことに関するお知らせの追加、もう一つはイベントの情報のページの更新だった。
「……とりあえず、イベント情報」
「そうだな」
ペナルティの付与に関しては詳しく見る必要もなさそうだからな。ここはイベント情報の方を確認してみることにした。
「ふむ……イベントエリアで出現するモンスターに『
確認してみると、情報はイベントエリアで出現するモンスターに「
「……それに伴う要素の追加もある」
さらに、それに伴って追加される要素もあるらしい。
「どれどれ……
どうやら、
そのせいか、討伐ポイントとドロップアイテムは戦闘に参加した全てのプレイヤーに与えられるようになっていて、戦闘貢献度によってそれらが分配されるとのことだ。
ここで戦闘貢献度について説明しておくと、これはその名の通り戦闘における貢献度で、敵に与えたダメージ量や味方への支援など様々な要因によって算出される値だ。
今回の場合であれば、この値によって付与される報酬が決定される。
このゲームの戦闘貢献度の算出システムが複雑になっているのは、戦闘スタイルによる格差をなくすためだ。
例えば、与ダメージの割合=戦闘貢献度となるようなシステムだと、アタッカーが有利になって格差が生まれてしまうからな。
そういったことを防ぐために、そのような複雑なシステムが採用されている。
「ポイント的に討伐に挑戦する必要はなさそうだが、どうする?」
これまで通りに木材を集めるだけでも目標のポイント数には到達できそうだからな。
ひとまず、リッカにどうするのかを聞いてみる。
「……【
「そうか。では、討伐に参加するということで良いか?」
「……うん」
一応、次回のアップデートで、通常マップに低確率で「
情報もできるだけ早く入手しておきたいので、多少のリスクは承知の上で討伐に参加してみることにした。
「それと、イベントエリアでの消費アイテムの供給量が増えるらしいが……」
「……プレイヤーの意見を受けての調整?」
「その可能性はあるな」
消費アイテムが不足しているのはどこのサーバーも同じようだったからな。
それを見て運営が調整を入れたという可能性は十分に考えられた。
「まあその話は良い。とりあえず、受付嬢に
聞けば何か情報が得られるかもしれないからな。
ひとまず、受付嬢に
「少し良いか?」
「何でしょう?」
「
「分かりました。ひとまず、こちらをご覧ください」
受付嬢はそう言って一枚の資料を取り出すと、そのままそれをこちらに差し出してくる。
「
「正体不明?」
「はい。ストライクウルフに近い容姿をしていますが、色が黒く、似て非なるものだと思われます」
受付嬢はそう言いながら資料にある
(確かに、見た目をそのままに色を変えただけに見えるな)
容姿自体はストライクウルフそのものだからな。細かく見れば違う点があるのかもしれないが、ぱっと見の印象としては、全体的に色を黒くしただけといった感じだった。
【
と、この確認で情報を得たことになったのか、そんなシステムメッセージが表示された。
(後で確認しておくか)
今すぐに確認する必要はないからな。話の途中なので、図鑑情報は後で確認しておくことにした。
「その正体についての調査はしているのか?」
「以前から調査はしていますが、今のところ情報はありません」
「以前から?」
「はい。このような黒いモンスターの存在は以前から確認されていますので、調査自体は以前から行われています」
黒いモンスターは今回初めて目撃されたのかと思っていたが、どうやらそうではなく、このタイプのモンスターの存在は以前から確認されていたらしい。
「……ここだけの話ですが、竜王様が何かを知っている可能性はあります」
ここで受付嬢はこちらに顔を寄せると、小声でそう話し掛けてくる。
「竜王――様が?」
それに対しての返答でうっかり呼び捨てしそうになったが、忘れずに様付けする。
「はい。実を言うと、今回の復興計画は竜王様が計画したことなのです」
「む? セントラルのことに口を出したのか?」
竜王は竜都ドラガリアの管理をしていて、始都セントラルのことについて口出しする立場ではないはずだからな。
そのあたりのことについて、詳しく聞いてみることにする。
「……始都セントラルの管理は各種族から選ばれた数人の代表によって行われています」
「……そして、その代表の一人が竜王様ということか」
「そういうことですね。竜都ドラガリアの管理と兼任しています」
どうやら、彼は竜都ドラガリアだけでなく、始都セントラルの管理も担当していたらしい。
「そして、あなた方のような方に復興の手伝いをさせることを提案したのも竜王様です」
「……その理由は?」
「私は会議に参加していないので、そこまでは」
「む、それもそうか」
一介の職員が上層部の会議の内容を知っているはずがないからな。聞いても仕方がなかったか。
「ただ、竜王様はこの事態を予見していて、事前に動いていたそうです」
「と言うと?」
「詳しいことまでは分かりませんが、物資の手配はされていましたね」
「それで、追加の物資がこちらに回されたのか」
どうやら、イベントエリアへの消費アイテムの供給量が増えたのは、竜王の働き掛けのおかげだったらしい。
「やはり、竜王様は何かを知っていそうだな」
真相を知っていたからこその予見だろうからな。竜王が黒いモンスターについてのことを知っている可能性は高かった。
「知っているのは、竜王様と言うより竜神ドラーク様の方かもしれません」
「そうなのか?」
「確実なことは言えませんが、竜王様は竜都ドラガリアを治める主であると同時に竜神ドラーク様の眷属になりますので。そちらの指示で動いていた可能性もあります」
「ふむ、そうか。……ここで考えても仕方がないか」
俺は直接竜王の様子を見ていないからな。ここで考えても答えは出ないので、この話は一旦置いておくことにした。
「色々と話を聞けて助かった。礼を言おう。リッカ、そろそろ行くぞ」
少々時間を食ってしまったからな。流石にそろそろ出発することにした。
「……うん」
そして、受付嬢から話を聞き終わった俺達はすぐにフィールドマップに出発したのだった。
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