episode101 迷惑なプレイヤー

 翌日、俺達は今日も朝からログインして、イベントエリアに向かっていた。


「とりあえず、昨日で四万ポイント近く集まったので、このペースなら問題ないな」

「……むしろ余る」


 イベント期間は五日間となっているが、初日は十五時から、六日目は十五時までという日程で、初日と最終日は短いからな。

 時間が短い初日に四万ポイント近く稼げたので、ペース的には余裕があるぐらいだった。


「……む? 人が集まっているな」


 と、ここでアイテムを販売しているギルド管理協会直営の店に視線を移してみると、そこにはプレイヤーが集まって人だかりができていた。


(話を聞き取りたいところだが、一斉に喋っているせいで聞き取りにくいな)


 話を聞き取って騒ぎの原因を探りたいところだったが、集まっている者が一斉に喋っているので、話を正確に聞き取ることは困難だった。


「……行く?」

「そうだな」


 ここから聞き取るよりも、直接聞いた方が早いし確実だからな。

 何かがあったことは間違いないし、有益な情報が得られる可能性もあるので、とりあえず、話を聞いてみることにした。


「少し良いか?」


 人が多い正面からは近付きづらいので、人が少ない横側から回って受付嬢に話し掛ける。


「何でしょう?」

「随分と賑やかだが、何かあったのか?」

「こちらで販売している一部の消費アイテムが売り切れまして、それを買いに来た方々からの苦情が来ている状態です」

「なるほどな」


 どうやら、消費アイテムを買いに来たプレイヤーが売り切れていることに対して文句を言っているらしい。


「状況を詳しく聞いても良いか?」

「分かりました。こちらでは運ばれた物資や納品されたアイテムを販売していますが、購入量が入荷量を上回ってしまい、現在一部のアイテムが売り切れてしまっている状態です」

「そうだったか」


 まあ東セントラル森林の攻略をするプレイヤーはこちらで活動するだろうからな。

 こちらの方が効率が良く、ウェスティア側で活動しているプレイヤーも多いと思われるので、売り切れてしまうのも仕方がないと言える。


「その説明はしたのか?」

「はい。ですが、事情を説明しても聞く耳を持たず、売り切れるはずがないだろうの一点張りで……」

「それは……面倒だな」


 システム的に売り切れないようにすることは可能だろうが、そうなっていない以上はどうしようもないからな。

 そのようなシステムになっている以上、アイテムが入荷されることはないので、NPCに文句を言ったところで意味はない。


「追放したらどうだ?」

「いえ、それだけの理由で追放するわけには行きませんので。今後も続くようであれば、検討しますが」

「そうか。仕事とは言え、面倒な奴に絡まれてそちらも大変だな」

「そうですね」


(それにしても、アイテムの売り切れか……そのあたりのことも考えながら動く必要がありそうだな)


 アイテムの補充に制限があることは分かっていたが、実際にそれが表面化しているからな。

 今のところはまだ手元にアイテムが残っているので何とかなるが、それがなくなったら補充する必要があるので、アイテムについてのことはきちんと考えておく必要がありそうだった。


「おい、今面倒な奴っつったか?」


 と、話が済んで行こうとしたそのとき、文句を言っていた男が俺に話し掛けてきた。


「……何だ? 何か用か?」

「面倒な奴っつったかって聞いてんだよ!」


 用件を尋ねると、男は威圧するようにそう言葉を返してくる。


「言ったが、それがどうかしたのか?」

「あ? 喧嘩売ってんのか?」

「いや、普通に客観的に見て妥当なことを言っただけだが?」


 誰がどう見ても迷惑だし、客観的に見ればその結論に至るからな。別に喧嘩を売る目的で言ったわけではない。


「と言うか、それでかくしているつもりか?」


 彼から伝わってくるのは安っぽさだけで、そこに威光はないからな。ユヅリハのような本物とは違うので、萎縮するようなことはない。


「こいつ……お前、やんのか?」

「喧嘩を売っているつもりはないと言っているが?」

「……さっきのはどう見ても挑発」

「悪いが、一対一で話をさせてくれるか?」


 リッカにそんな突っ込みを入れられるが、話がこじれて面倒なことになるからな。

 彼女には悪いが、少し黙っておいてもらうことにする。


「……おい。お前らも来い」


 男がそう言うと、文句を言っていた他の者達がこちらに近寄って来る。


「お前喧嘩売ってるだろ?」

「喧嘩なら買うぞ?」


 そして、こちらに対して文句を言ってきた。


「……同じギルドか。類は友を呼ぶとはよく言ったものだな」


 ここで彼らの情報を確認してみると、リーダーの男はガルアという名前で、彼らは全員同じギルドに所属するメンバーだった。

 サーバーはランダムとは言え、同じパーティは同じサーバーに送られるからな。

 人数的には二パーティ分の人数なので、たまたま同じサーバーになっただけのようだった。


「……受付嬢さん、もうこいつらは追放で良くないか?」

「できればそうしたいところですが、上の判断がないことにはどうにもできませんので」

「そうか」


 まあ一人の受付嬢の判断で追放するわけには行かないだろうからな。それも仕方がないことか。


「俺らが追放? ふざけてんのか?」

「いや、妥当だと思うが?」

「NPCに文句を言っただけだろ? 何か問題でもあんのか?」

「それが問題だと言っているのだが?」


 問題なのは誰が相手だったのかということではなく、その行動だからな。その主張では言い訳にならない。


「お前はNPC如きに何を言ってるんだ?」

「……お前はNPCと話をしてみて、何も思わなかったのか?」


 NPCだからと見下しているようだが、このゲームのNPCは非常に高度なAIを備えていて、人間とほとんど変わらないレベルだからな。そう馬鹿にできるようなものではない。


「……こういう奴は誰に対しても同じ。まともに会話できると思わない方が良い」

「まあそれもそうか」


 リッカの言うように、まともに話が通じる人間であればこうなってはいないだろうからな。話をするだけ無駄だったか。


「おい、聞こえてるぞ!」

「っ――!」


 リッカはガルアの大声で驚いたのか、俺の後ろにさっと隠れてしまう。


「……そんなに驚くな。俺がいる」

「ん……」


 リッカはそれを聞いて安心したのか、俺の腕に抱き付いてきた。


「全く……独り立ちにはまだ時間が掛かりそうだな」


 そのまま俺は尻尾の先端でリッカの頭を優しく撫でる。


(尻尾も自在に動かせるのは不思議なものだな)


 尻尾は人間にはない部位だが、思った通りに動かせるからな。

 どういうシステムになっているのかは分からないが、本来ないはずのものが元々自分のものであったかのように自由に動かせるのは、少し不思議なものだった。


「……む?」


 と、そんなことをしていると、ガルア達は恨めしそうにこちらのことを睨み付けてきていた。


「ん……」


 だが、その様子を見たリッカは抱き付く力を強めて、彼らに対してわざとらしく仲の良い様を見せ付けた。


「おい! お前わざとやってるだろ! 完全に喧嘩売ってんな!」


 すると、案の定その様子を見たガルアは逆上してしまった。


「……リッカ、話をややこしくしないでくれるか?」

「おい! 決闘だ! ぶっ殺してやる!」

「ほら、話にならないだろう?」

「……最初から話になってない」

「まあそれはそうだが……もう良いか」


 リッカの言うように、話になっていないという状況自体は変わっていないからな。

 もうあれこれ言うのも面倒なので、このまま話を続けることにした。


「おい! 聞いてんのか⁉ 決闘しろ!」

「そんなものを受けるわけがないだろう? 俺に何のメリットがある?」


 闘都コロッセオスまで行くのも面倒だし、そもそも決闘を受けるメリットもないからな。当然その答えはノーだ。


「おい、逃げんのか?」

「弱腰の雑魚が!」


 しかし、それを聞いた他のメンバー達が安い文句で挑発してきた。


「……受付嬢さん、こいつらの追放を進言しておいてくれるか?」


 だが、そんな安い挑発に乗る俺ではない。上に報告して彼らを追放するよう、受付嬢に建議しておく。


「言われるまでもなくそうするつもりです」


 まあこれだけ暴れているわけだからな。制裁対象になるのは当然で、わざわざ俺が言うまでもなかったか。


「は? ふざけんな!」


 だが、それを聞いたガルアは受付嬢に突って掛かった。


「それ以上暴れるようであれば即座に追放します。分かりましたか?」

「できるもんならやってみろよ!」


 受付嬢は最終警告するが、ガルアは上を通さないと追放処分にできないことを良いことに、さらに暴れ回る。


「……分かりました。それでは、一定時間の参加禁止と、警告処分とさせていただきます」


 受付嬢はこれ以上言っても無駄だと悟ってため息をつくと、近くにいた警備の兵士二人に目線でサインを送る。

 すると、その兵士達はガルアを暴れないようにしっかりと捕まえて、どこかに連れ去って行った。


「は……? おい、何をした⁉」

「聞いていませんでしたか? ペナルティとして、彼を一定時間、参加禁止にしました」

「お前は上の判断がないと追放できないつってただろ! 騙したな!」

「私の独断でできないのはあくまでも完全な追放で、ペナルティの付与ができないとは言っていません」


 男達は文句を言うが、受付嬢はそれに然として対応する。

 まあ確かに、ペナルティの付与ができないとは言っていないからな。ペナルティの存在自体を知らされていないと言えばそうなるのだが、完全に自業自得なので、同情の余地はない。


「早く行ってくださいますか? あなた方にもペナルティを与えますよ?」

「チッ……覚えてろよ!」


 そして、受付嬢が警告すると、男達は絵に描いたような悪党のように捨てゼリフを残して、駆け足で去って行った。


「そう言われても、リーダー以外は名前すらまともに確認していないが……まあどうでも良いか」


 どうせもう会うこともないだろうからな。覚える必要も価値もないので、特に気にしないことにする。


「……あなた方の実力であれば問題ないかもしれませんが、仕返しに来る可能性もありますので、お気を付けください」

「ああ、気を付けておこう。では、行くか」

「……うん」


 余計なことで時間を取られてしまったが、これでここはもう大丈夫そうだからな。事は片付いたので、さっさと木材集めに出発することにした。

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