episode98 木材の採取へ!

「……さて、着いたな」


 それから採取ポイントに向けて移動した俺達は無事に採取ポイントに到着していた。


「とりあえず、ここまでは楽勝だったけど、問題はここからだね」

「そうだな」


 ここまではこれまで通りにリッカがほとんど片付けていたが、採取ポイント近くの敵は強めに設定されているらしいからな。

 ここからの敵は今まで通りには行かない可能性があるので、警戒する必要がありそうだった。


「この先は森のようだな」


 ここでマップを見て確認してみると、この先は東セントラル森林となっていて、森が広がっていた。


「って言うか、ここの木じゃないとダメなの? 平原にも木はあったよね?」

「NPCの話によると、ここで採れる丈夫な木でなければ、橋の素材として適さないということらしいぞ」


 そこは俺も少し気になって、イベント前にNPCに聞いてみたのだが、東セントラル平原で手に入る木材で橋の素材として適すのは、この森で手に入る物だけとのことだった。


「そうなんだ。別のところから木材を運び込むことはしないんだね」

「現地に近い場所で素材を集める方が手間が掛からないと判断したのではないか? まあ実際のところがどうなのかは知らないが」


 所詮はゲームのイベントだからな。そこまで細かいことは考えられていないという可能性も考えられた。


(まあこれまでのことから察するに、きちんと組み込まれたものなような気はするがな)


 このゲームはそのあたりのことも割ときちんとしているからな。そういったことも考えられているものだと思われた。


「まあその話は良いや。とりあえず、伐採できる木を見付けて木材を手に入れよっか」

「そうだな」


 この辺りには対象となる木がないようだからな。対象となる木は奥の方にあると思われるので、このまま森に入ってみることにした。


「では、行くか」

「……うん」

「だね」


 そして、そんな話をしながら俺達は東セントラル森林に足を踏み入れた。


「ふむ、森というので暗いかと思っていたが……思っていたよりも明るいな」


 森は木々に覆われて鬱蒼うっそうとしているかと思ったが、空を覆い尽くすほど繫茂しているわけではないので、昼であれば木漏れ日によって十分な明るさが確保されるであろう森だった。

 まあ今は夜で日は当たっていないので木漏れ日は関係ないが、ゲーム側の明るさの補正のおかげで、森の外とそんなに明るさは変わらなかった。


「だねー。他のプレイヤーもいないし、静かかと思ったけど……そんなことはなさそうだね」


 また、昼には木漏れ日が差し込んで、小鳥のさえずりが聞こえる静かな森なのかと思いきや、あちこちから何者かの気配を感じさせる、物騒な印象を受ける森だった。


「そうだな。どこからモンスターが現れるか分からないので、固まって慎重に行くぞ」

「分かったよ」


 茂みからモンスターが飛び出して来て、いきなり戦闘になる可能性があるからな。

 ここはどの方向から来られても対応できるように、ある程度固まって動くことにした。


「……いる」


 と、それから周囲を警戒しながら進んでいると、先頭にいたリッカがそう言って立ち止まった。


「……そこの茂みか」


 リッカが見ていた方向を見てみると、そこにあった茂みが不自然な動きを見せていた。

 どうやら、あの茂みにモンスターが潜んでいるらしい。


「先制攻撃をした方が良いか?」

「……うん」

「分かった。クオン、準備は良いか?」

「うん。いつでも行けるよ」

「では、範囲攻撃で仕掛けるぞ」


 敵の正確な位置が分かっていないからな。ここは範囲攻撃で先制攻撃を仕掛けることにした。


「分かったよ。それじゃあ行くよ! 『デフュージョンアロー』!」

「『バレッジブレード』」


 クオンは『デフュージョンアロー』という、大量の矢を拡散させるように飛ばして広範囲の敵にダメージを与えるスキルで、俺は『バレッジブレード』で先制攻撃を仕掛ける。


「キュッ⁉」


 すると、茂みからそんな鳴き声と共にモンスターが飛び出して来た。


「ホーンラビット……いや、ドリルラビット……?」


 飛び出して来たモンスターはドリルラビットという角の生えた兎のモンスターだった。

 その見た目はホーンラビットと似ているが、体毛や角の色が違っていて、見たところホーンラビットの上位のモンスターのようだった。


「……仕留める。『抜刀剣閃』」

「キュッ⁉」


 最初に仕掛けたのはリッカだった。彼女は『抜刀剣閃』という、魔力の刃でリーチを伸ばした抜刀攻撃で攻撃を仕掛ける。


(斬撃の射程は三メートルほどか)


 その斬撃の射程は三メートルほどで、三体のドリルラビットをまとめて攻撃していた。


「俺達もやるか。『マテリアルブレード』」

「『パワーショット』!」


 俺達は距離を取って、離れた位置からリッカを援護する。


「キュッ!」

「……む?」


 と、ここで一体のドリルラビットが俺の方を向いて、姿勢を低くして構えを取っていた。


(溜め攻撃か?)


 動きが完全に止まっているからな。何かしらの溜め攻撃だと思われた。


「――させない。『抜刀神速』」

「キュッ!」


 ここでリッカは前方に移動しながら攻撃するスキルで、二体のドリルラビットの攻撃を躱しながら攻撃するが、溜め動作に入っているドリルラビットはその攻撃で怯むことはなく、攻撃がキャンセルされることはなかった。


(溜め動作で付与される怯み耐性で怯まなかったか)


 リッカの話によると、一部のスキルの溜め動作中は怯み耐性が付与されるらしいからな。

 その耐性によってドリルラビットは怯まなかったらしい。


「キューーッ!」


 そして、溜めを終えたドリルラビットはその角をこちらに向けて、俺に向かって高速で飛び掛かって来た。


「っ――!」


 俺はタイミングを合わせて横に跳ぶことで攻撃を躱そうとするが、その速度は想定以上で、躱し切ることはできなかった。

 体当たりを受けてしまった俺はそのまま吹き飛ばされてしまう。


(何とか直撃は避けたか)


 だが、その攻撃が来ることは何となく予想ができていて、素早く対応することができたので、角に貫かれることはなかった。


「シャム! 大丈夫⁉」

「こちらは一人で対処する! 援護を優先してくれ!」


 こちらは一人で対処できそうだからな。クオンには引き続きリッカの援護をしてもらうことにする。


「分かったよ!」

「『マテリアルウォール』!」

「キュッ⁉」


 ここで俺は『マテリアルウォール』でドリルラビットの真下から壁を展開することで、敵を打ち上げつつ他の二体に攻撃されないように備えた。


「『物質圧縮』プラス『マテリアルバスター』」


 そのまま『物質圧縮』で強化した『マテリアルバスター』で大剣を構える。


「はぁっ!」


 そして、落下して来たドリルラビットに向けて、大剣を斜め上に振り上げた。


「キューーッ……」


 ドリルラビットはその一撃でHPがゼロになって、力なく吹き飛んで行く。


(リッカの方は……大丈夫そうだな)


 ここで俺は壁から覗くようにして二人の様子を見てみるが、戦闘の方は順調で、もう少しで戦闘が終わりそうだった。


「……これで終わりだな。『マテリアルブレード』」

「『パワーショット』!」

「――『抜刀一閃』」


 そして、最後に三人で同時に攻撃して、残った二体のドリルラビットにトドメを刺した。


「ふぅ……何とか片付いたが、そこそこ硬いな」


 何とか倒すことができたが、敵が想定以上に硬く、思っていた以上に難易度が高そうだった。


「……ドラガリア荒野より若干難易度高め?」

「まあそんな感じはするな」


 ドラガリア荒野の敵と同じか、それよりも少し硬いといった感じだったからな。難易度的には大体そのぐらいだと思われた。


「って言うか、シャムはだいぶ危なかったよね? HP半分近く持って行かれてるし、角が刺さってたら即死だったんじゃない?」

「恐らくそうだっただろうな」


 角で刺されなかったにも関わらず、あのダメージだからな。

 直撃していればほぼ間違いなく即死だったので、油断するとあっという間にやられてしまいそうだった。


 ちなみにだが、木材を採取してからわざと死亡してウェスティアに一瞬で戻るということができないように、死亡すると木材をロストするようになっているので、死亡するとかなりのロスになる。

 なので、死亡だけは何としても避けたかった。


「ホーンラビットも初心者殺しって言われてるし、こっちもこっちでヤバそうな感じだよね」

「……ディーラーなら一撃で溶ける」

「そうだな」


 タンクなら受けられるだろうが、防御力の低いアタッカーだと即死する火力だろうからな。

 俺達にできることは即死しないように気を付けることぐらいだった。


 ちなみに、ホーンラビットが初心者殺しと呼ばれている理由は、その名の通りに初心者がこのモンスターにやられることが多いからだ。

 まあ序盤である西セントラル平原で出現する、すばしっこいので対応が難しい、小柄なので攻撃が当てにくい、角での攻撃の威力がかなり高く設定されているなど、ゲームに慣れていない初心者には厳しい相手だからな。そうなることにも納得できる。


「とりあえず、回復を済ませたら行くか」

「そうだね」


 そして、無事にドリルラビットの討伐を終えた俺達は、ポーションで回復を済ませてから移動を再開したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る