episode96 根源解放

「さて、フィールドマップに出たは良いが、他のプレイヤーも多いな」

「だね」


 フィールドマップに出ると、俺達よりも先に準備が整って出発していたプレイヤーが、手当たり次第にモンスターを狩っていた。

 今回のイベントはサーバーが別れていて、プレイヤーが多い時間帯でもないはずだが、一斉に出発したのでかなり混雑しているようだった。


「それで、どうするの?」

「とりあえず、さっさと進んで人のいないところまで行くぞ」

「モンスターを狩ってポイントを稼がなくて良いの?」

「これだけ人がいると稼ぎづらいからな。ここだと効率が悪いし、狩りはまだ良い」


 これだけ人が集まっていると、狩りの効率が悪くなるからな。

 ここはプレイヤーが少ない場所にまでさっさと移動してしまうことにする。


「そもそも、狩りが効率が良いかどうかもまだ分からないからな。まずはそのあたりの調査が先だ」


 さらに言うと、まだ効率の良い貢献度ポイントの稼ぎ方も分かっていないからな。

 それを調べるためにも、できるだけ早く先に進んでしまいたかった。


(まあそうは言っても、イベントのコンセプト的に考えて、狩りの効率が良いとは思えないがな)


 物資をウェスティアに運んで、東セントラル大橋を直すというのが、今回のイベントのコンセプトになっているからな。

 狩りの効率が良いと、物資を運ばずに狩りを続けた方が良いということになってしまうので、物資を運んだ方が効率が良いように調整されている可能性が高かった。


「……同意見」

「分かったよ。それじゃあこのまま進もっか」

「ああ」


 そして、方針が決まったところで、俺達は狩りをするプレイヤーを尻目に奥に向かったのだった。



  ◇  ◇  ◇



「……人も減ったな」


 それから駆け足でしばらく移動すると、狩りをしていたプレイヤーを置き去りにして、人が少ない場所にまで来ることができていた。


「だね。って言うか、リッカ速くない?」

「まあ敏捷に特化しているからな。そんなものではないか?」


 リッカは敏捷に特化している上に、装備品の重量も極限まで抑えているからな。

 それに加えて、装備品にスタミナ消費量を軽減する効果も付与されているので、移動に関しては彼女が圧倒的に速かった。


「ふーん……敏捷に特化すれば、ちょっとは速くなるんだね。でも、特化してもそのぐらいかぁ……」

「……普通の人にも目に見えるぐらいに速くなってるし、大違い。対戦アクションゲームやったことないの?」


 クオンのそんな呟きに対して、リッカはこちらを振り返って反論と言わんばかりに言葉を返す。


「あるよ! ゲーム実況者として色々とやってるし、『スマファイ』とかならやったことあるよ!」

「……浅く、広く?」

「それはまあ……仕方ないじゃん? でも、再生数が取れるならシリーズ化するし、そこそこやってるゲームもあるよ!」

「……そう」


 リッカはそれだけ言うと、興味を失ったのか正面を向き直す。


「……何か冷たくない?」

「いや、いつもこんなものだぞ。本人にそういうつもりはないはずなので、そこは多目に見てやってくれ」


 普段からこんな感じだからな。これがデフォルトなので、そこは納得してくれとしか言えない。


「……分かったよ」

「……気分を害したのであれば謝ろう。悪い」

「いや、大丈夫だよ」

「そうか。それなら良いが」


 とりあえず、怒ってはいないようなので、そこは大丈夫そうだった。


「ところで、シャムは何かあったの?」

「いや、『スマファイ』と聞いて、珍しくリッカが喜んでいたことがあったことを思い出しただけだ」

「そうなの?」

「ああ。大会で優勝したときにな」


 『スマファイ』というのは、『大乱戦スマッシュファイターズ』という人気シリーズのゲームのことだ。

 リッカはそのゲームの大会で優勝したことがあったからな。あまり態度には出していなかったが、それで喜んでいたのを思い出しただけだ。


「え⁉ それって、凄くない⁉ ……あれ? 言われてみると、リッカっていう名前は聞いたことがあるような……」

「……敵」


 と、そんな話をしていたところで、真正面の方向にモンスターを発見したリッカが報告を飛ばして来た。


「ふむ、敵はラージベア一体だけか」


 そこにいたのはラージベアというモンスターだった。

 このモンスターはその名の通り熊のモンスターで、群れることがなく単体で行動する代わりに、ステータスが高く設定されている。

 まあステータスが高いとは言っても、このモンスターが出現するエリアはコスタル平野と同じ程度の難易度なので、今の俺達の敵ではないのだがな。


「……任せて」


 と、他に敵がいないことを確認したリッカは一人で仕掛けようとしていた。


「俺達が先制攻撃を仕掛けようか?」

「……いや、試したいことがある」

「……分かった。あいつのことは任せよう」


 あの程度のモンスターならリッカ一人で簡単に倒せるだろうからな。

 何やらやりたいことがあるようなので、ここは彼女に任せることにした。


「……うん。『根源解放』」


 リッカはスキルを起動すると、少し緑がかった風のようなオーラをまとう。


「――はっ!」


 そして、これまでに見たことがないほどの速度でラージベアに接近すると、そのまま抜刀攻撃からの連続攻撃であっという間に倒してしまった。


「……終わった」


 一瞬でラージベアを倒したリッカはそのままこちらに戻って来る。


「……? どうしたの?」


 だが、きょとんとしている俺達の様子を見て不思議に思ったのか、首を傾げながらそんなことを聞いて来た。


「……いや、想定外の速度で驚いただけだ」

「……そう」

「そんなスキルいつ覚えたんだ?」

「……最近」

「そうか。詳細を確認しても良いか?」

「……うん」


 聞いたことのないスキルだからな。ひとまず、詳細を確認してみることにした。



━━━━━━━━━━


【根源解放】

 試練を乗り越えた者が見せる覚醒した力。

 秘められた力を解放して、一定時間オーラをまとう。

 効果は使用者によって変化する。


【根源解放・リッカ】

 秘められた力を解放することで、一定時間オーラをまとって、その間以下の効果を得る。

 〇物理攻撃力と敏捷が上昇する。この効果は攻撃を当てるたびに効果が上昇して、最大で三十段階まで効果が上昇する。

 〇スタミナ消費量が減少する。

 キャストタイム:1秒

 クールタイム:1時間


━━━━━━━━━━



「効果は使用者によって変化する……?」


 確認してみると、その効果は使用者によって変化するという特殊なもので、リッカの場合だと高速アタッカーに相応しい効果になっていた。


「うーん……初めて見るね。見た感じだと、その人に合った効果になるのかな?」

「そうだろうな」


 見事なまでにリッカにぴったりの効果になっているからな。

 そのプレイヤーのスタイルが影響して効果が決定される可能性が高かった。


「と言うか、ここで使って良かったのか?」


 クールタイムは一時間と非常に長いからな。後のことを考えて温存しなくても良かったのかと確認する。


「……どうせ木材採取まで使わない」

「まあそれもそうか」


 この様子だと、物資の運搬のタイミングでは使いそうにないからな。

 使用感も分からない状態でいきなり本番を迎えるのもアレなので、ここで試しに使ってみるのも悪くなかったか。


「とりあえず、この調子なら余裕そうだし、ウェスティアまではぱぱっと行っちゃおっか」

「そうだな」


 そして、その後も適当に出会った敵を倒しながら、真っ直ぐとウェスティアに向かったのだった。

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