episode103 ガルア達との戦闘

「一瞬で終わらせてやるよ!」


 戦闘が始まると同時に、前衛の四人が一斉にこちらに接近して来る。


(……遅いな)


 だが、重い防具で全身を固めているせいか、目に見えて動きが遅かった。


(となると、問題は魔法使いか)


 前衛は動きが遅く、隙を見て抜けることができれば、俺達に追い付くことはできないだろうからな。

 実質的にいないのも同然なので、対処すべき相手は後衛の魔法使いだった。


(だが、ここからだと直接は狙えないな)


 このまま魔法使いを狙って攻撃したいところだったが、射線上には前衛のメンバーがいるからな。

 この位置からだと、直接後衛を攻撃することはできなさそうだった。


「であれば、こうだな。『マテリアルウォール』」


 俺は『マテリアルウォール』で足元から壁を展開して、その壁の上に乗る。


「ここからなら狙えるな。『バレッジソリッド』」


 そして、射線が通ったところで、魔法使いに攻撃を仕掛けた。


「これは避け……ぐわっ!」

「チッ……」


 後衛の二人は詠唱を中断して回避しようとするが、その動きは想定内だ。

 それを想定して攻撃範囲を広めにして放っているので、その程度では範囲外に逃れることはできない。

 二人は俺の攻撃を受けて、じわじわとHPが削られていく。


(分散させているので火力は低いが、動きを封じるには十分だな)


 大剣の溜め斬りのように、ノックバック耐性が付与されるのであれば無理矢理攻撃するという手も取れるが、魔法系スキルのキャストタイム中にそのような耐性は付与されないからな。

 こうして弾幕を張ってやれば魔法使いは何もできなくなる。


 まあこちらの攻撃は単発の威力が低く、一、二発程度では怯まないだろうが、詠唱のために動きを止めれば何発も当たるからな。

 結局、詠唱は封じられるので、これで完全に動きを封じることが可能だった。


「おい、誰かあいつを何とかしろ!」

「んなこと分かってる! すぐに叩き斬って――」

「――『抜刀神速』」

「ぐはっ……」


 距離を詰めたガルアは大剣を振り上げようとするが、リッカを前にその動きは遅すぎた。

 リッカは抜刀攻撃でガルアを攻撃しつつ、そのまま四人の間を通り抜けて魔法使いを仕留めに向かう。


「――『抜刀剣閃』、『抜刀二段』」

「ぐはっ……」

「こいつ……」


 そして、抜刀攻撃からの連撃で、一気にHPを削りに行った。

 二人の魔法使いはリッカの攻撃に対応できるはずもなく、一方的に削られていく。


「チッ……こうなったら、二手に別れて――」

「その必要はないぞ?」

「ぐふぉっ⁉」


 ここで俺はリッカに注意が向いた隙にガルアに接近して、彼の顔面を踏み付けて踏み台にすることで、四人の前衛を飛び越えた。


「援護は……いらなかったか」


 そして、そのままリッカの援護に向かうが、既に片付いた後だったので、その必要はなかった。


「あの短時間で倒されただと⁉」

「……紙装甲のサンドバッグならこんなもの」


 ガルア達は短時間で倒されたことに驚いているが、リッカの火力はそれなりに高いからな。

 魔法使いの二人はそんなに耐久力がなかったと思われるし、一方的に殴られるだけの状態だったので、案外こんなものだろう。


「さて、これで邪魔者は片付いたし……」

「……行く」


 これで邪魔者はいなくなったからな。このまま予定通りに東セントラル森林に向かうことにした。


「それで、この後はどうするんだ?」

「……木材採りに行く。あいつらは相手する必要ない」

「まあそれもそうか」


 俺達がガルア達の相手をするメリットは何一つないからな。

 彼らの報復に律儀に付き合ってやる必要はないので、このまま戦闘から離脱することにした。


「おい! どこに行く!」

「別にどこに行こうが、俺達の自由だろう? では、これでお別れだな」

「おい、逃げるな!」


 話をするのも無駄だからな。彼のことは適当にあしらって、さっさと森に駆け込む。


「追って来そうだが、大丈夫か?」

「……道中で消耗させれば良いし、そもそも辿り着けない可能性もある」

「ふむ、それもそうだな」


 あの戦力では東セントラル森林の攻略はできなさそうだからな。

 仮に俺達のところまで辿り着けたとしても、消耗した状態になってこちらが有利になるので、このまま伐採に向かうことにした。


「では、行くか」


 そして、ガルア達を撒いた俺達はそのまま木材を入手しに森の奥へと向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



 それから目的の場所に到着した俺達は、木を伐採して木材を入手していた。


「さて、いつも通りに事は進んでいるが……邪魔が入ったな」


 だが、二本目の木を切っていたところで、入口側の方から一人の人物が現れた。


「あ? 邪魔だと⁉」


 現れたのはガルアだった。どうやら、何とか森を通ってここまで辿り着いたらしい。


「他の奴らはどうした?」


 しかし、他のメンバーの姿が見当たらなかった。


「あいつらは途中で死にやがってな。まあ俺が逃げるための時間稼ぎにはなったが、その程度だったな」

「人には逃げるなと言っておいて、自分は逃げるのか。それも、パーティメンバーを犠牲にして」

「うるせぇ! リーダーは俺だ! 俺が残るのは当然だろ!」

「……パーティで動くなら、パーティ単位で考えるべき」

「リッカ、止めておけ。時間の無駄だ」


 話が通じる相手でないことは分かり切っているからな。話をするだけ無駄なので、さっさと本題に移ることにした。


「まあお前一人でもここまで辿り着けたことを評価すべきか」


 全滅の可能性が一番高いと見ていたからな。想定以上の結果を見せたので、そこは評価しても良さそうだった。


「どこまでも舐め腐りやがって……今度こそぶっ殺してやる!」


 ガルアは大声でそう言い放つと、大剣を鞘から抜いて構えて戦闘態勢に移った。


「勝てると思っているのか? ……いや、馬鹿に何を言っても無駄か」


 東セントラル森林を難なく攻略する俺達と、パーティが壊滅したガルア。

 戦力の差は明らかなので、戦うまでもなく結果は見えているが、それを理解できるまともな知能を持っていればこんなことにはなっていないので、黙ってそれに応じることにする。


「……やる?」

「リッカは戦わないのか?」

「別にどっちでもいい」

「そうか。……たまには俺がやるか」


 相手は一人な上に手負いで、俺一人でも問題なさそうだからな。ここは俺が戦うことにした。


「おら、行くぞ!」


 俺が構えると、ガルアは大剣を振り上げてこちらに駆け寄って来る。


「悪いが、接近される前に終わりにさせてもらう。『マテリアルソリッド』」


 『バレッジソリッド』で攻撃したいところだったが、リュックの枠を確保するために【クラフトマテリアル】は二スタックしか持って来ていないし、先程の戦闘でだいぶ消費してしまったからな。

 ここは『マテリアルソリッド』を連発することにした。


「チッ……」

「その様子だと、本当に接近もできずに終わりそうだな」


 それなりにプレイヤースキルのある相手であれば簡単に避けられていただろうが、ガルアはうまいと言えるほどのプレイヤーではないようだからな。

 避けようとはしているが、全ては避け切れずに被弾しているので、この様子だとあっさりと終わりそうだった。


「その余裕……いつまで持つか見物だな!」

「そうか。……その自信はどこから出てくるんだ?」

「……理解しようとしない方が良い。無駄」

「まあそれもそうだな」


 まともに話すらできない者の思考など理解できるはずもないからな。考えるだけ無駄なので、深くは考えないことにした。


「さて、これで終わりか? 『マテリアルソリッド』」


 残りHP的に後一発で終わりそうだからな。これがトドメの一撃になりそうだった。


「その程度で終わるかよ!」


 だが、ガルアは最後の足掻きと言わんばかりにその攻撃を躱すと、大剣を後方に引いて攻撃を仕掛けて来た。


「はぁ……面倒だな。『マテリアルチェイン』」

「っ!」


 しかし、そんな遅い攻撃は今の俺には通用しない。

 俺は『マテリアルチェイン』で放った鎖を巻き付けることで、彼を拘束して動きを封じ込める。


「悪いが、お前達の相手をするつもりはない。さっさと諦めてくれ」


 俺はそう言いながら、切っている途中だった木に向けて伐採用の斧を力を込めて振る。

 すると、その一振りで木が切れて、木がガルアの方に向けてミシミシと音を立てながらゆっくりと倒れ始めた。


「っ! こいつまさか――」

「ここで一つアドバイスをしておこう。倒れて来た木に当たるとダメージを受ける。木材集めの際には気を付けると良い」

「んなこと言われ――」


 そして、そのままガルアは木に押し潰されて、HPがゼロになった。


「全く……面倒な奴だったな」

「……また来る可能性ある」

「流石に対応してくれるのではないか?」


 あの様子だと、たびたび問題を起こしていそうだしな。何かしらのペナルティが与えられることは確実なので、それを確認してからこちらの動きを決めることにした。


「まああいつらのことは明日考えれば良いだろう」

「……うん」

「では、伐採の続きといくか」


 そして、邪魔者がいなくなったところで、木の伐採を再開したのだった。

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