episode102 初イベント二日目

 それから俺達は順調に木材の運搬を進めて、時刻は現実時間での夜になっていた。


「さて、だいぶ順調だが……流石にそろそろ消費アイテムが厳しいか?」

「……うん」


 初日と同様に順調に事は進んでいたが、消費アイテム――特に【MP回復ポーション】――が残り少ないからな。

 補充もあまりできない状態なので、この調子だと明日以降は厳しそうだった。


「どうする? 明日以降は方針を変えるか?」


 アイテムの供給が多い始都セントラルでアイテムを補充することも視野に入れた方が良さそうだからな。

 場合によっては方針を変える必要がありそうだった。


「……様子見て決める」

「まあそれが良いか」


 必要なアイテムさえ手に入れば続行できるからな。ウェスティア側で手に入る可能性もあるので、とりあえず、消費アイテムの販売状況を見て決めることにした。


「さて、森の入口まで来たが……む?」


 と、そんな話をしながら歩いていたところで、俺は草むらの中に怪しい影があることに気が付いた。


(どうやら、プレイヤーのようだな)


 距離があるので誰なのかまでは分からないが、とりあえず、プレイヤーであることだけは確かだった。


「……警戒」

「分かっている」


 だが、その動きには違和感があった。通常であれば物資や木材を運ぶために移動しているはずだが、その一団は何かを待ち構えているかのように草むらの中で待機していた。

 もちろん、戦闘後に回復するために立ち止まっているという可能性はあるが、その様子もないからな。何か別の目的があることは明白だった。


「……やっと来たか」


 と、警戒しながら構えていると、こちらの姿を確認したからなのか、潜んでいた者達が草むらから出て来た。


「……やはり、お前達だったか」


 草むらから出てきたのは、今朝、受付嬢に文句を言っていたガルア達だった。

 どうやら、わざわざ東セントラル森林の入口で俺達が来るのを待っていたらしい。


「で、何か用か?」

「決まってんだろ! んなもの――」

「仕返しか?」


 俺はガルアが言い切る前にそう言い放つ。


「分かってんじゃねえか!」

「逆恨みにもほどがあるな。100%そちらが悪いだろう?」


 誰がどう見ても悪いのは彼らの方だからな。ペナルティを受けたのは因果応報なので、逆恨み以外の何物でもない。


「……ああいうのはまともな思考ができないから、自分に原因があるって発想に至らない。しかも、自分が絶対的に正しいって思い込んで疑わないから、何言っても聞かない。馬耳東風そのもの。だから、こうなってる」

「まあそれはそうだが、そこまで言わなくとも……」


 恨みでもあるのかと思うほどの言い分だが、端的にまとめると「馬鹿」の一言で片付くからな。

 いくらそう言われても仕方がない立場の相手とは言え、そこまで言う必要はない。


「……まあ良いか」


 そう思ったが、一々突っ込むのも面倒なので、もう好きにさせることにした。


「おい! 聞こえてるぞ! こっちが黙ってれば好き勝手に言いやがって……」

「ああもう、面倒だな……御託は良い。さっさと掛かって来い」


 何を言っても無駄な以上、話をしても時間の無駄にしかならないからな。

 ここはさっさと話を切り上げて、戦闘に移ることにした。


「舐めやがって……おい、やるぞ!」


 ガルアがそう言うと、他のパーティメンバーは一斉に武器を構える。


「……確認するが、この場合は倒してもペナルティはないんだよな?」

「……うん」


 このゲームではPKに対してのペナルティが存在するが、向こうから仕掛けられた場合は正当防衛となってペナルティは発生しないらしいからな。

 今回のケースであれば問題はないので、遠慮なく臨むことにする。


(相手はフルメンバーの六人。前衛四人と後衛二人の構成で、全員アタッカーか?)


 後衛の二人の魔法使いは当然アタッカーだとして、前衛の四人も金属製の防具で全身を固めてはいるが、全員アタッカーのようだった。


「全員アタッカーに見えるが、リッカはどう思う?」


 ゲームのことについてはリッカの方が詳しいからな。ここは彼女に意見を聞いてみることにする。


「……同意見」

「そうか。……あれだとパーティとしてのバランスに欠陥があるように見えるが、大丈夫なのか?」


 それは良いのだが、彼らのパーティには大きな欠陥があるように思えた。

 前衛の四人の武器は大剣が一人、槌が一人、剣の二刀流が二人なのだが、全員が金属製の重い防具で全身を固めている。


 元々動きが遅い大剣や槌は問題ないかもしれないが、問題は剣の二刀流の二人だ。

 手数で攻める速度が重要なロールにも関わらず、重い防具で速度を落としてしまっているので、明らかにミスマッチだった。


 また、全員がアタッカーでタンクやヒーラーなどがいないので、純粋にパーティとしてのバランスが悪い。

 まあ防御力の高い防具で固めることでタンクを兼ねているのかもしれないが、正直言って何も考えずにパラメーターの高い防具を装備しているようにしか見えない。


「……格下の雑魚狩りなら早いしあり」

「それは一理あるな」


 格下であれば、火力でのゴリ押しが通用するだろうからな。格下の雑魚敵狩りならそうした方が早いので、その意見は尤もだった。


「でも、ここだと論外」

「まあそうだよな」


 東セントラル森林は難易度が高めに設定されていて、とても格下とは言えないからな。

 アタッカー二人でやっている俺達が言うのも何だが、あんなバランスの悪いパーティでは話にならない。


「どこまでも舐め腐りやがって……この人数を見ても、んな悠長なこと言ってられんのか⁉」

「……確かに人数差があるのは困るな」


 パーティとしてのバランスは悪いが、人数差があるからな。客観的に見て不利なのはこちらなので、あまり軽口を叩いている余裕はなかった。


「リッカ、策はあるか?」

「……何も考えずに大口叩いたの?」


 俺はリッカに策がないかを尋ねるが、それを聞いた彼女は呆れた様子でそう返して来る。


「……戦闘になることに変わりはなかっただろう?」


 確かに無策で不利な状況にも関わらず大口は叩いたが、戦闘に帰結することに変わりはなかっただろうからな。

 挑発は無駄話を切るためにしたものなので、そこには突っ込まないでいただきたい。


「……そう。とりあえず、真面目に戦う必要はない」

「と言うと――」

「おら! 行くぞ!」


 と、リッカから作戦を聞こうとしたそのとき、ガルア達が一斉に仕掛けて来た。


「――隙を見て森に行って」

「分かった」


 詳しい作戦の内容は聞けなかったが、時間がないからな。

 ひとまず、初動は指示通りに動いて、余裕のあるタイミングで詳しく話を聞くことにした。

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